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小説蛾螺倶璃砦

2012-11-05

[][] 『二人なあたしと宝石の事件』 四”「魔王の赤瞳」事件の解決の顛末” その3  『二人なあたしと宝石の事件』 四”「魔王の赤瞳」事件の解決の顛末” その3 - 小説蛾螺倶璃砦 を含むブックマーク

 部員三人が更にどよめく中にあっても、静音は努めて冷静を装った。装っているだけで結構動揺はある。

(これが、一億……)

少し狂乱しそうになるのを抑えつつ、静音は問いかける。

「な、なんで貴方が、そんなもの持ってるわけ?」

 再び鞄に宝石しまいながら、英美は話す。

「話せば、ちょっと長い。いい?」

 当然、と静音達はこくこく頷く。

「どこから始めたらいいかしらね。……発端はおまじないよ。この間からちょっとネット上で流行ってる、あなたの今後の人生を占う、っていう奴ね」

「ああ、それなら知ってるわ。人体模型とか人骨標本とかの頭を使うっていう、ほとんどジョークみたいなやつね」

ジョークみたい、って先輩も実際にやってたじゃないですか」

 澄加の言葉ごまかすように、静音は咳払いする。

「ごほん! ……で、あなたもそれをやった、ってこと?」

「そういうこと」

「何か悩みでもあったの?」

 英美は軽くため息を吐く。

「進路の事とか、色々とね。……これ、詳しく語る必要あるかな?」

 暗に語らないと表情で語っているので、静音は、「無いわね」と言うと話の続きを促した。

「元の話を続けて?」

 英美はこくり頷く。

「まあ、悩みがあって、そのおまじないを試してみたの。で、実際に学校にあるのが一番効果が高いって話だったから、いちいちウチの学校のやつを拝借したのよ」

「危ないことするわねえ。ばれたら怒られるだけじゃすまないわよ?」

「いや、先輩も学校のを」

「ごほん! それで? なんでそれと宝石が繋がるのかしら?」

「信じてもらえないとは思うんだけど……、その学校の人体模型の頭に、入ってた」

 一同、しばらく静まりかえる。なんとも捉え様の無い沈黙が漂ってしまう。それをきっちりと感じ取った英美が、少し怒りを露わにする。

「本当なんだからね? この通り、本物があるんだからね?」

「そう言ったって、実物があっても信じられないわよ、そんな話。まあ単に拾ったって方が信憑性ありそうだわね」

「それを言うなら、安田先輩が犯人の一味だって方がまだ信憑性がありますよ」

「というかー、なんで人体模型の頭なんかにそれがー?」

 英美はここで表情を固くした。

「それが、白夜誘拐関係があるのよ。白夜誘拐した奴、そいつ宝石強盗の主犯で、宝石を人体模型の頭に隠したのさ。そして、それをワタシが奪っちゃったってわけ」

 聞き手である静音は軽く頷き、疑問を口にする。

「でも、それなら白尾さんじゃなくて、最初から貴女誘拐した方が早く……、ああ、この間のは」

「そう。この間、地下にいたのはその一環。あたしが人体模型をあの地下に放置したのをどっかで見て、で、拉致してどこにあるのか言わせる為にぶち込んでくれたってわけ。ついでにあんた達を突き落としたのも、その犯人よ。あの時は宝石は家に置いてて持ってなかったし、ワタシへの助けが思ったより早く来たのもあって、今は色々警戒してるみたい。だから、代わりに、ワタシと仲良くしてるあの子さらわれちゃったのよ。抜け目無くあたしを監視して、あの子が浚うに適任だと考えたんでしょうね」

「なるほどね。それで、警察とかには言うなって言われてたり?」

「そういうこと。実際、言いたくても言いだせないけどね。この宝石を持ってるってだけで、事情聴取とかされちゃうだろうから。そうなると、あの子を助けるのまでに手が回るかどうか……」

 と、それまで沈黙していた鹿野子が口を開いた。

「ええと、いいですかー、安田先輩―」

「何?」

「それにしてもですよー、安田先輩が言うように人体模型君の頭のなかにあったのが本当だとしても、それって学校宝石強盗にわざわざ進入して、宝石隠したってことになりませんー? うちの学校には人も多いですしー、警備だってしっかりしてますー。事件発生から今までに捕まってない犯人が、そんなリスクの多い方法をするようには思えないんですけどー。その辺はどうなんでしょうかー」

「ワタシだって、そこまでは知らないわよ。犯人も、あれの頭の中に入れた、としか言ってなかったし」

 そこで、澄加が手を上げる。

「あのー」

「何ですか先輩? 鋭い疑問をする鹿野子を惚れ直してハグとかしてくれますかー?」

「んなわけないでしょうが。……ええとね、それって、たぶんなんだけど……、その前に、安田先輩が頭を拝借した人体模型って、第二実験室の準備室に置いてあるやつですよね?」

「そう、だけど、それって話したっけ?」

「いえ。安田先輩、覚えてませんか? その頭を拝借しようとした時、誰かが準備室に入ってきたのを。それで、二階から飛び降りませんでした?」

 英美はほんの少し記憶を遡り、そしてその言葉意味に気付いた。

「……まさか、あの時のは、あなたなわけ?」

「そうです」

「ということは、……どういうことかしら?」

 静音の疑問に、澄加が答える。

「つまりですね、あの頭っていうのは先に先輩が放置した物で、その時に通りかかった犯人宝石を入れられて、で、それをあたしが元に戻して、それから安田先輩が取って、ってことなのでは、と」

 澄加はちょっと得意げに解説する。反応は様々返ってきた。

「うっわ、何その楯髪が喜びそうな面倒くさい話」

「でも、辻褄は合いますねー」

「そうか? そもそも、その人体模型の頭に宝石入れるって、発想がおかしくないか?」

「まあでも、実際あったわけだしねー。犯人さんもどっかトンでたんでしょー、その時は」

「そうかもしれないけどな」

 パンパン静音が手を叩く。

「さて、それはまあそういうことでいいわね。それじゃあ、最大の問題を聞いちゃいましょうかね」

「最大の、問題っスか」

 オウム返しする覚に一つ頷き、静音は目の前に座っている英美に、すっと顔を近づけて、聞いた。

安田さん。貴女は私達に、一体何をさせたいのかしら?」

 近づけられた顔に、英美は面食らう。だが、すぐに淀みなく言った。

「あの子白夜を助けたい。前はあの子が助けてくれたんだ。今度は、ワタシの手で助けたい。でも、一人じゃ出来る事なんてたかがしれてる。警察に言うのも危ない。だけど、他の人は信用できない。ワタシが宝石を持ってるって知ったら、何をされるか」

「確かに、どこも殺気立ってるものね。探偵部と諜報部は今は足の引っ張り合いだろうし、柄の悪いのにでも知られたら、って思っちゃうわねえ」

 静音言葉に、英美は首を縦に振る。

「だから、あんた達に頼むの。ワタシを助けてくれた白夜が頼みにした、あんた達を」

 言い切るその顔に、嘘偽りが入る余地を静音は見出せなかった。

 その事に気を良くした静音は、

「よろしい。引き受けるわ」

 と言うと、自分が常に醸し出す暗い雰囲気に正しい、黒い笑みをした。


「さて、その宝石犯人さんに何時渡す事になってるの?」

 黒い笑みを一瞬で消して、静音はそう問いかける。

今日の夜。十時頃」

場所は?」

「あの、廃屋

 静音は軽く頷く。

「なるほど。それならとっとと行動した方がいいわね。シマ君?」

 指差された覚は少し姿勢を正して聞き返す。

「なんスか」

あなた新聞部で、宝石強盗の情報を大至急。聞く理由は適当でっち上げときなさい。趣味だとかなんとか」

「分かったス」

 次に指差されたのは鹿野子。そして澄加。

「鹿野子ちゃんと澄加ちゃんはウチの部員で使えそうなの、引っ張ってきなさい。イッパチとニハチならたぶん図書館で自習していると思うから、優先的にね」

「はーい」「わかりました」

 動き出す面々を眺めつつ、静音はほころんだ。

「さて、この話はどういう風に片付けようかしら! なんだか楽しくなってきたわ!

「楽しんでんじゃないよ」

 英美がそう言うのすら、今の静音には楽しい事だった。


 その日の慌しい夕暮れを越し、夜となる。

 学校の裏山はそれなりの大きさがあるが、野犬など危険動物はいない。なので、時折耳元を羽虫が飛ぶ以外は、静かなものだった。

 その静寂に、小さいが人の声が割ってはいる。

「先輩、こんな事してて、大丈夫なんですか?」

 澄加の声だ。茂みに隠れてはいるので、声を潜めている。

「こんな事とは失礼ね。そりゃあオーソドックスだけど、だからこそ腕の見せ所なのよ?」

 ちなみに、今回の静音達の作戦は簡単なもので、相手が来る場所に潜み、隙を見て叩きのめそう、というシンプルな作戦だった。犯人を白尾から分離する作戦もきっちり用意してある。後は仕上げをごろうじろ、という段階だ。

 澄加は「違いますよ」と言う。

「そこじゃなくて、本当に来るか、って方ですよ。前にあたし達が安田さんを助けたじゃないですか」

「それで、今回も何かしらの助けが来るかもしれない、って考えると?」

「そうです。ここで待ち構える、ってのは相手も予想してくるんじゃないかなあ、と。それなのに、犯人さん、おとなしく来るんでしょうか」

 今、澄加達占術部の面々は例の廃屋に来ている。宝石泥棒の指定した、澄加達が閉じ込められかけた、あの廃屋である。その少し離れた茂みの中に、澄加、静音、鹿野子が隠れている。

 まだ指定の時間ではないのもあり、三人寄ればな状態になりそうだが、状況が状況なので、三人はこそこそ喋る。

「来るに決まってるますよー。一億ですよー、一億。リスクとリターンを考えれば、来ちゃうのは当然だと思いますー」

「大体、元々が強奪なんて危ない橋渡ってるのよ? その上に二度も誘拐までしてる。そんなのがこの程度の橋くらい余裕で渡るわよ」

「そう言われれば、そうですけれど……」

 澄加が口ごもったその時、静音の手が動いた。携帯を取り出し、相手を確認。通話に入る。

「シマ君? そっちは設営オーケー? よろしい。なら…」

 静音が話を続ける中、澄加は懸念を表明する。

「でも、来るとしたらこんな所に隠れてるのを見つけながら来る、とかも在りうるよね」

「その辺はどうですかねー。自分に近い仲間が捕まって、切羽詰ってるでしょうからー、余裕があるかどうか、って気もしますねー」

「ある方が強かったら……」

「この山の茂みを逐一チェックしながら来る、は流石にないと思いますけどねー。というか、今日はやけに心配性ですねー、先輩」

 そんなことを話していると、静音が通話を終えた。心なしか表情が活き活きとしているように見える。

 澄加が尋ねる。

「向こうの状況はどうでした?」

「ちゃんと出来てるみたい。後は相手が来れば問題ないわ。……と」

 そこに、足音が聞こえ始めた。

「ほら、来たわよ」

 隠れた茂みの隙間から、足元を照らしているのだろうライトの光が見えてきた。澄加達は息を殺して、それが通り過ぎていくのを待つ。

人影は、一人だった。

 慌てた澄加が小声で静音に問う。

部長、相手、一人ですよ」

「そうね」

「そうねじゃなくてですよ。白尾さん、連れてきてないですよっ。仲間とかいるって話じゃなかったじゃないですかっ」

「まあ、想定内ね」

「え? 想定内なんですか?」

「静かに」

 静音は静かながらも鋭い口調で、ついでに人差し指を澄加の口に当てて、澄加の喋りを止める。見れば、ライトの光が右に左に、何かを探すように動いている。

 澄加が小さく小さく言う。

「バレ、ましたかね」

「こっちを見つけたみたいじゃないから、様子を見ましょう」

 ライトの運行はまだ右、左、と続いているが、澄加達がいる方からは遠のいている。しばらくすると、その左右確認も終わったようで、再び前方に向かって照らし、移動し始めた。

 澄加はほっと一息。

「……一応、見つかりませんでしたね」

「怪しんだ可能性はあるけど、気のせいで済んだくらいでしょうね。最悪の事態は避けられたから問題ないわ」

 そう言う静音の肩を、鹿野子が叩く。

「……何」

「なんだか誰か来るようですー」

 誰かって? と道を注視すれば、確かに明かりが一つ、こちらに向かってくる。暗い中なので見えづらくはあるが、明かりを持つ者以外にもう一人、着いてきているのが分かる。

「どうやら、本命みたいですよー。一人は女の子みたいですし」

「そうねえ。でもそうなると」

「さっきの人は、ですよね?」

 澄加の言に静音は一人頷く。

「そうね。この時間にこんな場所に来る何気なく来る、ってのはいくらなんでも相当可能性の低い行為よね」

 そんな事を小声でささやいている内に、二人は通り過ぎていく。完全に通り過ぎると、静音達は茂みから出る。自分達のする事、見張りの番も終わったのだ。次にすることの用意もある。

静音携帯を再び手にした。

「シマ君。そっちにもそろそろ到着するわ。誰か一人、闖入者がいるけど、その後に行くから注意すること。オーケー?」

オーケーオーケー。万事抜かり無し、だね」

「……」

 思っていた人物からではな返答に、静音は一瞬呆然の顔つきになるが、すぐに表情を真剣ものに変える。そして、問いかけた。

なにやってんのよ、楯髪」

「なにってそりゃあ、あたしも宝石探ししてるからだよ?」

「答えになってないわよ。答えるつもりはないんでしょうけど」

「分かってんなら聞くない」

「……まったく。それよりも、あなたが手にしてる携帯は、シマ君のもののはずでしょうに。シマ君達は、どうしたの」

「寝てる」

「……気絶してる、の間違いでしょ、どうせ」

「あたしの不意打ち程度で総崩れになるようじゃあ、まだまだひよっこだぞ?」

あなた突撃してくるなんて予定外なんだから、総崩れもするわよ、それは」

「そういうことにしときましょうか。そろそろゲストも到着して時間も無いしね」

「到着、ってまさか」

「切るよ」

 その言葉最後に、通話は途切れた。

「ちい! 楯髪のやつったら!」

「楯髪先輩がどうしたんですか、先輩」

「澄加さん、鹿野子ちゃん、とにかく廃屋まで行くわよ。事態が急変したの」

「え?」

「楯髪が、おいしい所全部持ってくつもりなのよ!」