Hatena::Groupneo

小説蛾螺倶璃砦

2006-12-28

[]今日の部室 今日の部室 - 小説蛾螺倶璃砦 を含むブックマーク

「おはようでござる」

 Hはそう言って、相変わらず立て付けの悪い部室の戸をあけた。久方ぶりの部室である。

 入った先からは聞きなれたものと聞きなれないもの、二種類の声が聞こえてくる。最近、とみに新入生が増えた事は部室の前を通る度に気づいていた事ではあるが、実際に入ってみるとそれがより際立って感じられた。皆思い思いの場所で何事かしているが、思った以上に知った顔がいない。

 それを確認しながら出席簿に記帳していると、

「あ、こんにちわ」

 すぐ隣から声がかけられた。そちらを向くと、そこには見た事の覚えの無いめがね娘がいた。新入生のようだが、他の人と違って一人だけ入り口近くの机に座っていたようだ。文庫本を片手に持ったまま、にこやかにこちらを見ている。しかしなんとも場違いな子である――いわゆる「文学少女」というには雰囲気が陽性に過ぎる――とHは直感したが、なんにしてもここはファック文芸部である。何かしらの病みを持っているに違いない。その証拠に、Hは観察からめがねは伊達である事に気がついた。やはり何かあるのだろう。

 Hは少々警戒しながら自己紹介を騙ろうと口を開きかけた。

「こんにちは。わしは」

「おう、Hぃ! こっちこいや!」

 奥の方から声がかかる。

(この声はd氏だ。)

 そう判断すると、目の前の新入生に「ちょっとごめん」と謝り、Hは声の聞こえた方へと足を向けた。

 新入生達のいる区画から少し離れた、窓際の日当たりが良い場所にdは自分の席を取っていた。机に足を乗せて座っている何かしら書いているようだ。机の上にはDVDの箱が山と積まれていた。作品に統一性はまったく無い。いや、dの中にはあるのかもしれないが、Hにはまるで見当がつかなかった。

 Hがぼんやりとそれの連続性を自分なりに考えていると、dが話しかけてきた。

「久しいのう、H。2ヶ月ぶりくらいかい」

「それ位ですかね。ここも人がだいぶ変わりましたねえ」

 特にあなた、という言葉はのどの奥にしまうH。dの見た目はいつもどおりの普通青年のままであるが、全身からにじみ出るものが明らかに変わっている。眼球もそこはかとなく血走っているように、Hには思えた。

 それには触れず、Hは言う。

「そうそう、dさんは最近、風向きがいいそうですね?」

 それにdは笑顔で答える。

「ああまったく。書くもの書くものあたってあたって。くくくくく、笑いが止まらんわい」

「それはよかった」

 最低限心を込めてそう言うと、dも嬉しそうに「がはがは」などとひとしきり笑うと、当然の疑問をHにぶつけてきた。

「ところでお前、ここ最近顔ださんかったのに、急になにしに来たんじゃい?」

「ご挨拶ですね。文章を書きに来たに決まってるじゃないですか。と、言いたいところですが、今日は違う用件ですよ」

「と、いうと?」

 dは眉間にしわを寄せてHをにらんできた。警戒している時のサインである。

「なに、単にneoかるたを完成させようかと思っただけですよ。もう年の瀬ですしね」

「……本当か?」

 dはHの説明を聞いても警戒を解かなかった。依然として眉間にしわである。Hはその反応を不思議に思いながらも「本当ですよ」とだけ言って、その場を離れようとした。

「じゃあ、私はこれで」

「……本当に、それだけか?」

 離れようとするHの背中に向かって、dはさらに問いかけてきた。眉間にしわ、である。

「それだけですって。まったく。一体どうしたんですか?」

「……いや、なんでもない。本当ならいいんだ」

「……そうですか」

 dの様子がおかしい、とはすぐにわかったが、それが自分の発言のせいなのかどうかわからず、Hはそれ以上聞く事ができなくなり、そこで話は打ち切りになった。

 

「さて、と」

 Hは部室の隅の方にあるいすに腰掛け、作りかけのneoかるたを一つ一つ眺めながら思索にふけっていた。かるたの方はHが持ってきた時のままである。かるたを作りに来たのは建前だった。Hが今日久方ぶりに部室へ顔を出したのは、確認のためだ。

部長商業デビューする」

 という噂の。

部長、やっぱりいないのか。)

 ファック文芸部部長Nがここに顔を出さなくなって一月ほど経っているのは、出席簿を見て確認していた。普段ならそれ位はある事ではある。年末も近いし、忙しいのかもしれない。

 だが。

ガガガ文庫の一次選考発表の後だからなあ。)

 「2006-09-30」で反抗予告をした部長Nであったが、あの賞に実際送ったかは誰も知らない。出していないかもしれない。だが、このタイミング部活に顔を出さなくなるのはいくらなんでも出来過ぎのように、Hには感じられた。だから噂が気になったのだ。

 実際、ガガガ文庫レーベルの立ち上げが春、おそらく年度末明け4月辺りではないかと言う予測もがまことしやかに囁かれている。そこから逆算すれば、作家編集者も今時分から動いていなければ遅きに失するはずである、とも。

 だから、調べてみているのだが……。

(でも、「来ていない」以上の証拠はない、か。まあ、そうだとは思ったけど。)

 思索にふけってみても、今の所の情報では憶測の域を出ない。仕方無くかるたの内容を考えようと、懐のネタ帖を取り出し、ついでボールペンを取り出そうとする。

 が、手が滑ってボールペンを床に落としてしまった。

「おっ、と」

 Hが席を立ちボールペンを拾おうとかがんで、手と手が重なった。

 すらり細い指と柔らかい手触り。

 女の子? と思い、顔をあげると目の前には、新入生の伊達めがね娘。

 思いのほか近い場所に顔があり、Hは驚くが伊達めがね娘は薄くほほ笑む。

 そして、つぶやいた。

部長の事、知りたくありません?」

(つづく)

[] 今日の部室 第二幕  今日の部室 第二幕 - 小説蛾螺倶璃砦 を含むブックマーク

 学校から駅の反対側へと向かって徒歩10分。木立の道を通り抜けるとそこに唯一最寄、と言える喫茶店がある。周りも木々に囲まれ、駅からもやたら遠い。バス停なんて反対方向だ。はっきり言って繁盛できる環境には無いが、なにやら長い歴史があるらしくいつまで経ってもつぶれる気配は無い。

 そこにHは向かっていた。めがね娘も一緒である。彼女が話す場所として、ここを指定したのだ。

部長の事、知りたいと思いません?」

 そう言われ、Hはめがね娘の後をのこのこ着いてきていた。

 何故、彼女はHが調べている事を知っているのか。そして、何を知っているのか。

 興味があった。もとより、部長の事だって好奇心からの行動だ。そこにもう一つ謎が加わるのは、むしろ望む所だった。

 それに、とHは思う。なかなか、ちんまくて可愛らしい娘さんだし。伊達めがねなのは、まーその筋にとってはいただけないだろうが、この子はむしろ普段めがねなんてかけない子なんじゃないか? いくらなんでもこの髪型とか、本人は隠してるつもりの快活な雰囲気とかは、めがねっ娘の範疇じゃないだろう。

 などと考えている間にも、めがね娘はどんどん先行していて、もう喫茶店の扉の前にいた。歩幅はHの方が長いはずなのだが、考え事をしているせいもあってか、Hはここまで一度もめがね娘の前を歩いていない。

 Hは足早に近づくが、めがね娘はこちらを待たずに入っていく。呼び止めようとして、Hはまだ彼女の名前を聞いていない事に気がついた。めがね娘が扉を閉める前になんとか追いつき、ここぞとばかりに尋ねてみた。

「えーと、君の名前って、聞いていい? ああ、僕の名前は、」

「拙の名は潤井由華、です」

「…そう」

 そこで、Hの頭になにかよぎった。が、それがなにかはわからない。

 そうこうする内にもめがね娘、いや“潤井由華”とやらは空き放題の席の中でも一番奥まった所へと突き進んでいく。Hは慌てて追いかけ、とりあえず思った事を口にしようとする。

「潤井君」

「由華で結構ですよ。そもそも、満更知らない仲でもないでしょう?」

 言われ、Hは混乱した。自分の知り合いなのか? でも、初めて見た顔だし、声だし、姿だし…。

 そこでなにか、記憶に引っかかるものがあるのを、Hは感じた。

 見た事は無い。

 聞いた事も無い。

 だが、知っているような気がする。なにかが引っかかる。

「……早く座ったらいかがです?」

 Hは思いのほか考え込んでいたらしく、気がつくと由華は座っていた。Hは向かいの席に座った。

 そこから切り出す。

「ええと、潤井君、だっけ? 『知らない仲じゃない』と君は言ったけれど、その、君と私とって……面識があったかな?」

「あらあら。Hさんともあろうお方が、拙の事をお忘れとは。その上『面識』ときましたか、『面識』と。あなたと拙は、そんなものを軽く軽く超越至極の間柄だったではありませんか?」

「いや、でも私、あなたの事を覚え」

 ヒュッ

 風を切る音、とHがわかった時には、既に鼻先に突きつけられた後である。

 真剣が。

 右手にそれを持つのは、目の前のめがね娘、潤井由華。いつの間に抜いたのか。いや、いつの間にそれを取り出したのか。Hにはわからなかった。

 由華は姿に似つかわしい笑みと、それには不釣合いな、暗い目でHを見る。その雰囲気は先ほど快活なものから、一瞬で様変わりしてしまっていた。

「……が、あぁ、そのぉ、ええと、これ」

 あまりの突発事に、話題を変えようとHはそう言った。

 由華は刃を突きつけたまま、やはり笑みを持って答える。

「もちろん、覚えていはりますよね? これが斬れるかどうか」

「あ、ああ、うん」

 否、と言える空気ではない。Hはとりあえず首肯する。

 すると、由華は笑みを強くした。だが明らかに『嬉しい』という風ではない。もっと暗い意味の顔だ。ひとしきりその表情でHを眺めた後、由華は言った。

「じゃあ、どちらで?」

 そして、にんまりと。

 Hは背筋に冷や汗が流れるのを自覚した。間違えてはいけない、と己のなにかが告げている。だが初めてまみえる相手の、しかも得物(?)が斬れるかどうかなど、わかるわけがないではないか。とは、口に出せる雰囲気でもない。

 一方の由華はと言うと、手にした刃をHの鼻から首筋へと徐々に移動していた。

「待ったとかなしですございますゆえに、その手の発言は軒並み無許可ですよ」

 とかなんとか言ってもいる。嬉しそうに嬉しそうに。

 周りの、店の人が助けに入ってくれないかと、Hはすがる思いで視線を彷徨わせたが、まるでこちらの状態に気がついていないのか、誰も助けに入ってくれる様はない。

部長の話を聞くはずが、なにがどうしてこうなってるんだ?)

 己の進退が窮まったHは現実逃避としてそんな事を考えたが、だからといって打つ手は無い。

その上、由華は「後、5秒」と言って刀を握っていない方の手を開いた。親指が内に閉じられ、「4」と響く。

(もうこうなったら五分と五分かな……)

 思う間にも指は閉じられ、「3」と響く。

 Hは口を開いた。

「き」

 と。

「そこまでだっ!」

 大音声がしたかと思う間もなくH達の座っていたテーブルが、バイン、宙を舞う。

 ついでとばかりに飛び出る影一つ。それはテーブルより高く高く宙を舞い、天井に片手をつき、反動を舞うテーブルに。

「危ない」と言う間も無く蹴りだされたテーブルがHの方に、正確にはHの座っていた辺りに直撃する。テーブルと椅子が衝突。破片と化し辺りにぶちまけられる。

 Hには何が起こったのかわからなかった。気がついたら由華に首根っこをつかまれて、引きずられるままに元の場所から移動させられていたのだ。すった尻が痛い。

 それをした由華はというと、謎の影とHの間に立ちはだかるように立っている。Hからは表情が見えないが、刀を構えている様子から、これがただならぬ事である事は判別できた。

「ちぃ! もう来やがりましたか」

 と由華が苦々しく言う。

「そう、われは来た!」

 それに呼応するように、天井から降りたった影は言い放つ。

「我らがガキ大将、マガーク御大の邪魔をするものは、排除する! このはてなID“nand”の名かけてぃ!」

[] 今日の部室 第三幕  今日の部室 第三幕 - 小説蛾螺倶璃砦 を含むブックマーク

 Hの前に現れた影。着地の際に巻き上がった埃が収まると、その姿がはっきりと見えた。

 その影が尊大、且つ尊大に名乗りを上げる。

「腐った電網社会(ハキダメ)に降り立ち、純情可憐な花一輪!

 衆愚(ブタ)のブクマ(ムレ)を殺めてくれよう、

 ファック文芸部部長(ヘッドマスターニートガール)、バーチャルネットアイドル北」

部長!?」

 Hはつい、先に叫んでしまった。

 そう、そこにいたのは、紛れも無くHの所属する部の長、且つ「プロを呼んでくるより先に、プロになればよろしいのに」疑惑の人、部長だったのだ。姿はおもいっきり女装、いわゆる一つの女学生と言える服装だった。相当奇態な方向、というかその布地面積なら最初から端布使えばよろしいのにと言える位に変形しているのは、口走りかけた言葉から察するにアイドルを狙ったものなのだろう。無理がある。

部長、どうしてこんな事を?! 奇行はいつも通りですけど、何故に女装ですか!? 今まさに女装ショタブームが部長に?!」

「実はわれは、おんなのこだったのだ。新事実勃発」

「そんな今まで見たことも無いテンションで言われても困りますよ! 今まで随分の長い間、顔を合わせてきましたけど、あんな文学青年のしゃっつらして、その実がおんなのこだなんてありえない! あやまれ! 文学少年にあやま……」

 Hは走馬灯の如く記憶を駆け巡る部長の顔を、姿を、素行、危行、そして今の狂態を思い返し、「そんな…、そんな…、も、も、もっ」萌えかけ。

「うるせぇ」

 叫びかけた所で、謎の偽文学少女且つ危険人物、由華に蹴りを入れられた。「ぶわ」と変な声を出したついでのように、後ろからおもっきり怒鳴られる。

「たらたら話し込んでんじゃねえっての。いいですか? あれはもう、あんたの知ってる部長じゃあ、ありんせん」

「は? 服装はともかく、病的な感じが化粧で隠しきれてないあの顔とか雰囲気とかは、部長そのものなんだけれど」

「そりゃそうでしょうね。あれは部長の一片。バーチャルネットアイドル北大路」

「貴様、それを言う為に隙を見ていたわれを差し置いて言ってしまうほどの器か」

 と、北大路は言うが早いか、近場にあった椅子を手に持ち、おおきく振りかぶり捻じ曲がって、

「斜線を」

 由華に。

「引かない」

 投げた。

 見事に奇態なモーションから放られた椅子は、しかし由華が素早く片手にて投げた椅子にぶつかり、共に砕け散る。

 それを合図に由華、北大路、共に動き出す。とはいえ、距離は大して離れていないほんの一瞬でそれが詰まり、各々行動に移る。

 刀を持つ危険人物、由華の方が有利と、Hに思えたが、さにあらず。由華が構えから繰り出さした一刀は、どういう仕組みか理屈か、ガチン北大路の腕で受け止められていた。

 と、刀の攻撃に気を取られていた北大路に、由華が直蹴り。きれいにどてっ腹に入り、北大路がぐらりと体勢を崩すと、そこに大上段からの斬撃。

 しかしそれは、北大路は両手を組んで受け止められた。その衝撃を体勢を横に崩しつつ受け流して耐えると、突如横に倒れこみ、そこから瞬時に由華の手を狙って蹴りを放つ。

 その行動に驚きながらも由華は避け、よろけつつ距離をとる。

 そこに跳ね起きた勢いで蹴りが襲い掛かる。寸分たがわず刀を持つ腕を狙うそれを由華は体をひねって避け、その体勢からひねりを生かして横薙ぎに振り払う。

 再び、北大路はその刃を腕でガチン受け止めた。そのまま力比べの様相を呈し、共に押し合う。しばし膠着状態に。

 先に力を抜いたのは由華だった。すっと身を引くと、距離をとる。

 自然、Hの所に由華が戻ってきた。なので、聞く。

「あなたのそれ、まがい物だったのかもしかして!」

「あん? んなわけねえやんすよ。あれの腕を御覧くださいな」

 言われてみれば、その腕の斬られた部分がはがれ、その隙間から金属らしき光沢を放たれていた。

 見られているのに気がついたのか、北大路はこれ見よがしに腕を回転させながらながら、メカっぽいポーズらしきものをとった。

「うぃぃんうぃぃん。これぞバーチャルネットアイドル剛体術です」

「単なる機械の分際で、小ざかしい名前をつけてんじゃねえよ」

 そう言いながら、由華は刀を構える。

 対する北大路は、両の手を前方へと突きだす構え。

 その構えに「まずっ!」と由華はつぶやいたのが聞こえたが、Hにはその意味が分からない。

 そして北大路は言い放つ。

「今必殺の、バーチャルネットアイドルロケットパーーーンチ!」

 直後、喫茶店は爆発した。

[] 今日部活 第四幕  今日の部活 第四幕 - 小説蛾螺倶璃砦 を含むブックマーク

 Hははっと気がついた。気がつけば、そこは森の中。

「あ、れ?」

(ここ、どこだろう。確か喫茶店にいたような……それで爆発した……爆発?)

「ああ、気がつきなさったか」

 と言って姿を見せたのは、潤井由華である。全体的に煤けているが、出会った時の姿=めがねの女学生姿である。その腰に(どういう原理でか)日本刀を下げているのも変わらない。ただ雰囲気というか、全身から醸し出すものは女学生の域を出た剣呑なものである。

 めがねが傾いているにもかかわらず、そのままにしてあるからかもしれない。

「いやまったく。あの程度の爆発で気を失われたら、護るこちらがたまりませんよ。しっかりして下さいな」

「あの程度、って。かなりの大爆発だった記憶があるだけど」

 そう言うと、由華は如何にも「こりゃ駄目だ」という顔をして、

「あれがかなりの爆発、ってんじゃあ、あなたこの先大変ですぜ? なにせ、あいつの本気からすれば、あれは微力と言っていいもんですからね。あれで気絶するんじゃあ、やっぱりこれから先が思いやられますねぇ」

「ちょっと待って。つまりなんだ……、これからも……あの部長だかなんだかに襲われる、って言うの?」

「そりゃそうでしょう。あなたが悪いんですから」

 悪い、という言葉が、由華からHに浴びせかけられる。唐突なその言葉に、Hは猫だましを食らった猫のようになる。それを見て、由華はまた思いやられるといった風の表情を作る。

「ああもうまったく。自分がどれだけの事をしたのか、分かってないんだから困りますな」

「え? いやいや待って。待ってよ。僕が、悪い?」

 かろうじてそう反復すると、由華は頭を上下に揺らして、その質問に答えた。

「そうですよ。あなたが為した不善が、回りまわってあなたの元に返ってきたんですよ。覚えは……、あったらそう楽観的にはなりませんわなぁ」

 そう言われても、Hにはまるでそんな事になる覚えは、一つしか無かった。

部長の事を探ったのが、いけなかったの?」

「違います」

 そう言うと、由華はあんまりな胸をそらして、どこか誇らしげにすると、傾いだめがねを直した。

「Hさん。拙の名前を、本当に覚えていませんか? 潤井由華、と言う名前ですよ」

「……君の……名前?」

 Hは考え込んだ。しばらく悩んで、そして一つ思い出す事があった。

「……まさか」

「そう。拙は、あなたが萌理学園用に考えた、キャラクターだったのですよ」

「…………」

「うわ。今、人の頭をかなり哀れだとか思ったなこの野郎」

「思うよ見るよ当然だろ! 『ワタシはあなたの考えたキャラです』って言われたら! つーかそんな今の今まで忘れてた事で、なんで襲われなくちゃならないんだよ! 脈絡が無いだろ!」

「まぁまぁ。それが関係あるわけですから、そこは落ち着いてお聞きくださいな。そもそも、あなたは何故、拙を考え出したのか、覚えてらっしゃいますかな」

「何故って……」

 Hはその理由を思い出そうとする。確かに、何かしら考えがあって作った記憶はある。それは。

「……なんだっけ? って、こんな事で刀抜かなくてもいいじゃないか…」

「そこまで忘れてますか、この野郎。今なら出血大サービスですよ、あんたの血が」

「うわぁい……。えと、確か、萌理学園をふぁっくしよう、とか考えたような……、ってでもそれと襲われるのは関係ないんじゃあ?」

「いえいえ。それが大いに関係あるわけですよ」

 そこで由華はいったん言葉を区切ると、再び偉そうに傾いだめがねを元に戻す。いい加減無くてもいいような気がHにはしたが、言わぬがなんとやらだ。

 なんとかちゃんとした位置に戻ったのを確認すると、由華は続けた。

「おほん。さてさて、あーたは拙を思いつきましたが、それ以上にしたい事がありました。それは部で言う所のファック。その為にあなたがしたのは?」

「したのは……、潤井由華をそうぞうする事」

 Hは思い出す。潤井由華をそうぞうした時の事を。その情動を。まざまざと思い出す。

 その様を見ながら、由華はにやにやとする。

「そうそう。あんたがしなさりくさったのは、萌理学園に神酒坂兵衛の萌え版のような猛獣を、あるいはどこにでもいる狂人を放つ事。まあ拙がいうのもなんですが、あの設定ではどっちつかずもいい所でしたが」

「そ、それをキャラ本人と名乗る人から言われたくないね」

「へいへい。んで、本来ならキャラ設定を作るだけなら、ここで何も起こらなかったんですが、運のいいのか悪いのか、問題が起きてしまったんですよ」

「なにが、起きたと?」

「そこから先は……、」

 Hの声にかぶさるように、聞きなれない声が森に響く。何者か。

「穴が開いたんですよ……、萌理の隅に……、ゆるいゆるい穴が、ね」

 言葉と共に森より姿を現したのは、すらりとしながら、無駄の無く筋肉のついた、女性の手だった。

[] 今日の部室  今日の部室 - 小説蛾螺倶璃砦 を含むブックマーク

 続くとは思わなかった。

 どうしよう。

[] 今日の部室 第三幕  今日の部室 第三幕 - 小説蛾螺倶璃砦 を含むブックマーク

 すげーあいた。その上更に終わらない。このまま行くと相当長くなりそうだが、そこまで考えていないからどうなるか分からん。

[] 今日部活 第二幕  今日の部活 第二幕 - 小説蛾螺倶璃砦 を含むブックマーク

 書けば書くほど終わらない泥沼につかる。こんなはず。

[] 今日部活 第4幕  今日の部活 第4幕 - 小説蛾螺倶璃砦 を含むブックマーク

 瞑想迷走瞑想。