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2009-01-04

[]iPodと本があれば生きていけると思っていた頃。 02:21 iPodと本があれば生きていけると思っていた頃。 - missile++ を含むブックマーク はてなブックマーク - iPodと本があれば生きていけると思っていた頃。 - missile++ iPodと本があれば生きていけると思っていた頃。 - missile++ のブックマークコメント

もう一週間以上、誰とも口をきいていなかった。服も、冬だからと不精して同じものを着続けていたが、誰かに指摘される訳でもない。天気は曇り空続きで、曇天に蓋をされた薄暗い世界時間が止まったように見えた。時々、音も無く雪がちらついた。まるで、この世界を誰かが気まぐれにスノウボウルに見立てて揺らしてみたように。そして、実のところを言えば、時間が止まってしまっているのは、私だけなのかもしれなかったのだけども。

my boody valetineの"Loveless"。ケヴィン・シールズ密室で作り上げたフィードバックノイズピンク色の砂嵐。それが、私の精神を繭のようにぴったり防護する柔らかい音の密室だ。iPodホイールクリックすれば、いつでもその密室はたちどころに現れるのだった。

自分の靴の先っぽばかりを見ていた。さもなければ、紙の上に印刷された、白黒の文字列。もう随分と髪を切っていなかった。2ヶ月以上になるだろうか。気味の悪いほど伸びた前髪。通学電車に乗っても、誰も私の隣には座らない。

冬の喫煙所は随分と寒い。人もまばらだった。雨が降ると決まって靴の中が濡れそぼってしまう、踵に穴の空いたワンスターで、しきりに地面を蹴りつけながら、一刻も早く講義室に行って温まりたいと考えたが、そこに行ったところで、結局は講義は聴かずに下を向いて本を読むだけだ。呼気だか煙だか、それともその両方の混じったものなのか、判然としない水蒸気を吐きながら。知り合いもいないので、講義が終われば行き場もなく、結局は喫煙所無駄に肺を汚すしか仕方が無い。

他の学生とは違った。けれども、その「違っている」という事に対して、私はそれほど誇りを抱いていたわけではないし、客観的でもなかった。単に「違っている」と思っていただけで、私自身は凡庸で詰まらない人間だった。

随分と幼稚な意地を張っているものだな、と思った。引っ込みがつかないのか、それとも、あの、時々アタマの中に訪れる鮮明で音の無い、ピンク色の砂嵐を信じればいいのか、それを判断するためには、私は若すぎた。その若さついでに、私は本気でiPodと本さえあれば生きていけると信じていたのだ。

そして、その考えは多分、今でも間違っていない。

[]誰とでも寝る女 02:21 誰とでも寝る女 - missile++ を含むブックマーク はてなブックマーク - 誰とでも寝る女 - missile++ 誰とでも寝る女 - missile++ のブックマークコメント

彼女は誰とでも寝る女だ。正確に言えば「誰とでも」という訳ではなくて、「不特定多数の」とでも言う方が正しいのかもしれない。寝る相手には、彼女なりの基準があるらしく、彼女曰く、それは彼女趣味が(感性が)似ているとか、性格が穏やかな人とか(彼女体育会系人間が好きではない)、外見にそれなりに清潔感があるとか、適度にエロさがあってセックスの相性が良いとか、まあそういったことらしいのだが、私が聞いている限り、それは一定の基準をクリアした男とであれば、誰とでも寝る、というべきスタンスなのではないかと思う。私は彼女にそう言ってみたら「うーん、要するにセフレって事じゃないですか」と彼女は答えた。セフレ、発音してみると、軽薄で浅薄時代遅れ言葉関係性。

誰とでも寝る事を除けば、彼女はどちらかと言えば真面目な類の女性だ。外見的にも、内面的にも。仕事に熱意を持って取り組んでいて、他人の痛みには敏感であり、礼儀も弁えている上に思いやりもある。話し方は穏やかで、ちょっと舌足らずなときもあるけれど、思考は冷静そのもので、抽象的な話題も好んで取り上げる。フェミニズムに興味があって、そういった評論家の本を好んで読む。まさかこの女性が誰とでも寝る女だとは誰も思わないかもしれない……しかし、むしろそういった彼女の知性や好奇心が、そういった行動を導くのかもしれない。よく分からない。

かく言う私も、彼女と定期的に寝る関係だ。私の道徳観からいうと、基本的に人は好きな相手としか寝るべきでないと思っているので、そもそもこのような関係に陥ってしまった原因が自分でも良く分からない。私は彼女に、君が好きだから他の男とは寝ないで欲しいし、自分とだけ付き合って欲しい、と頼んでみたのだけど、よくよく考えてみると、彼女の事を24時間監視できるわけではないのだから、そんな事を頼んでみたところで無駄と言うものだ。

彼女はそういう女性によくあるように、ちょっとした嘘つきで(女性は大体ウソつきだというのが、私のやや偏見じみた持論だ)、「○○さんが一番好きだから、他の人は趣味で寝てるだけですよ」などと言う。掌で転がされてるのは分かっているのだけれども、それでも私はそんな言葉に安心してしまう。私は、そんな自分の心を少し腹立たしく思ったりもしている。

彼女が誰とでも寝る理由はよく分からない。彼女自身にもきっと分かっていない。ちょうど絡みあった毛糸の玉の様な、柔らかで複雑な回路がそこには存在するのだろう、と私は想像する。

こんな事は詮の無いことだ、と頭では分かっているけれども、私は携帯電話メール着信のイルミネーションに逆らえない。体が自動的に行動を開始する。曖昧笑顔仕事を早退。性欲か、習慣か、彼女への好奇心か、はたまた恋心か。私のアタマの中にも、解れて絡まりあった毛糸のくずが存在する。そのほつれを解くまで、私は、彼女と会話し、寝るのだろうと思う。徒な空気の振動と言葉のやり取りと、薄皮一枚隔てた皮膚の感触。とりあえずは、今のところその感覚だけが頼りなのだ。

[]誰とでも寝る女(2:anonymous) 02:21 誰とでも寝る女(2:anonymous) - missile++ を含むブックマーク はてなブックマーク - 誰とでも寝る女(2:anonymous) - missile++ 誰とでも寝る女(2:anonymous) - missile++ のブックマークコメント

その頃、私は透明だった。

(ところで、透明という言葉1997年神戸連続児童殺傷事件の14歳の犯人が使った言葉だ。その年、私は15歳だった。その意味で、私の使う「透明」は彼の使う「透明」と酷似しているのかもしれない。)

彼女は、行為の際の避妊には極度に慎重だ。毎日服用するピル(正確には月の4分の3の期間)と避妊具の着用。(もっとも、ピルを飲む事に関して言えば、不規則な仕事関係上、生理周期と生理の重さを一定に保ちたい、という理由が主だった理由だったように記憶しているのだが。)

彼女がどういった仕事をしていたか、社会的にはマトモだとみなされる職業で、かつ、業務時間不安定な仕事だった。週末に彼女時間を過ごしているとき、 彼女携帯電話が鳴ることが頻繁にあった。そのあと、彼女のとってつけたような申し訳なさそうな顔と、言い訳と、この時間を打ち切る言葉。私は彼女を深く 追求しようとはしない。それが本当に仕事の呼び出しなのか、それとも、他の男からの呼び出しなのか。

彼女携帯電話をテーブルの上に置き忘れたまま眠りにつく。そういった、トラップめいた無防備さにさえ、私は無関心だった。結局のところ、携帯電話を開け てみたところで、時計の針が早く進むだけの事だ。自らの手で、時計の針を進めたいと願うには、私は歳をとりすぎていたのだと思う。その電子機器の中に、ど んな複雑な迷路が隠されているのか、それがどんな形をしているのか、想像することはできるけれども、実際にそれを見てしまえば、幻想はたちどころに消え 去ってしまうのだろう。

彼女が最も恐れていたのは妊娠することだった。妊娠することに対する嫌悪感彼女は隠さなかった。子供なんて嫌いだと彼女は事あるごとに私に訴えた。あの礼儀知らずの理性を持たない動物のような醜い生き物。かつて、彼女自身がそうだった、あの小さな生き物。そして、いつか彼女自身が、この世界に生み育てることを強制されるであろう、憎しみのカタマリだ(誤解がないように付け加えると、私はそのように考えていたわけではない……もっとも、それは私が男だからかもしれない)

かつて、彼女がそこからやってきて、いつか、彼女自身がそれを未来へと繋げてゆく秩序。そのような秩序に対して、誰とでも寝て見せることによって、彼女はそれを否定し、復讐したいのかもしれない。そんな風に私は想像する(それが的外れ想像だとしても)

そんな彼女の閉じた、そして透明な秩序に、私は組み込まれていたのだと思う。セックスという極私的な快楽の行為を行うたびに、彼女を通じて想像させられる無数の男たち。そして、私がその無数の男たちの1人に過ぎないという事実。私は、誰かと交換可能な1人でしかないという、彼女が中心に構成される、整然とした秩序。

暗がりの中を盲いて進むように、それはある種心地のいい経験だった。自分の皮膚の向こうには、広大な空間が広がっている。肌の上を流れる空気の感触で、私はそれを盲いたまま想像することができる。他に何も感じることのできない空間。自分存在するのか、そういった基本的な事実ですら確認することのできない、手がかりのないまま惑ってしまった存在。透明な私。子供の頃、見知らぬ町に1人残されてしまった時のような、不安恍惚に満ちた感覚

彼女も、そういった感覚に包まれて生きていたのだろうか。私がたった一つ知りたかったのは、そういったことだった。誰とでも寝られると思って、事実自分自身がそうだったときの、寄る辺の無い気持ち。いささかわがままに、彼女が、そういう気持ちを感じてくれていたら良かった思う。そしてできるならば、私もそういう気持ちを感じながら、彼女の気持ちに寄り添うことができたならば良かったのに、と想像する。そんな馬鹿げた確信を得るために、私は彼女関係を持っている。透明な私と、透明な彼女。誰でもない男と誰でもない女。誰でもないままで、少しは通じ合えたら、少しは同じ気持ちを感じあえたらな、と矛盾した夢想をする。特別でない人間の、特別でない夢。

それを恋心と呼ぶのならばそうかもしれないし、単なる好奇心と呼ぶのならば、それもそうなのかもしれない。

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