東邪西毒

2013-03-03彼方

≪鴨屋耳袋≫【ネオ青髭】

その昔21世紀、広大なネットの外れに一人の貧しい情報弱者(こさくのう)がいて、その男にはアバターの娘が3体ありました。ある日、彼の家に見知らぬ初訪問者があり、娘たちのうち、誰か一人を嫁にもらいたいと告げました。男のプロフィールの画像からは彼が、見かけは恐ろしげではあるももの、身なりが大変豪華でアクセサリーは皆SSレアのアイテムだということが見て取れましたので、情弱は訝しがりつつも長女アバターを嫁にやることにしました。

長女は男に連れられてアプリ『青髭のドキ☆ドキ★キャッスル』にログイン。男がホームグラウンドに着いた早々に新妻に言うには自分は別のアプリの用事がある故、ここを留守にするが、自分のコレクションを好きにトレードしてよいし、無料ガチャチケもボーナスのガチャチケもいくらでも使ってよい。ただし、ただ一つ、アプリの最下層にある有料ガチャだけはひいてはいけないよ、とのこと。男が出て行ってから、新妻は大人しく近所に友達申請を送ったり、公式掲示板でトレードをしたり、無料ガチャを回したりなどしていたが、そのうち物足りなくなってきてしまって、とうとう有料ガチャに手を出してしまった。

そうしてひいてきたSレアカードをノーマルカードとのトレードを装ってこっそり男のアカウントから自分のアカウントに移した。トレード履歴だけ見れば分からないと思ったのだ。

そのうちに男が帰ってきて妻に問うた。

『有料ガチャを回さなかっただろうな』『はい、回していません』

しかし、男はアカウントのトレード履歴だけでなく、クレカでの支払い履歴まで閲覧したため、妻の嘘に即座に気づいてしまった。

そこで残酷にも妻のアバターをばらばらにし、パーツ単位に分解してしまった。

男は次の日、ネットの外れに戻り、こう言った。

『長女さんは誠に遺憾なことにアプリの不具合によりデータが消滅しました。しかし、公式から修正パッチがあたったので今後は大丈夫かと思います。そういうわけですので、妹さんのどちらかを妻にください』

そうして、次女を新たな妻に迎えた男は、またホームグラウンドにもどり、次の新妻にも同じように申し渡した。

次女は長女よりも長く言いつけに従っていたが、やはり誘惑にあらがいきれずに、有料ガチャを回してしまった。

帰ってきた男に次女もまたしらをきったが、男はまたしても履歴を眺めて妻の嘘を確信し、次女はメガバイト単位に切り刻まれた。

男はみたび、ネットの外れに赴いて言いました。

『次女さんはサーバーダウンにより帰らぬ人となりました。かくなる上は妹さんを妻に迎え、お姉さんたちの分まで幸せにして差し上げたい』

娘たちのオーナーはさすがに不審がりましたが、多額のPt分譲に目がくらみ、末の娘を男の嫁にやってしまいました。

そしてまた男は末の娘とホームグラウンドに戻ると、末の娘に姉たちと同じように言って聞かせ、一人ログアウトしてゆきました。

一人残された娘のもとに、彼女が親切にしてやった小鳥たちが舞い降りて警告します。

小鳥たちは『特定商取引法に基づく表示』をひとしきり歌い上げて、こう続けます。

『♪一度回せば、廃課金、哀れ、青髭のジャンク箱行き!』

しかし、娘は果敢にも有料ガチャへと猛ダッシュをキめ、ガチャを回し、回し、回し続け、瞬く間に月額上限課金を越し、アラームが入ったところを後ろから急いで帰ってきた夫に取り押さえられました。彼女の末路については多くを語れません。

こうして三姉妹は全滅しました。

そして、その後も多くのアバターがこの男、ハンドルネーム『青髭』の毒牙にかかりましたが、本来彼は断捨離できないタイプのヒトであったため、死んだ妻たちの膨大なデータをその後も蓄積し続け、運営からサーバー負荷の廉でBANされました。

めでたし、めでたし。