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小説蛾螺倶璃砦

2012-11-07

[][] 『二人なあたしと宝石の事件』 四”「魔王の赤瞳」事件の解決の顛末” その5  『二人なあたしと宝石の事件』 四”「魔王の赤瞳」事件の解決の顛末” その5 - 小説蛾螺倶璃砦 を含むブックマーク

「さて、と」

 男を縛り上げ終わった朔野は、のびている男の上にどかっ座る。そして滔々と語る。

「あんたの失策は、せっかくこちらの動きを止めれるって切り札を、ついつい手放した事だね? すぐ引き寄せていりゃあ、アタシも迂闊にゃ殴れなかったってのにねえ」

 ハハハ、と笑ってそんな事を言う朔野に対し、白夜の縄を解いている英美が怒った。

「楯髪さん! もしそうなってたらどうするつもりだったんだよ、あなたは!」

現実はどうだい? 助かってるじゃないか

「……」

 揺るがない事実を突きつけられ、英美は沈黙する。それを肯定と見た朔野は催促をする。

「さて、それじゃあ貰う物貰っちゃいましょうかね。持ってきてるんだろ、〝魔王の赤瞳〟」

「……ええ」

 そう言うと英美は懐から宝石を取り出し、そして解放した白夜に、それを手渡す。

白夜、先に行ってて」

「は、はい

 白夜が受け取り、朔野から距離を取ろうとする。それを追おうとした朔野の前に、英美が立ちはだかり、構える。

「……おいおい、どういうつもりだい?」

「元から、踏み倒すつもりだった、って言ったらいい?」

「なるほどね。そういう事かい

 朔野と英美は睨みあう。そこに。

ちょっと楯髪! 良い所だけ持って行こうなんてそんなの許さないわよ!」

 静音達三人がやってきた。常夜灯の下、男達が倒れ、英美と朔野が剣呑な表情をして相対している今の場の状況を見て、三人とも混乱する。

「って、どういう状況なの、これ?」

「あれ、白夜さん、助かって?

 ちょっと待って、今あの子宝石持ってるよ。

 え? どういうこと?」

 澄加の疑問に、楯髪が答える。

「しゃくな位簡単さ。あの子らも、宝石を狙っていたってわけだ。一万ポイント欲しさにね」

「つまり、あたし達は良い具合に利用されたって事?」

「そうよ!」

 英美は朔野から視線を外さず言った。

「あたし達空手部は弱小。だから当然施設も全然で、それで弱小のまま。だから、ここで一発大きなポイントを貰って、設備拡充して、強くなるんだ! だから、この宝石は渡さない!」

「なるほどなるほど。場合に寄ってはあたし達も倒す予定だったわけね」

 静音が変な所で納得している、その隙を見て英美は叫んだ。

白夜、行って!」

 言われ、一つ頷くと、白夜は走り出す。

「逃がすかよ!」

 その前に朔野が立ちはだかろうとするのを、英美が蹴り一閃して間に割って入る。

「行かせると思ってか!」

続けざまに突きと蹴りを繰り出す英美の動きを、朔野は冷静にさばく。突きを、蹴りを、紙一重で回避する。英美の攻撃速度は空手部という箔以上の物がある。弱小の中でも気を吐いてきたその修練が可能とする域だった。

 だが、朔野はそれを軽々と回避する。

(流石に、この辺りで喧嘩最強と言われてないか!)

 なら、と英美は策を弄する。一端朔野から距離を取り、叫んだ。

「うらない部!」

「占術部よ」

「依頼はまだ有効だよな!」

白夜さんを助けるって? それならもう助かってないかしら」

「まだ、この暴漢からは助かってない!」

 英美の叫びに、静音は一瞬呆けて、それからアハハハ笑い出した。

「確かにそうかもね。それに私達はまだ一回も助けてないか。いいわ、請け負ってあげる」

「先輩! いくらなんでも気前良すぎます!」

大丈夫よ。英美さん、それなら、ポイントは折半ってどう?」

 静音の提案に、牽制しながら間合いを保っている英美は答える。

「五千ポイントあれば、こっちも十分だ。いいよ」

「成立ね、鹿野子ちゃん、澄加ちゃん、行くわよ」

「えー、マジで楯髪と敵対するんですかー!」

「元から敵対してるのよ、今回は。諦めなさい?」

対する暴漢である朔野はこちらもアハハハ笑う。

「なかなか面倒なことになってきたじゃないか! ありがとうよ、ハエ!」

別にあんたの為じゃないんだけどね」

 そう言って走っていく静音達を横目に、朔野はまたアハハハと笑う。まるで隙だらけに。

 そこを、英美は見逃さない。倒せるなら自分の手で。そう考えて気合一閃。

「せいやっ」

 裂帛の気合で放たれた渾身の蹴りは、しかし当たると思った刹那にしゃがんだ朔野に当たらない。それどころか蹴り抜いて出来た隙を突いて、立ち上がりざまに木刀で英美の腹に一撃を食らわす。

「ぐぶっ」

 おえろえろと胃の中の物を吐き出しつつ、英美は前のめりに倒れる。

「さあ、鬼ごっこと参りましょうか!」

 鬼の如き笑みで、朔野は宣言した。


「勝利条件を確認しましょう」

 走りながらの、静音の言。それに対して鹿野子は明確に答えた。

「とりあえず、学校まで護衛出来たら勝ちですよねー」

「正確には職員室に持ち込んで、宿直の先生に渡せれば、ね。警察に直接だとポイントもらえないから注意よ?」

「途中で楯髪先輩に奪われたら負け、ですね。

 その楯髪、もう追ってきてるけど?」

「英美さん、負けちゃったんですねー。意外といけるんじゃあって思ったんですけど」

「楯髪に勝とうってのはどだい無茶な話よ。あれはもう災害レベルで強いからね。だから、あれに勝とうという考えは意味が無いわ」

 背後でフハハハ笑いながら迫ってくる朔野を感じつつ、静音がそう断言する。

「じゃあどうするんですー? このままだと追いつかれますよー? それとも誰かが足止めするんですかー?」

 鹿野子の冷静な発言に、うんうんと静音

「とりあえず、澄加ちゃんに鹿野子ちゃん、あんた達で食い止めてもらえる?」

「言うと思ってカウンター考えてましたけど素直に無理です。わりと武闘派な覚君とかが伸されてる段階であたし達でなんとかなるわけないじゃないですか!」

「鹿野子としても、あの変人とどうにか、はごめんですー」

 両者の反発を受ける静音だったが、予想通りの反応だったからか、やはり冷静に言う。

「なに、勝てとは言ってないじゃないわよ。とりあえず少しでも時間稼ぎしてくれれば、後は私がなんとかするわ」

「なんとか出来るんですか? プランは?」

「言ってる暇は無いわね」

 その台詞と共に、背後の声とライトの光が大きくなる。

「フハハハハ! 待て待て待てよー!」

「じゃあ、頼んだわよ!」

 静音は速力を上げて疾走していった。

「うわー、なんか見捨てられた感満載!

 実際見捨てられてないかな、これ?

 あくまで感! 感だよ! 先輩に何かプランあるはずだよ!」

「だったらいいんですけどねー。で、どうします?」

 鹿野子が諦念をかもし出しながら、目の前の事態に、つまり常夜灯の下、楯髪朔野と相対する。

おおっと、ここで時間稼ぎのつもりみたいだね! 面倒だから乗ってやるよ! ってもなあ、鹿野子ちゃんも澄加ちゃんも、殴りたくはないなあ。ないんだけどなあ」

「こっちもそんなので殴られたくないですよー。でも実際問題、鹿野子達でこの暴力魔人をどうにか、ってどうすればいいんですかねー?」

「あー、カミサン、なんとかなる?

 うーん、時間稼ぎくらいにしかならないよ?

 いや、それでいいから。

 じゃあ、やってみるよ」

 澄加の体が自然と動く。手を地面にやり、それから前へと向ける。

 そこには一面の砂利。それが、朔野めがけて降り注ぐ。

「うおおっ」

 思わぬ攻撃に怯む朔野に、続けざまに念力に寄る砂利礫をぶつける澄加(カミサン)。

「流石に面の攻撃は回避できないよね!

 やるじゃない、カミサン!」

「いたたたたっ」

 砂利を持ち上げては、朔野にぶつけるカミサン。何度も何度も、砂利礫が朔野に命中する。

「それそれそれ!」

「いたたたたっ」

しばしそうした砂利攻撃が続いたが、その状況にも変化が起きる。朔野が顔面を防御しながら、にじりにじり接近し始めたのだ。

「うわあ! 近づいてくる!

 まあこれ、痛いだけだしね、これ。どうする?

 上手く行くか、だけど策はあるよ!」

「へえ、見せてもらえるかね?」

 朔野と澄加の距離が、人一人分まで詰まる。そこで澄加は、先ほどから自分の後ろに張り付いていた鹿野子の、その背後を取る。つまり対峙しているのは鹿野子と朔野という形になる。

 そうなった上で、澄加は言った。

「前に鹿野子を差し出すって話、してましたよね! それが今じゃ、駄目ですか?」

「ちょ、ちょっと澄加先輩っ」

 面食らう鹿野子。だがそれ以上に面食らっていたのは朔野だった。しばし呆けた顔をして、それから我に返って文句を言い出す。

「あー、そりゃ魅力的な申し出だけどさあ、タイミングが悪いよ。別の時にしてくれない?」

「鹿野子としては別のタイミングでも大変嫌なんですけどー!」

「いやいや、そこをなんとか。このまま担いで持って行ってくれて問題ないです」

「鹿野子としては、それは最悪なんですけどー!」

 鹿野子が大変嫌そうに叫ぶが、朔野はその言葉に目を輝かせた。

「担いで、か。悪くない面倒臭さだね! 鹿野子ちゃんも嫌がってるし」

「嫌がってるんだからやめろよバカー!」

 叫んで逃げようとする鹿野子だったが、そこはいつの間にか澄加ががっちりと羽交い絞めにしている。小柄な鹿野子では振りほどけない。そのまま、鹿野子は朔野に移譲された。

「先輩! 澄加先輩! 恨みますよー!」

「ごめんねえ。他に方法が思いつかなかったんだ。

一応、時間稼ぎにはなったんだから、問題ないじゃん」

「そういう問題と違いますよこれはー!」

「じゃあ、アタシは行くよ。大分時間稼ぎされちゃったから、急がないとね!」

 そう言って鹿野子を担いだまま駆け出す朔野。それをただ見送る澄加。

「…まさか本当に連れてくとはね。楯髪ってなんなの?

 まあ、ああいう人だからいいんじゃないかな。趣味おかし過ぎてついていけないよ。さて、これからどうしようか。時間稼ぎ終わった後どうするか、って聞いてないし。

覚達を放置してるから、起こしてくる?

 そうしますか」

 そう結論し、澄加は来た道を戻っていった。


「ハハハハハ!」

 鹿野子を担ぎ、朔野はひた走る。

 その走りはまさしく疾走という物だった。鹿野子を担いでいるというハンデを、そして山道だというのを感じさせない、軽快な走り。

だがその心の内には焦燥があった。

(流石に面倒臭くなりすぎたかね。ここで追いつかないと、全くの無駄骨だ。それはそれでありだが、ハエとの勝負に負けるのはしゃくだねぇ)

 楯髪は疾走する。鹿野子は先ほどまで嫌がって動きの邪魔をしようとしていたが、実際に邪魔すると自分が落ちる可能性に気付いたのと、激しい移動による揺れに対応出来ずに酔ってきているので今はおとなしいものだ。

 楯髪は疾走する。その視線の先に、ライトの光が映りこんだ。そちらを手持ちのライトで照らせば、髪は短髪の女子。つまり白夜だ。

「追いついたぜ!」

 そう叫んだ、次の瞬間にライトの光の中にに飛び込んできたのは、見慣れたスーツ姿。

「なにっ」

 気付いた朔野はすぐに停止に入る。そして止まった次の瞬間に目の前を蹴りがかすめた。

「っつ! 危ないじゃないか、京華!」

 蹴りを放ってきたスーツ姿――楯髪京華――が、怒りを滲ませて返答する。

「危ないのは姉さんよ。こんな所でこんな時間女生徒を担いで更に女生徒を追いかけて。何しようって言うの?」

「今は何もしないよ。後でするんだよ」

 京華は溜息一つ吐いて、言う。

「どっちにしろ、ワタシとしてはそれは容認出来ないから、ここでその子を下ろしてもらいましょうか。その後は当然お説教コースよ」

「下ろすのはいいが、お説教はごめんだね」

 そう言いつつ鹿野子を下ろし、朔野は思案する。

(このタイミングでこんな所に京華が来るなんてありえないよなぁ。つまり、これはハエの差し金、と見るのが妥当か)

 どうする? と朔野は考え、すぐに結論を出す。

時間が無い。殴り倒そう)

「しゃっ」

 京華の視線が鹿野子に注がれているその隙を突き、朔野は木刀を力一杯振るう。狙うは顎。脳震盪を起こさせようという算段だった。

 だが目論みはあっさりと潰える。京華が上体を後ろに反らし、木刀回避たからだ。

 木刀は狙いを外れて振り切られ、そして生まれる気まずい沈黙

「……」

「……」

 朔野は再び思考し、即断する。

(逃げよう)

「だっ」

「待ちなさい」

 走り抜けようとする朔野の制服の襟首を、京華は軽々と捕まえてみせる。

「ぐおっ」

 悲鳴を上げる朔野に、京華はたしなめるように言った。

「姉さんの思考なんてワタシには筒抜けよ。それでどうにか出来ると思ったの? さあ、ちょっと学校説教よ」

 そう言いつつ、京華は朔野を羽交い絞めにして、そのまま移動を開始した。

「いや、ちょ、ちょっと待て京華! これにはさ、深い訳が」

「それは後で聞くわ。聞くだけだけど」

「いや、本当に待てって! これは結構大事人助けがだな!」

はいはい、行くわよ行くわよ」

 抵抗する朔野の力を全く感じさせない足取りで、京華は朔野共々学校の方へと進んでいった。

 それを端で見ている視線一つ。静音である

「いやあ、上手くいったわ」

 そう言うと、静音は森の茂みから現れた。そして、地面に座った状態でぽかんとしていた鹿野子に駆け寄る。

大丈夫? 鹿野子ちゃん」

「あっ、部長。どうにかするって楯髪先生を呼んでくる事だったんですか。無茶ぶりして逃げたんじゃなかったんですね」

「まあね。前に調べておいたから、今日の宿直が楯髪せんせだって知ってて、おかげで出来た芸当だけど。というか、逃げたと思われるのは心外なんだけど」

 詰め寄る感じの静音を、鹿野子は無視して言葉を続ける。

「でもこれで、楯髪に負ける事はなくなりましたね」

「……そうね。後は白尾さんが宿直の先生の所に行けば万事解決だわ」

「ええ……、え? 部長―、今なんて言いました?」

 静音言葉に引っかかるものを感じた鹿野子は、静音にそう問いかける。

「何って、白尾さんが宿直の先生の……」

 静音も引っかかりに気付いた。そして叫ぶ。

「宿直って楯髪せんせじゃない! それをなんで呼んできちゃうのよ! 居てもらわなきゃだめじゃないの!」

「したの部長でしょうー! どうするんですか! 学校鉢合わせ、……あれ? でも白尾さん、あっちに行きませんでした?」

 鹿野子が指差す先には学校は無い。街へと行く道だ。白夜は、そっちの方に行っていたのではないか。そう鹿野子が示唆する。

「えと、つまり……、白尾さんは、どこへ走ってったんでしょうか?」

「……」

 沈黙が場を支配する。白尾白夜は、どこへ?