Hatena::Groupneo

“ぼ”うそうする“そ”うぞう このページをアンテナに追加 RSSフィード

2008-01-21

Kiss

| Kiss - “ぼ”うそうする“そ”うぞう を含むブックマーク はてなブックマーク - Kiss - “ぼ”うそうする“そ”うぞう

 彼は、もう随分と長いこと彼女に恋をしていた。彼にとっては彼女が全てだった。彼女が笑えば彼も笑い、彼女が泣けば彼も泣いた。それ程深く彼女を愛していた。
 彼女も勿論、長いこと彼に恋をしていた。彼女にとっても彼が全てだった。彼が笑えば彼女も笑い、彼が泣けば彼女も泣いた。それ程深く彼を愛していた。

 この世に生まれ落ちた瞬間に彼等は出会い、そして恋をした。他の何人も彼等の目に入ることはなかった。入る必要もなかった。彼がいて、彼女がいる。それだけでよかった。それだけが真実だった。
 だから彼等はいつも一緒にいた。片時も離れることはなかった。仮に離れたとしても、彼等の心は完全に通じ合っていた。喜びも怒りも悲しみも、ありとあらゆる感情と感動を彼等は共有した。

 しかし、そんなに愛し合っているにも拘らず、彼はその手で愛しい彼女の髪に触れたこともなかったし、彼女はその躰を暖かい彼の胸にあずけたこともなかった。
 何故なら、お互いにお互いが『向こう側』の人だったから。決して行くことのできない『向こう側』に、愛しい人はいるのだから。
 そのことを思い出す度、彼等の頬には涙がつたった。彼等はいつも二人で泣いた。彼女が泣けば彼も泣き、彼が泣けば彼女も泣いた。

 ひとしきり泣いた後、彼等は必ずKissをした。永遠に変わらぬ、真実の愛を込めて、冷たいガラス越しのKissを。


 鉄格子に囲まれた薄暗い病室の中で、独りぼっちの患者が、鏡にそっとKissをした。


1993年8月執筆>

Love Scene

| Love Scene - “ぼ”うそうする“そ”うぞう を含むブックマーク はてなブックマーク - Love Scene - “ぼ”うそうする“そ”うぞう

「三日月って、切れ味がよさそうじゃない?」
 君が突然奇妙なことを言い出すのはいつものことなので、僕は別段驚きもしなかった。ブランケットからはみだした裸の肩を抱き寄せる。
「三日月って、あの、空にある?」
「そう。伸ばしすぎた爪が刺さった傷みたいな。」
「ずいぶんと痛そうな喩えだね。」
「痛いのよ。私みたいに薄い爪だと、ふとしたことで刺してしまうの。」
 君の首筋に顔をうずめて息を吸うと、甘い体臭に混じってかすかにシャンプーの香りがした。
「三日月なら痛みはないでしょうね。綺麗な傷は痛くないから。血も出ないかもしれないわ。」
ダース・ベーダーに斬られたルーク・スカイウォーカーの腕みたいに?」
「ああ、そんな感じね。でもあなた、その喩えは古すぎるわよ。」
 腰の曲線をそっと指でなぞると、君は逃げるように身をよじった。
「切り口はきっと滑らかな水面の様。ぎんつきいろに輝いているの。」
「ぎんつきいろ?どんな色だい?」
「銀の月の色よ。」
「聞いたことがない。」
「そうでしょうね。今、作ったんだもの。」
 お返しとばかりに君が僕の肩を噛む。 少し尖った犬歯の先端を感じた。
「銀月色の切り口には、斬った人間の顔が映るわ。水鏡と同じね。」
「被害者の傷に映る加害者か。シュールだね。」
「そうね。・・・・ダメよ。」
 なだらかな乳房に口づけしようとした僕の頭を、君の手のひらが優しく押し返した。
「映る私の顔はやっぱり歪んでいるのかしら。」
「殺意に?」
「いいえ。快楽に。」
 君の手をとり、指先を少し舐める。
「それで?君は三日月で誰を斬るんだい?」
「そうねぇ……」
 君は両腕を僕の首にまわし、猫のようなキスをした。
「───あの女。」
 君の声が床一面に広がった。

 部屋を出た僕はふと左腕の内側に痛みを感じ、ワイシャツをまくり上げてみた。
 青白い肉に刻まれていたのは、小さな紅い三日月。


<2001年6月執筆>

珈琲寓話

| 珈琲寓話 - “ぼ”うそうする“そ”うぞう を含むブックマーク はてなブックマーク - 珈琲寓話 - “ぼ”うそうする“そ”うぞう

 あなたはとてもクールな人だった。
 私と会っていても、時間が来るとさっさと帰ってしまう。ためらいもせずに。
 ううん。別に、私といてもつまらないのかしらとか、そんなことを考えたことはなかったわ。あなたの想いは穏やかに凪いだ海のように優しくて。それは信じていたから。
 でも、だから余計に寂しかったの。
 私がわざわざドリップでレギュラーコーヒーをいれるようになったのはどうしてかわかる?
 帰る間際に必ずコーヒーを飲んでいくあなた。じっくり時間をかけてぽたぽたと落ちるコーヒーを見つめているあの優しい時間、一緒にいられるのが嬉しかったのよ。
 そして、悪知恵の働く私はすこぉし熱めのお湯でコーヒーをいれるの。
 ブラックが好きなくせに猫舌なあなたはミルクで温度を下げることもできなくて。ゆっくりゆっくり、味を確かめるようにして飲むのよね。その間もまた、一緒にいられた・・・。

 それから、いろんな種類の豆を買ってきて飲み比べたわね。スーパーに入ってるコーヒー店の銘柄全部制覇、なんてこともやったわ。二人とも味そのものには特別こだわりがなかったからできたことよね。
 それに私たちには、時間だけはたっぷりあったから。夜中二人で、珍しい豆を置いてるお店をネットで調べてリストにして。翌日は丸一日かけてお店を全部回るの。毎回が小旅行みたいですごく楽しかった。
 私のコーヒーについての知識は、あの時期に築かれたのかも。だってあなた、単純に種類をそろえることにしか興味がなかったでしょう?その豆の産地とか、味とか。全然知ろうともしないんだもの。全部私が調べてた。せっかく遠くまで出掛けて豆を手に入れて、一生懸命その豆に合った方法で入れたコーヒーも、一瞬にして飲んじゃうし。コーヒーはあんなふうに、グビグビ飲むものじゃないのよ?

 そうそう。一時期、珈琲館の炭焼き珈琲しか飲めない時期があったわね。お店で豆を買ってきて。
 悪くはないんだけど、やっぱりチェーン店の味って感じ。もっと美味しい豆が私の家にはあったのに。
 しょうがないわよね。違うコーヒーの匂いがついたら奥さんに気付かれる、なんて言われちゃあ・・・・。
 でもそのくせ、私が吸う煙草の匂いには無頓着だった。どうしてかしらね?ほんとはコーヒーの味なんて、わかっちゃいなかったのかしら。

 そのころは自分でも、ずいぶんコーヒーにハマってきてるって自覚してた。だけどドリップで十分だと思ってたのよ。個人で飲む分にはね。
 それなのにあなたったら、私以上にハマっちゃって。サイフォンだってきっと、あなたが試したいって言わなかったら手を出してなかったわ。
 ほんと、すごいハマりっぷりだったわよね。職人か?って言うくらい。コーヒーの香りが消えるからって、私に煙草を吸わせてくれなかった。
 だけど・・・コーヒーには砂糖とミルクをたっぷりいれないと飲めなかったわね、あなた。
 それって意味ないんじゃない?

 「・・・・・で?男の数だけコーヒーそろえたら収拾がつかなくなって喫茶店開いたって訳?」
 私は半ばあきれ顔で、正面の親友の顔を見た。
 昔ながらの喫茶店のカウンターにおさまった親友は、昔からコロコロと男を変えるので有名だった娘。悪意の目で見られることも多かったが、そのどれもが真剣だったことを知っている私にとっては、彼女のチャームポイントの一つでしかない。
 にしてもねぇ。
「うん。豆の種類もそうだけど、同じ豆でも入れ方によって味が変わったり、いろいろあって。彼が喜んでくれるように、っていろんなバリエーションを試行錯誤してたらなんか楽しくなっちゃったのよね。」
「へぇぇ・・・。」
 確かに私の前に置かれたコーヒーは、苦味・酸味・温度ともに私の好みにぴったりだ。詳しくオーダーしていないにもかかわらず。多分この娘は、客のその日の体調によってまで味を変えるだろう。そういう娘だ。
「じゃあ、今の彼はどんなコーヒーが好きなの?」
 そうきくと、彼女は少し困ったような笑顔を浮かべた。
「それがね。今の彼は、紅茶党なの・・・。」
 そういった彼女の背後では、コーヒー豆の容器の脇に隠れるように、7つの紅茶葉の缶が並んでいた。


<2001年8月執筆>

2008-01-18

準備中。

| 準備中。 - “ぼ”うそうする“そ”うぞう を含むブックマーク はてなブックマーク - 準備中。 - “ぼ”うそうする“そ”うぞう

今しばらくお待ち下さい。