とある理系男子の書斎には、どうしても小説が少ない。っていうか無い。

        いろいろやっていければと思います.
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2008-09-19

維持省 00:25 維持省 - とある理系男子の書斎には、どうしても小説が少ない。っていうか無い。 を含むブックマーク はてなブックマーク - 維持省 - とある理系男子の書斎には、どうしても小説が少ない。っていうか無い。 維持省 - とある理系男子の書斎には、どうしても小説が少ない。っていうか無い。 のブックマークコメント

「課長、おはようございます。このところよい天気がつづいて、気持ちがいいですね。もっとも、午後に」

 私が挨拶をしていると、課長は露骨に嫌な顔をして、それを遮った。

「君は職務上、もっと口の利き方に気を使うべきではないかな」

 課長がぶっきらぼうなのはいまにはじまったことではない。私は気にすることもなく、今日の仕事を伺う。

「本日の業務はそれのみだ」

 課長は両手でカードを差し出し、私はそれを受け取った。

「今日も一日外回りか。せめて二人で行けば運転を半日ずつに分けられるのに。早く内勤に移りたいものだ」

 車庫に移動し、車のエンジンを入れる。そして、勤め先をあとにした。

「さて、今日はどれにしようか」

 私は、カバンから携帯端末を取り出し、カバンは助手席に放り投げた。今日は自動運転が終日許可されているようだ。しかし、最近この地域でまた緊急危険信号の発信が多くなっていると聞く。運転手には、緊急危険信号を受け取ったときに速やかに手動運転に切り替える義務がある。いくら自動車が自動化されても、運転手は気が抜けない。これならまだ自動運転化前のほうがよかった、と同僚も言っていた。

「ああ、これがまだ読みかけだった」

 私は、お気に入りの作家の短編集の残りをダウンロードした。空いた時間の隙間隙間で読むならこれが最適だ。登場人物も少ないし、話の筋もはっきりしている。余計なものをそぎ落として形にするのも大変だろう、と自分も文芸を行う一創作者としてその苦労を想像しつつ、私は短編の世界へ入り込んだ。その間も車は人のまばらな大通りをゆっくり進んでいく。その両側には、はて、なにがあっただろうか。ずっと読書に熱中していたので覚えていない。そうこうしているうちに、私はその短編集を読み終えてしまった。これなら、別に長編一冊でも読めただろうに、と私は軽い後悔をしつつ、面を上げた。

「平和だな」

 なにもせずとも、車は森を抜け、なだらかな道を進む。そして、こうして電子化された良質な作品だけを、皆がいくらでも読むことが出来る。それは当たり前のことではあったのだけれども、ふと、そんな言葉が漏れた。

「これも、政府の方針のおかげか」

 時々、私はこうして自分の仕事の意義を確認する。私を含めて同僚の多くは、収入よりもその誇りによって勤務意欲を保っている。もっとも、自分も含めほとんどは、単純に話を読むことも書くことも大好きだったから、が第一の理由ではある。やはり同僚をもう一人乗せてくるべきだった。そうすれば、もっと意義のある会話も出来ただろうに。

「ガソリンは……いま入れると課長に怒られるか」

 私は自動車が自動的に止まるまで、またしばらく端末と向かい合った。

 自動車が止まったのは、更地の中にぽつんと建った一軒家の前だった。私は車を降り、玄関に向かう。チャイムがなかったので、ドアを数回ノックした。

「どちらさまですか」

 家主はドアを開け、私を招き入れた。

「あなたで、間違いありませんね?」

 私は、カードを見せて確認させる。

「あ……」

 家主の顔はみるみる青ざめていく。

「著作維持省の者です。お気の毒とは思いますが、仕方のないことです」

「しかし、私は全く知らなかった」

「時どき、そうおっしゃるかたがありますが、それを聞き入れていたら、きりがありません、では、早速……」

「せめて、せめて、いま取りかかっている作品だけでも」

「それも困ります。なによりその作品を仕上げたところで、今後のあなたとは関係ないではないですか」

 家主は、つぶやくように言った。

「なぜ、なぜ私が……なぜこんな方針が……」

「いまさらそんなことをおっしゃられても困りますね。よくご存知でしょう。このような平和な社会、執筆や演劇や音楽など、好きなことをしてすごせる社会。好きなだけ創作し、好きなだけ観賞できる社会。あなたはその生活にすっかり慣れきってしまって、ありがたみを忘れかけているのかもしれませんね。それに、不当な団体から監視されることも無い。この素晴らしい社会を維持するためには、審議会、委員会の決めたこの方針に従うほかに、方法がないではありませんか」

「だけど、なにも私が」

「みんなわがままを主張して、この方針をやめたら、どうなります。たちまち昔のように、創作物は増え、紙上、Web上だって、あっという間に、クリエイターがごたごたと増え続けましょう。そして、どこからも自意識が漏れ、洗練の行き届かぬ悪文、粗画があふれるでしょう。どこへ行っても絶え間ないアイデアの衝突。それでは、盗作が盗作かどうかもわからなくなってしまう。現代がそんな時代だったら、あなただって良質な作品をここまで楽しめたか、わからないではありませんか。それに、時間ばかり浪費する順位競争で引き起こされるノイローゼ、発狂、自殺。いたるところにただよう、よごれきった空気。こうなれば、あとは一本道です。規格化された人間の大群、混乱をともなう刹那的な流行、それで行きつくところは、いつも同じ、工作合戦です」

「ですが」

「技術を浪費し、時間を浪費するいたちごっこがお好きなら別ですが、多くの人は、それを好みません。わたしだって、きらいです。それには、みなが公平にその負担を受けなくてはなりません。著作維持省の計算機が毎日選び出しているカードは、絶対に公平です。私利私益が入っているなどといううわさなどが立ったことは、ないはずです。そう、老人だからといって、子供だからといって、贔屓をすることは許されません。見る権利と去る義務は、だれにでも平等に与えられなければなりません」

「でも、」

 もはや、家主に残っている理屈はあるはずもなかった。この方針には全ての人が従わなければならないのだ。

「では、早速」

 私は、言い終わらないうちに、注射を打った。薬剤は脳へ、カプセルは心臓へまもなく到着するだろう。脳へ届いた薬剤は、人間の想像する機能、創造的行動に関する機能全てを麻痺させる。付随して、創作物を解釈する機能も全て麻痺する。これによって、もう二度と創作することも、創作物を観賞することもないだろう。心臓へ届いたカプセルはあくまで予備だ。それでも創作をやめなかった人間に対しての、最終手段。

 手足を投げ出し、玄関で糸の切れた吊り人形のように寝転ぶ家主に軽く会釈をし、私は自動車に戻った。

「さて、次は」

 私は、ポケットから、つぎのカードを一枚ひっぱり出した。

「ああ……」

 カード中に書いてある作品番号を端末に打ち込み、確認する。10ページちょっとの、短い作品だった。

「何をするか明かされない役所、上司にカードを渡される、平和な町を自動車で走る、役所の人間を見て住人が恐れおののく、国の方針をまくしたてる、致死にいたる心臓のカプセル、無情に実行する男、そして」

私は、右手に持っていたカードを指で弾き、ダッシュボードの奥へ追いやった。

「自分の名前が書かれたカード、か」

 端末も後部座席へと放り投げ、私は背もたれに身を投げた。

「そうだよなー、なんかおかしいと思ったんだよなー、課長もしゃべり方変だしよー、同僚は連れさせてもらえないし、普段なら入れるガソリンも入れなかったし、あーあーそうだそうだ、うわーでもこれはしゃあないよなーそんで結局駄目だったんだよなーこんな小手先の改変程度じゃ絶対言い逃れできないわー、うん、ないないこんな言い回しの一致ない、あーもう課長」

 私以外誰も居ない車内で、私は誰かに向かって確認するように、あるいはすがるようにしゃべり続けた。しかし、それももう尽きようとしていた。

「口の利き方には気を使え、か」

 私は念のため端末の全消去をスタートさせ、課長に電話した。

「すみません……はい、今1件終わったところなんですが、はい、ちょっと順番の関係で今日は戻るのが遅くなりまして、ええ、ああ、直帰でいいですか、はい、助かります、ええ、それでは」

 電話を切り、私は背もたれをぐっと後ろへ倒した。

「しかし、私は何も……」

 つぶやくことは、もうそれぐらいしかなかった。

 端末は全消去を終了し、電源の自動切断を開始していた。愛用の端末が、今は自分のように思えた。いつもは他人の腕に刺す注射器を、自分の太ももへ刺す。恐らく私は、しばらく糸の切れた吊り人形のように運転席へ横たわっているだろう。それから先のことは、想像もつかない。

TahiraTahira2012/08/03 23:21That's way the bsetset answer so far!

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