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2009-01-04

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その頃、私は透明だった。

(ところで、透明という言葉1997年神戸連続児童殺傷事件の14歳の犯人が使った言葉だ。その年、私は15歳だった。その意味で、私の使う「透明」は彼の使う「透明」と酷似しているのかもしれない。)

彼女は、行為の際の避妊には極度に慎重だ。毎日服用するピル(正確には月の4分の3の期間)と避妊具の着用。(もっとも、ピルを飲む事に関して言えば、不規則な仕事関係上、生理周期と生理の重さを一定に保ちたい、という理由が主だった理由だったように記憶しているのだが。)

彼女がどういった仕事をしていたか、社会的にはマトモだとみなされる職業で、かつ、業務時間不安定な仕事だった。週末に彼女時間を過ごしているとき、 彼女携帯電話が鳴ることが頻繁にあった。そのあと、彼女のとってつけたような申し訳なさそうな顔と、言い訳と、この時間を打ち切る言葉。私は彼女を深く 追求しようとはしない。それが本当に仕事の呼び出しなのか、それとも、他の男からの呼び出しなのか。

彼女携帯電話をテーブルの上に置き忘れたまま眠りにつく。そういった、トラップめいた無防備さにさえ、私は無関心だった。結局のところ、携帯電話を開け てみたところで、時計の針が早く進むだけの事だ。自らの手で、時計の針を進めたいと願うには、私は歳をとりすぎていたのだと思う。その電子機器の中に、ど んな複雑な迷路が隠されているのか、それがどんな形をしているのか、想像することはできるけれども、実際にそれを見てしまえば、幻想はたちどころに消え 去ってしまうのだろう。

彼女が最も恐れていたのは妊娠することだった。妊娠することに対する嫌悪感彼女は隠さなかった。子供なんて嫌いだと彼女は事あるごとに私に訴えた。あの礼儀知らずの理性を持たない動物のような醜い生き物。かつて、彼女自身がそうだった、あの小さな生き物。そして、いつか彼女自身が、この世界に生み育てることを強制されるであろう、憎しみのカタマリだ(誤解がないように付け加えると、私はそのように考えていたわけではない……もっとも、それは私が男だからかもしれない)

かつて、彼女がそこからやってきて、いつか、彼女自身がそれを未来へと繋げてゆく秩序。そのような秩序に対して、誰とでも寝て見せることによって、彼女はそれを否定し、復讐したいのかもしれない。そんな風に私は想像する(それが的外れ想像だとしても)

そんな彼女の閉じた、そして透明な秩序に、私は組み込まれていたのだと思う。セックスという極私的な快楽の行為を行うたびに、彼女を通じて想像させられる無数の男たち。そして、私がその無数の男たちの1人に過ぎないという事実。私は、誰かと交換可能な1人でしかないという、彼女が中心に構成される、整然とした秩序。

暗がりの中を盲いて進むように、それはある種心地のいい経験だった。自分の皮膚の向こうには、広大な空間が広がっている。肌の上を流れる空気の感触で、私はそれを盲いたまま想像することができる。他に何も感じることのできない空間。自分存在するのか、そういった基本的な事実ですら確認することのできない、手がかりのないまま惑ってしまった存在。透明な私。子供の頃、見知らぬ町に1人残されてしまった時のような、不安恍惚に満ちた感覚

彼女も、そういった感覚に包まれて生きていたのだろうか。私がたった一つ知りたかったのは、そういったことだった。誰とでも寝られると思って、事実自分自身がそうだったときの、寄る辺の無い気持ち。いささかわがままに、彼女が、そういう気持ちを感じてくれていたら良かった思う。そしてできるならば、私もそういう気持ちを感じながら、彼女の気持ちに寄り添うことができたならば良かったのに、と想像する。そんな馬鹿げた確信を得るために、私は彼女関係を持っている。透明な私と、透明な彼女。誰でもない男と誰でもない女。誰でもないままで、少しは通じ合えたら、少しは同じ気持ちを感じあえたらな、と矛盾した夢想をする。特別でない人間の、特別でない夢。

それを恋心と呼ぶのならばそうかもしれないし、単なる好奇心と呼ぶのならば、それもそうなのかもしれない。

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