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小説蛾螺倶璃砦

2012-11-04

[][] 『二人なあたしと宝石の事件』 四”「魔王の赤瞳」事件の解決の顛末” その2  『二人なあたしと宝石の事件』 四”「魔王の赤瞳」事件の解決の顛末” その2 - 小説蛾螺倶璃砦 を含むブックマーク

 静音が退室したのと同時に部屋の奥の扉、作業用の部屋から一人、顔を出す。女子だ。長めのポニーテールがゆらり、と揺れる。

「帰ってくれましたか?」

「ああ。言ったろう? アタシに任せておけば大丈夫だってよ。なのに、扉の前にはっついてるんだもんなあ。信用しろってんだよ、光樹ちゃんよぉ」

 光樹、と呼ばれた女生徒は、心外そうにする朔乃よりも更に心外そうなそぶりをする。

「信用たって、楯髪先輩って話をこじらせるのが大好き人間じゃないですか。ウチにもよく来るんですよ、楯髪先輩をきちんと仕事させる〝情報〟を聞く人が」

 暗に脅迫材料を、と言っているが、朔乃は動揺などしなかった。

「その言い分、まるでアタシがちゃんと働かないみたいじゃないかね。仕事自体はしっかりしてるよ、アタシャ?」

「ちゃんと、と思わないひとの方が大半なんです。……でも、今回は珍しく変に揉めませんでしたね。あの蝿原静音を弄んではいましたけど」

 はっはっは、と朔乃が笑った。

「まあな。今、わりと本気のお遊びしてるんだよ。それに言ったけど、あいつを怒らせたら、大変に面倒な事にもなりそうだからね。それも狙ってる」

 こうでもしないとね、と朔乃は呟く。

「いつもは仲がいいし、あいつはアタシに対して一線引いてるとこがあるから、なかなかこういう対立ってなくてね。いやあ、今回は本当にいい仕事させてもらってるよ。、で、情報の根回しの方はいいのかい」

 光樹はポニーテールを縦に揺らした。

「ええ、『楯髪朔乃に力ずくで情報を搾り取られた上に、口止めされている』っていうのを、諜報部にリークしておきました。そっちの情報網で今日中に噂は広まるでしょう。実際に五件も楯髪先輩にあしらってもらいましたし、これでウチに情報を求めてくる人はほとんどいなくなりますよ」

「そうかい。しかし大変だね、アンタのとこも。非合法なのにわりと知られてるなんて中途半端じゃあ、いつかマジで摘発されるよ」

 光樹ははぁ、と溜息。

「だから今回は静観と不干渉なんですよ。出来るならこっちも探したいし情報売りたいんですけど、元々警察沙汰なんて目立つ事件に絡んじゃうと、危険ですから」

「ふうん、色々あるみたいだねぃ。まあそれはいいとして、報酬の話だ。アタシに情報強奪容疑なんて汚れ仕事させた分、きっちり払ってもらうよ?」

「宝石の在り処、ですよね。……他言無用ですよ?」

「分かってるよ」

「それなら」

 光樹が宝石の在り処について話す。

 朔乃は、それを聞いて、満足そうに頷いた。


 部室へ帰る道すがら、静音は憤懣やるかたないといった風に、ぷんすかとしていた。

「たっく、楯髪のやつ。たまに良く分からんことするやつだけど、こんなに分かりやすく妨害してくるなんて、一体どういうつもりかしらね」

「それだけ勝ちたいってことなんじゃないんスか」

 静音を宥める覚がそんな事を言う。静音は、うーん、と首をひねる。

「それだけ、とは思えないこともないから困るのよねえ、あいつの場合。ホントもお、楯髪のお馬鹿は」

 むくれる静音に澄加が問いかける。

「で、どうするんですか、先輩。情報源、また潰れちゃいましたよ」

「なのよねえ。ホントどうしたもんか……。ねえカミサンさあ、頼りにしていい?」

 言われると、澄加の口が返答を紡ぐ。

「任せておきなさい! 今のあたしは出来る子よ!」

 その口調には苦渋が満ちているが、静音はそれ意図的に無視してく、提案する。

「なら、一つ占ってみて。前に使ってたボールペンも下敷きも持参してるし、〝魔王の赤瞳〟のデータの書いてある紙もあるわよ?」

「用意周到だなあ」

 カミサンは澄加の顔で苦笑いをして、静音から受け取ったボールペンを粛々と垂直に立てた。

 手から離れたボールペンが、倒れる。

 倒れたボールペンが示した方向を皆が見る

占術部の部室の方だった。


というわけで、部室までやってきた一同だったが、そこからが動きが無かった。

「ここ、なんだけどねえ」

 澄加(カミサン主導)が、部室を動き回りながら、何度かボールぺンを倒す。そのたびに、ボールペンは違う方向を示す。だが、それに共通している部分がある。

 それは、

「どうにもこの部屋自体を示してるっぽいね」

「ここに、あるの?」

 部長席にいつも通りの着席をした静音が、そう問う。

 対するカミサンの回答は明確だった。

「あったら、幾らなんでも気付くんじゃないの? 一応、あんたらが使ってる部屋でしょ」

「……」

 いきなり沈黙&視線が交錯。誰も彼もが、一瞬で疑心暗鬼になる。

(もしや、誰か隠匿しているとか、かしらね?)

 静音はそう考えるが、すぐにそれは無いと思い当たる。

「貴方達がそんな大層なもの持ってて、顔色一つ変えずに、なんて無理よねえ」

「部長なら、持ってても何かの研究に使おうとして、すぐ分かるスよ」

「覚ならすぐに部長に差し出しちゃうよねー」

「バカノコはその辺に落とす位のドジはするかな」

 はっはっは、と皆が笑う。お互いをかなり疑ったのを笑い話として処理する為の儀式みたいなものだ。単にお互いに疑った事を気まずく思っているだけでもある。

 だが、そんなことをしても根本的なものが解決していない。ボールペンの指し示す方向の意味、である。

「その占いが示すのはここ、ってみていいわけよねこれ」

 澄加=カミサンが頷く。

「そうだね」

「藁でもつかみたいのが現状だから、信じさせてもらうけど、でもどういう意味?」

「わかんね」

とりあえず、と、静音は手近な椅子に座る。他の面々も思い思いに席についた。そこで鹿野子が口を出す。

「で、どうするんですかー、部長ー。このまま、ここで待機でもするんですかー?」

「じゃあ、ここ、家捜しでもする? 無いこと分かってるのに?」

「流石にそれは。でも、ここで休んでても時間の浪費ですよー?」

「……、カミサン、もう一度、やってみて?」

「無駄だと思うけどね」

 そう言いつつも、カミサンは再びボールペンを垂直に立て、倒した。その方向に、皆の視点が集まる。

それは部室の戸に向かっていた。

 その戸が開く。

「失礼、……何?」

 入ってきた女生徒が、いきなり視線を集められて面食らう。

「あなた……」

 その女生徒の名前を、静音が言う。

「安田英美、さん?」


「で、何の用かしら」

 部長席に座りなおした静音が、面と向かっている英美に問う。静音は今回、おどろおどろしさは特に出していない。既に会った相手にはやらない、というのもあるが、突発的に入ってこられた上に、一気に接近&着席されたので、する暇なかったのだ。

 それを少し悔しみながら、しかしおくびにも出さずに静音は対応する。

 だが、英美は勢いよく静音の前に座ってから、何も喋らない。

「私達もそんな暇ではないから、話があるなら早くしてもらいたいんだけど」

 静音が話すように促すが、英美はやはり喋らない。うつむいて、固まったままだ。

 静音は溜息。

「……決意がいることみたいではあるし、自分の話したいタイミングでもいいけどさ。でも、出来るだけ早くしてね? さっきも言ったけど、こっちもすることあるんだから」

 それでも沈黙する英美。遠巻きの三人は小さな声で話す。

「どう思いますー、先輩。ボールペン、あの人指してたわけですけどー」

「偶然じゃないかな? それに仮に持ってたとしても、持ってたら光るとか、そういうのでも無いとわかんないじゃない?」

「そんな魔法みたいのがあるかよ」

「馬鹿ねー、シマ。部長は前に魔法みたいなの使うじゃない。それをやれば」

「それ、あたしが何故か関わる事になるから嫌駄目却下」

「えー。澄加先輩、それじゃあ、分からないままじゃないですかー」

「直接聞ければ早いんだけどな」

「よね」

「ですねー」

「だぁー! うるさい!」

 突然、英美が後ろの三人にキレた。声が聞こえていたのだ。三人も聞こえてるだろうなー、くらいのつもりで話していたので、いきなりキレられても特に脅えることも無く、でも目線は合わせず、なんのことやら、といった風に立ち振る舞う。

 一通り睨んでも効果が無いと見た英美は、静音に噛み付いた。

「あんたとこの部員、教育なってないんじゃないの?」

「そうかしら? いきなり尋ねてきていきなり座っていきなり何も言わないよりは、マシだと思うけど」

「……んなわけねーでしょうが」

「まあ、そういうことにしときましょうか。で、ここに来た理由、話してくれるのかしら。それとも、まただんまり? いつまでも詮索されてるつもり?」

 静音は少しねちっこく尋ねる。対して英美は答える。

「……まあ、黙ってても仕方ないってのは分かってる。たぶん、あんたしか頼みになりそうなのがいないことも、ね」

 そこで、英美はかくっとうな垂れる。

「それがいちいち悔しいのよ。何が悲しくて『うらない部』の手を借りないと……」

「でも、あなたはうちに、『占術部』にやってきた。ウチにくるんだから、それだけ切羽詰まってるんでしょう? 大変なんでしょう? そして、他ではやってくれそうんにないんでしょう?」

 畳み掛ける静音に、英美は反論出来ずに頭を垂れる。

「なら、とりあえずウチで話してみなさいな。なんとかしてあげられるかもよ?」

 ここで静音は優しい口調を。その顔には優しい笑みを。それぞれ用いる。それがいかに怪しいかは、部活の面々には分かるが、ほぼ初対面の英美は分からないようで、顔を上げてそれを見て、簡単に騙されてしまう。

「……分かったわよ」

 英美は決心したのか、浮かなかった表情を鋭いものに切り替える。

「これ、他言無用だからね? 誰にも、話しちゃ駄目だからね?」

「分かったわ」

「録音とか盗聴とかもなしだからね?」

「諜報部とかじゃないんだからしないわよ。それに、この部屋に盗聴器をしかける暇人は存在しないから安心なさい」

「……なら話すけど、ワタシの後輩の白尾白夜、当然知ってるわよね?」

「そりゃあね、あなたを探すって依頼、最近だったんだから忘れるわけがないでしょうに」

「その子が、白夜が、……誘拐されたの」

「……ふうん。いきなり剣呑な話ね」

 誘拐というのっぴきならない言葉に部員がどよめく。静音も内心では、

(これは思ったより大事ね。それも、楯髪が好きそうな感じに)

 と考えていたが、態度の方は特に動揺する様子も見せず、応対する。

「それって、どういう理由で誘拐されたの? あの子の親が金持ちだとか、そういう類なら、流石に警察の方がいいと思うけど」

「あの子の家とかは関係ないわ。関係あるのは、ワタシ」

「どういうこと?」

 英美は、少し躊躇する。その躊躇を敏感に感じ取って、静音は言った。

「その核心部分、聞いておかないと後で困るかもしれないんだから、当然、話してくれるわよね?」

「……」

 英美は弱く頷く。そして口を開いた。

「それは、ワタシが宝石を持ってるから」

「宝石? 宝石……。……って、まさか」

「そう、今話題の〝魔王の赤瞳〟。それを、ワタシが持ってるのよ」

 そういって、英美は鞄からそれを、宝石を取り出した。

 手の平ほどの宝石は、赤く紅く、輝いている。