Hatena::Groupneo

小説蛾螺倶璃砦

2012-11-06

[][] 『二人なあたしと宝石の事件』 四”「魔王の赤瞳」事件の解決の顛末” その4  『二人なあたしと宝石の事件』 四”「魔王の赤瞳」事件の解決の顛末” その4 - 小説蛾螺倶璃砦 を含むブックマーク

 安田英美は混乱していた。

 英美は明かりの下にいる。犯人に指定された場所廃屋だが、まだ電気は来ていたのか、近くに立っている電灯からの光が照らしているのだ。

その中で英美は混乱している。

自分のする事は、ここで犯人の気を引き、うまく白夜から引き離すこと。後は覚達(覚と静音がイッパチとニハチと呼んだ二人。共に腕が立つという話しだった)が叩きのめす、という算段だった。

 だが、その叩きのめし要員が、一人の闖入者に叩きのめされていた。ご丁寧に、一人一人の隠れた場所を見つけて、瞬く間に個別で潰していったのだ。

 その闖入者、楯髪朔野は、通話していた携帯電話を倒れている覚の方に投げると、

「さてさて」

 と言って肩をぐるんぐるんと回し始めた。

「ウォーミングアップはこれくらいかね」

 その視線が、英美に向けられる。

「えと、あんた名前は?」

「……はい?」

「ちゃんと聞きなさい。あんたの、名前は?」

「……安田英美です」

「そうか。じゃあ英美ちゃん。あたしゃ楯髪朔野ってんだ。知ってるかな?」

「それは、まあ」

 楯髪朔野と言えば、学校内でも問題児中の問題児である。英美も名前は当然知っていたが、本人を目にしたのはこれが初めてだった。

 その朔野が、話を振る。

「そうかい、それで、だ。あんたどうしたい?」

「……どういう意味ですか」

 朔野がにやり、と笑う。意地のとても悪い顔で、である

「ここはもう、あたしに頼る以外にないんじゃないかなあ、って言いたいのさ。頼りの強襲部隊が、こうもあっさりとのされてるんだよ? あんた一人で、強盗犯とやりあうのかい?」

「……それは、あなたが」

「そうだね、それは認めよう。あんたの予定を、あたしが一気に崩しちゃったのはね。でも、その元の作戦で大丈夫だと、あんたは思ってたのかい?」

「……それは」

 不安は当然あった。頼れる手が、か細い物でもあるのとも分かっている。だが、他に手は無かった。警察も、先生も、家族にも頼れない。どれに頼っても時間が足りない。だから、この手を取ったのだ。

 しかし、朔野はその手の弱さを指摘してきた。指摘されれば、思っていた不安が、頭をもたげる。実際に闖入者にあっさりやられてしまっているのを見れば、不安現実のもののようにすら見える。

 その不安を浮かべた表情にうっすらと見た朔野は、そこに付け込む為に言葉をつむぐ。

「思ってたんだろう? 不安だって。思ってたんだろう? 頼りないって。それは、実際この通り。不安的中だろ? そしてどうするんだい。作戦は崩壊しちまった。こいつら起こすにしても、もうあまり時間無いんだろう?」

「……だから、楯髪さん、あなたに頼れっていうんですか」

「その通り。あんたとしては、最終的に後輩を助けられればいいんだろ? その過程ってのは、この際、特に問題ないんじゃないかね?」

 英美は沈黙する。それはその通りだ。結局、助けられなければ、意味が無い。その為になら、パートナーが誰でも、特に問題はない。

この闖入者の腕の方がきっちりと立つのは、ここに倒れる男子証明している。信用におけるか、という点が重要だが、今更ながらそれを確認する時間が無い。そして、頼らないとなると、一人で犯人と相対しなくてはならない。

結局、選択肢は無いのだ。

 英美は、軽い溜息とともに言った。

「……助けて、くれるんですね?」

「もちろん」

「なら、お願いします。お礼は出来るか分かりませんが」

「礼なら、こいつらにやるはずだったものをくれれば問題ないよ」

「結局、そういうことですか」

「そういうこと。……っと、どうやら来たみたいだね」

 道の方を見れば、ライトか何かの光がこちらに向かってくるのが見えた。


 ちかちかと明滅する常夜灯の光の下に、一人の男と一人の少女がやってきた。少女白夜、はロープで縛られ、それを男が握っている。

 男は顔に覆面をしている。パーティーグッズの一種だろう、狼男の顔だった。普通の日の下ならそれほどでもないだろうが、常夜灯の薄明かりの中では、それなりに雰囲気がある。

 狼男が、動かない口の下にある口から言葉を発する。

「これは、どういうことだ?」

 狼男視点から見たこの場は、確かにどういうことなのか良くわからないだろう。男子三人があちこちで倒れており、木刀なんかを持っている学生服の女が立っている。その女はとても好戦的な瞳でこちらを見据えているのだ。どうにも宝石人質の交換、という雰囲気ではない。

 男の質問に、木刀を持った女、朔野が答える。

「ま、色々あったのさ。そしてこれからも、色々あるぜ?」

 そういうと、朔野は木刀狼男に向けた。視線も鋭く睨み付けるものだ。

 狼男は、その視線にたじろぐ。覆面のせいで表情は分からないが、かなり困惑しているのが動きから見て取れる。

ちょっと待て。何をする気だお前は。こっちには人質だっているんだぞ」

 声もどもっている。どもりながら、白夜を盾にするように、自分の近くに引き寄せている。このまま殴りに行けば、漏れなく白夜を殴ってしまいかねない位置だ。更にダメ押しと、拳銃が首元に突きつける。

白夜!」

「せ、先輩……」

「おい、お前も言え。変な事はするなってな。じゃないと、命の保障はしないぞ」

 突きつけた拳銃存在感を出す。一気に男が自信を取り戻したのといい、本物なのは間違いないようだ。

しかし、それを突きつけられている白夜視線は、強い色をしている。その白夜が叫んだ。

「先輩! 逃げてください! この人は、宝石を奪ったら、わたし達を殺す気です!」

「お前っ! 死にたいのか!」

 男が拳銃に力を入れる。ぐぐっと首に食い込み、白夜は痛みに顔をしかめる。だが、怯えはない。ひるまず、更に言う。

「死にたくなんか無いです。でも、先輩を危険に巻き込むくらいなら、死んだ方がマシです!」

 白夜が、ここぞとばかりに体を動かし、男の体勢を崩そうとする。思わぬ逆襲に、男は一旦白夜を離すが、逃げる間を与えずに、すぐに引き寄せなおし、今度は正面同士の形になると、白夜の額に銃口を突きつけた。

 白夜があがきを止める。先ほどまでは拳銃も良く見えていなかったから、恐怖も少なかったのが、流石によく見える位置にくるとその威圧感はただならぬものがある。

 なので腹をくくったつもりの白夜でも、恐怖で動きが取れなくなってしまった。

 男が、涙目になっている白夜を再び盾にするように捕まえると、拳銃で朔野達を牽制しつつ、いらだたしげに言う。

無駄な事してる場合じゃないんだが、もう一度言うぞ。下手に動くなよ。こいつが死んでもいいってんならいいがな」 

「先輩……」

 涙目のままな白夜が、申し訳無さそうにする。もう一度反抗する気力は残っていないようだ。英美も、それを咎めるようなことはしない。自分も先ほど銃を向けられた時、とてつもない恐怖を味わってしまっている。あれだけ反抗できただけでも、凄いと分かっているのだ。

 だが、そんな事に頓着しないのが、一人。

 朔野だ。

 腕をぐるんぐるんと回して、表情も獰猛と言う言葉がぴったりとくる笑顔になっている。

 男は、呆れたように言う。

「お前な、こっちの話聞いてたのか? こいつ今すぐ殺したっていいんだぞ?」

「そっちこそ分かってるのかい? その娘殺しちゃったら、あんたの盾はなくなるんだってこと。そして、そうなったらアタシ達も死に物狂いになるってことも」

 笑みのままの朔野の言葉に、英美が慌てて反論する。

「ちょ、ちょっと楯髪さん! 何言ってるんですか! 助けてくれるって言ったのはあなたじゃないですか!」

「ったく。分かってるよ、んなことは。でも、ちょっと脅してやらないと、自分が磐石な所に立ってると勘違いしちゃってるからさ、この馬鹿

「バカはてめえだろ。この状況を、どうにか出来るとでも思ってんのか?」

 狼男は見えない鼻で笑う。圧倒的に優位に立っている者がする、余裕の笑いだ。

 その笑いに答えるように、朔野もゲハハハ笑う。男以上に余裕を感じさせる笑いだった。

 男は、その笑いを聞くや、。冷静になりいぶかしむ。朔野の余裕に、疑問がわいたのだ。この笑う馬鹿は、一体何がしたいのか。何をするつもりなのか。それが分からない。だから、男は結論した。

「面倒だ。まずお前が死ね

 銃口が朔野に向き、そして銃声が響いた。

 男の狙いは朔野の体だった。真正面を向けているから、一番面積が広い。死のうが死なまい構わない相手だ。当たれば問題ない。そしてどこに当たっても、黙らざるを得なくなる。面倒な展開にもならない。もう少し早く、こうしておけば話が早かった。

 男はそんなことを考えながら、倒れる朔野を見る。

つもりだった。

 男の視界の中から、朔野が掻き消えていた。

 消えたのではない。と一瞬視界の端に朔野が映る事で、男は気づく。朔野は男が射撃するタイミングを盗んで、男を中心に大きく円を描くように移動したのだ。

 男は、次の射撃をと、狙いを朔野へと向ける。

 が、朔野は円運動を続けている。横に横にと素早く移動する朔野。

くそっ」

男は捕捉出来ない。横へ横へと銃を向けるが、それより速く、朔野が移動する。

男は捕捉出来ない。盾であるはずの白夜も、今では視界と動きを遮る障害となってしまっている。

 そうこうしている内に朔野の円運動は、徐々に半径を狭めていく。男と朔野の距離が、縮まっていく。

くそっ」

 男はとうとう、片手と視界を塞いでいた白夜を突き飛ばし、回転する朔野の動きを追う。

 しかし、時既に遅し、だった。

 視界から完全に朔野の姿が消えてしまった。そして、背後から、声。

「どこ見てんだい?」

くそっ」

 男は振り向きざまに銃を向ける。だが、銃口を向ける間もなく、頭蓋に衝撃。

「がっ」

 男の意識は吹っ飛んだ。