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2006-03-15

だじゃぐげん

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今日今日とて物理実験室。

授業も終わり、いつものように部活へやってきたんだ。がらりとドアを開けると、足元に違和感があった。見てみればそこには猫が丸まってすやすや眠っている。

「おいおい、どこから紛れ込んだんだ。」

といいつつ、珍しいことだからしゃがんで撫でてみる。ぐっすり眠っているのか、全く反応しない。自然と笑みがこぼれた。

そこへ突然耳障りな音。振り返ると、実験机から空き缶が落ちたみたいだった。まったく、実験室で飲み食いしたのは誰だよ。拾いにいくと、その隣にはみかんが一緒に落ちていた。季節はずれのみかん。手に取り立ち上がる。誰か先に来てるのか?

実験室を見渡す。

「……!!」

声にならない声なんて出したのは初めてかもしれない。だって普通驚くだろう、器具棚に布団が突っ込んでいたら。

おかしい。普段起こらないことが多すぎる。こんな日はあれを疑うべきだ。

あれって何かって? 先輩が来ていることをだ。


電話に出んわ!」


「ええっ!?」

じりりりりりり


思わぬ台詞に驚くと同時に、物理実験室の内線電話が鳴り響いた。どっちに反応すればいい? ええい、とりあえず近くにある電話からだ。電話に近づくと後ろから声。

「出ないでっ!」

準備室から先輩が出てきてそう言った。

「あー…… こっちで発生してたか。どうりで気づかないわけだ。」

教室を見渡してそんなことをのたまいやがる。電話は鳴り続けている。やはり先輩か。

「先輩がやったんすか?」

一応、一応聞いてみる。

「人聞きの悪い言い方だね。やったというか、なったというか。」

「先輩が原因なんですね。」

「完成したんだよ。」

「話を逸らさないでください。」

「駄洒落って好き?」

自分がやったことの後ろめたさはあるようだ。これ以上問い詰めても無駄か。

「駄洒落?」

「そう、駄洒落。んーたとえば『猫が寝込んだ』とか『アルミ缶の上にある、みかん』とかね。」

「で、『布団が吹っ飛んだ』ですか。」

そうだ、この部屋に起こっていた出来事はすべて駄洒落の状況そのものだったんだ。

「そう、飲み込みが早いね。さすがあたしの後輩。」

「先輩にはほとんど教えてもらってません。いつも来てないじゃないっすか。で、その幽霊部員が、どうして今日はいるんです?」

「いや、自宅で実験するとなると、いろいろ大変じゃない。」

学校でも大変ですよ! どうするんですか、この布団。あーあ、棚がへこんでるよ」

化学実験室だとガラスが多いからこっちにしたんだよ、だから大丈夫。」

「だから大丈夫じゃないって……」

「ねえ、こっち来て。」

準備室の前で手招きする先輩。満面の笑み。チクショウかわいい。

行ってみるとさまざまな場所からパイプが伸びた怪しい機械が……、というわけではなく、思った以上コンパクトな装置が。

「これ、なんですか」

聞いて欲しそうだったので聞いてやる。

「だじゃぐげん」

「え? なんですって?」

「駄洒落具現化装置。略してだじゃぐげん。」

「まんまっすね。」

「そう? いいネーミングだと思うけど。『ん』って不思議だよね、何に付けても名詞っぽくなるんだよ。」

「そんなことはどうでもいいです、ここのマイクに駄洒落を吹き込むとそれが具現化するって感じっすか。」

「なんでわかるの? もっと説明させてよ。まあ、その通りなんだけど。」

「原理は聞いてもわかんないので言わなくてもいいっす。」

「そんなんじゃ科学者とはいえないなあ。」

ちょっと不満げな顔をして、装置を調整し始める。

おれは柱にもたれて、先輩を見ている。しっかしほんとに楽しそうだな。

「なんで、こんなもの思いついたんです?」

「んー? 部屋でベッドにねっころがってて、布団が吹っ飛んだら面白いなって。」

ったく、この天才が。

「つめたーい あすふぁるとにひたーい をこすらせてきたーい はずれのあたしをせめた♪」

椎名林檎だ。こんな時に口ずさむ歌じゃねえだろう。あきれて頭を振ったら柱に軽くぶつけた。まったく。

実験室、先輩片しといてくださいよ。」

こらえきれずに言う。

「それ、わざと言ってるわけじゃないよね。」

笑いを噛み殺したような顔でそんなことを言う。

何を言ってんだこの人は、と思ったが、先輩が俺の隣の柱を指差している。見てみると、コンクリートのはずの柱が、一部だけアスファルトになっている。

「うそだろ。」

思わずつぶやく。さっきの椎名林檎か。確かに韻を踏んでいる歌詞だったけど。ってことは俺のさっきの台詞は、"言わされた"のか? いやいや。っていうか、コンクリートがアスファルトに変わっている方も一大事だ。これとんでもない装置じゃないのか。軍事的にも使えちゃうかも。

「よし、おっけ。わにが、わ……」

「うわあああっ!今なんて言おうとしました!?」

「え? わにが……」

「言わなくていいっす!スイッチ切ってください。」

俺が何を言いたいかわかってくれたようで、コンセントを引っこ抜く。

コンセントかよ。

「先輩、もう思いつきで発明はやめてくださいよ。」

「あたしに死ねって言ってるの?」

恐ろしく冷たい声。

「すいません。でも、迷惑かかってるのはわかってますよね。」

無言

「とりあえず、実験室片付けて帰りませんか。俺も手伝いますから。んで、帰り道にでも、原理とか詳しく聞かせてくださいよ。」

「ん、そだね。」


実験室を出ると、電話は鳴り止んでいた。

帰り道は、先輩の講演会だった。

一応、最後に実験は良く考えてくださいと釘を刺しておいた。

数日後、ニュースで「トリノで祝詞をあげる神主」が話題になるのだがそれはまた別の話だ。

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