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2007-06-24

『エアライン』第2回

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(承前)

自然な姿勢で見ていたからだろうか、少しバランスを崩してしまい2,3回滑車を回す。なんとか態勢を立て直し、もう一度その数字を見ると「230486794」になっていた。するとこれは、回転すると増えるらしい。僕は、嬉しかった。ここに僕が進んでいることを証明するものがあったのだ。雲などという不確かなものを頼りにしなくても僕は僕が進んでいることを信じられる。もちろん自分で滑車を回しているのだから僕が進んでいることは僕がよく知っているのだけれど、こうやって身近に分かりやすい形で現れているというのはなんとも心強いことだと思った。僕の今は「230486794」だ。いつも同じ視界にいる僕の唯一の変化とそして現状を保障する文字列。さあ、漕ごう。僕は変化しなくてはならない。

きいこきいこと滑車が軋る。僕は進む。なんと心強いのだろう。あんなちっぽけな文字列がこんなにも大きいなんて。相変わらず疲れは感じない、どころか活力が出てくるようだ。漕ぐのにも慣れたし、僕を止めるものは何もない。

漕いで漕いで漕ぎ続けていると、視界の端に何かが見えた。あれは……線だ。僕の線とは別の線だ。遠くに、細く、でも確かに線がある。空と雲と僕の線以外のものが初めて見えた。見えたけれどもその線は遠すぎて、僕は何も出来ないし、やっぱり漕ぎ続けるのであった。

ずうっと漕ぐと、細かったその線がだんだんとはっきりして、いずれは完全に空を分割する境界線になった。その線は僕の右側上方から前方へと伸びていた。前を見ると、僕の線にだんだん近づいているようだった。それでもやっぱり僕には漕ぐことしかできないから、漕いだ。僕の線とその線で3分割されていた空は、いつの間にか交差した線により4分割になっていた。その交差点はまだ遠くにしか見えないけれど、そこにいけば一番近づけるわけだ。どうせ他には代わり映えのない景色しか見えないのだから、そこを目指して漕ぐことにしよう。

さっき見た交差点に近づくと、思ったよりも線どうしが上下に離れているらしいことが分かった。そして、見かけの交差点はまだ先のほうに移動している。これではあまり意味がないかもしれない。今の僕は「230875690」だ。ちょっと張り切って漕ぎすぎたかもしれない。線に近づけないとしても、それはそれで元に戻るだけだ。ペースを取り戻すことにしようか。しばらくはもう一本の線からそんなに離れることもなさそうだし、僕には、慌てる理由も、慌てない理由もないのだ。

漕ぎ続けていると、声がした。

「よう、兄弟」

つづく

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2007-01-20

『エアライン』第1回

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見渡す限り、空、空、空。限りなく深く爽やかな空色のなか、ところどころにぽこりぽこりと白雲浮かぶ。

足元を見下ろしても、空、空、空。

頭上を見上げても、空、空、空、そしてまっすぐ延びる一本の線。

視界に入るのはそれだけで、僕はその線にぶら下がっていた。

首を思い切り反らして真上を見れば、僕がどうやってぶら下がっているかが分かる。線の上には滑車のような円盤が乗っていて、線の下に少し隙間を空けてもう一つ円盤がある。二つの円盤はその中心どうしが連結されており、下の円盤の両面から伸びているクランク状の部品に僕はつかまっていた。

こういう部品を見れば、回したくなるのがサガってやつで、僕はその機械を漕ぐ。案の定前に進んだが、5、6回漕いだところでバランスを崩して線が大きく揺れた。

今ので分かった。僕はこの機械から手を離せば、足の方向へ落ちていくだろう。その先に何があるのか分からない。空以外何も見えない。

僕の思いついた選択肢は3つ。前に進むか、後ろに進むか、手を離すかだ。3番目の選択肢を選ぶのは抵抗があった。どこへ落ちるのか全く分からない。だから、僕は漕ぎ出した。とりあえず後へふた漕ぎ、み漕ぎ。前へ向かうより難しい。バランスを崩すのは嫌なので、前に進むことにする。

えっちらおっちら滑車を漕いで進んでいく。不思議なことにほとんど疲れない。漕ぐたびに滑車からキイキイと音がするのが心細くはあるけれど、まずは順調な滑り出しといえるだろう。

さて、漕ぎながら考える。僕は一体どこへ行く? 線から外れては自由に進むことはできないし、落ちるという選択肢は最後の最後まで取っておきたい。だけどあえて前へと進む理由は僕には無いのであった。改めて線を眺める。広い空を分割する一本の線。その端がどこに繋がっているのかは、線が長すぎて全く分からない。漕ぐたびにかすかに線が揺れるのを感じる。小さくゆっくりとした揺れではあるけれど。

どれだけ漕いでも空はずっと青空のままで変わらないけど、さっきまで前の方にあった真ん丸い雲がいつの間にか後方に見える。僕が前に進んでいることを証明してくれるのは雲たちだけだ。なんとも心細いけど、いてくれるだけありがたいと考えた方がいいのだろう。

もうどれだけ経ったか忘れた頃、さすがに漕ぐのにも飽きて手を止める。変わらない光景。なんとなしに上を見れば、線と滑車がある。思えばこの滑車が僕と線を繋ぐ命綱なのだ。もう少しよく見てみることにした。腕を曲げ、顔を滑車に近づける。シンプルな構造。二つの円盤と、動きを伝える連結部分。基本的にはそれだけだ。その時、右側面の連結部分になにか文字が書いてあるのを見つけた。書いてあるというよりも、浮かんでいる、という感じ。僕はその文字列を「230486791」と読んだ。

(つづく)

comnnocomcomnnocom2007/01/20 13:212000バイトぐらいずつ書くごとにアップするつもりでいます。

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