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2006-04-16

ねぶぅ(その2)

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承前

「ねえ、ばあちゃん。ばあちゃんったら。はやくねぶぅの話してよ。」

「そうかい。そんなに聴きたいかい。そんならひとつはじめるとするかね。そこにお座り。」

「うん。」

「ええっと、どこまで話したっけね。」

「男がねぶぅに噛み付かれたとこだよ。はやくはやく。」

「おお、そうそう。ねぶぅは男に噛み付いたんだ。その日男は村に帰ってこなかった。次の日になっても、そのまた次の日になっても帰ってこなかったんだ。そのことがあってから余計に人々はねぶぅの山に近づくのを避けるようになった。しばらくすると村の人たちはその男のことなんか忘れてしまった。薄情なもんさね。まあみんなその日を暮らすことで精一杯だったのさ。

ところがある夜、一人の村人が畑のほうから物音を聞いたんだ。気のせいかとも思った、でも確かに聞こえたのさ。行ってみると、そこには月明かりに映る一つの影が見えた。遠くからでも良くわかるその形は、聞いていたねぶぅの姿そのままだった。ひっと叫び声をあげてしまった男をねぶぅは振り返った。大きな大きな黒い目で。その顔はひどく悲しそうに見えたそうな。もちろん男の気のせいかもしれないんだけどね。しばらくねぶぅと男は微動だにせず、見詰め合っていたんだよ。男は腰が抜けて動けなかったし、ねぶぅもなぜか悲しそうな顔のまま立っていたのさ。そのまま何分経った頃だろうねぇ、いや、何時間だったのかもしれないねぇ、急にねぶぅは飛び立って、山へ帰っていったのさ。

男が我に返ると着物は汗でびっしょりだった。息も絶え絶えになりつつも、ねぶぅの立っていた場所を見に行ったらそこに一本のナタが落ちていたんだ。それはあの男、そう、ねぶぅの山へ行ったきり戻ってこない男のナタだった。」

「えっ。じゃあそのねぶぅって……。」

「勘付いたかい。村の人たちも同じことを考えた。つまりあの男、名前は太郎とでもしとこうかい、太郎はねぶぅになってしまったんじゃないかってね。村人はこの問題をめぐって二つに割れた。太郎を探すべきだという人たちと、山に入ってはならないといい続ける人たちさ。太郎を探そうといった人は若い者が多かった。その中には、なんとねぶぅに憧れている者もいたんだ。唯一ねぶぅを見た男がその中心になっていた。ねぶぅの大きさたくましさに魅了されたんだろうねえ。翼があればどこへもいける。大きな耳で何でも聞こえる。大きな目で何でも見える。毎日毎日同じ暮らしの彼らにとっちゃあ、それは何か素晴らしいものに見えたのさ。あんたは、どう思う。ねぶぅになりたいかい。」

「え。うーん……わかんない。」

「それじゃあ今日の話はここまでだ。一晩ゆっくり考えるんだね。」

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