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小説蛾螺倶璃砦

2012-11-09

[][] 『二人なあたしと宝石の事件』 終 “事件の後で”  『二人なあたしと宝石の事件』 終 “事件の後で” - 小説蛾螺倶璃砦 を含むブックマーク

「この間の事件、悲しい事件だったわね」

 占術部部長、蝿原静音が厳かにそう言った。対して、部室にいる三人の部員の発言は冷ややかだった。

「そうでもないでしょう。結構いい話で終わったんじゃないですか?」

「悲しいのはむしろうちの部ですよねー」

「結局、得る物がほぼなかったしな。俺なんてぶちのめされただけだからマイナスだよ」

「ノリが悪い子達ねえ。ここは付き合ってくれてもいいでしょう?」

 静音が、部長の字の書かれた三角錐を置いた机の上に座り、ぶらりぶらり足を振る。

「でもまあ、いい話にはなるわよね。おかげで空手部はいい目にあったわけだし」

 〝魔王の赤瞳〟事件は意外な形で幕が下りた。宝石を持った白夜は、学校ではなく警察に直接宝石を持ち込んだのだ。その事で、白夜は表彰を受ける事になり、空手部にもその影響で貢献ポイントが振り込まれた。つまり色々安泰であったわけだ。

 しかし、そのおこぼれを我が占術部は受け取れなかった。

「学校に持ち込んだ場合のみでしょ?」

と英美は言って、譲らなかったのだ。実際、表彰を受けた時のポイントは、一万ポイントに比べれば微々たる程度だったので、それを分けるのを嫌がったのだ。

 ぶらぶらぶらぶら足を揺らす静音。そして溜息を何度も何度もしつつ、静音は呟く。

「犯人逮捕の栄誉も得られなかったし」

 宝石強盗の犯人は、あの後最初に気がついたらしく、澄加が到着した頃には既にその姿は無かった。だが、縄で縛られた状態だったのもあり、街中に下りてすぐに警戒中の警察に捕まったのだ。その為、犯人逮捕による貢献ポイントも得られなかった。

 まさに骨折り損のくたびれもうけ。ゆえに、静音はちょっとばかり落ち込んでいる。

 そんな静音を、鹿野子が慰める。

「でも部長、結局勝負がお流れになったんだから、まだ良かったじゃないですかー。というよりは、楯髪がウチの部に絡んでこなかっただけで、鹿野子は大満足な結果ですよー」

「まあそうね。こっちが顎で使われる事がなくなっただけでも、良しとしましょうか。でも、楯髪、顎で使いたかったなあ」

「先輩、あんまり趣味の良い発言じゃないですよ、それは」

「楯髪も、きっとそう思ってるだろうから、おあいこよ。……さて」

 静音はおもむろに服の内ポケットをまさぐってから紙を取り出し、言った。

「カミサン、帰れる方法、見つかったわよ」

 突如の宣言に、ぼんやりと座っていた澄加の体が跳ね起きる。

「ほ、本当にっ?」

「ええ。最後の手段だったんだけど、おじい様に聞いたら分かったわ。色々面倒だから省いて言うけど、とりあえず帰り道をきちんと用意してなかったのが敗因だったらしいの。それを今回用意したわ」

 そう言って、紙をひらひらさせる。

「それで、帰れるの?」

 おずおず聞くカミサンに静音は優しく頷く。

「ええ。でもこれ、何かした後じゃないとって、制限があるのよね。何かカミサンにしてもらうことはあるかしら?」

 静音が面々を見て言うが、誰もが首を横に振る。

「してもらう、って言っても、カミサンスよ?」

「今まで見たのがー、棒倒し占いと念力程度じゃあ、頼める事が限定されますしー」

「確かに、カミサンその程度だものねえ」

「なんだ、こき下ろしたいだけか、あんたら」

 カミサンが澄加の目をジト目とする。アハハと静音は笑ってそれをいなす。

「実際問題、私達には今カミサンにしてもらう事ってないのよねえ。依頼でもあれば別だけど」

 そこに、扉にノック音。来客だ。

「どうぞ」

 静音が入室を促す。入ってきたのは。

「あら、未来さん」

 楯髪未来だった。制服姿でも可愛らしさが減じていない。しかし、どこか焦りが見える。それに気付いた静音が、水を向ける。

「何か、御用かしら?」

「えーと、聞きたい事がありまして。いいですか?」

「もちよ。千客万来よ、うちは。まあ、中に入っていらっしゃい」

「失礼します」

 すすっと、未来は入室する。そして静音の前まで行き、そして机をバン! と叩いた。

 いきなりの展開に、流石の静音もびくっと身をすくませる。

「い、一体何よ。怖いわねえ」

 少し怯えの入った静音の言葉など無視して、未来はずいっと静音の顔に自分の顔を近づけると、張った声で聞いた。

「姉さんをどこいるか、教えてください!」

「……は?」

「姉さんです! 楯髪朔野! 静音さん、居場所知ってますよね!」

 あまりの剣幕に気圧される静音。しかし、ピンと来るものがあったのか、前のめりな未来の肩を持ち、押して距離を作ると、冷静に言った。

「私もあいつとは縁深いけど、楯髪の居場所なんて逐一知ってるわけじゃないわよ。今日とか、顔すら合わせてないし。というか、授業にも出てなかったわね、そういえば」

「知らないんですか?」

「全くね」

 そう聞いて、未来は肩を落とす。なにやら訳ありのようだ。と静音は理解し、聞いてみる。

「楯髪に何か用があるの?」

「今日はちょっと姉さん達に会わせたい人がいるんですけど、朔ねぇだけどこにもいなくて。だから困ってるんです」

「なるほどね。……そういう事なら」

 静音の顔に獲物が掛かった、という色が掛かる。良い案を思いついたのだ。

「カミサン?」

 呼びかけると、カミサンは「どうかした?」と返事をする。それを聞いて、静音は言った。

「楯髪の、楯髪朔野の居場所、例のやつで探ってもらえる?」

「お、おお! それなら出来るぞ! つまり帰れるぞ!」

「……? 何の事です?」

 怪訝な顔をする未来を、「いいから、いいから」と煙に巻きながら、静音はカミサンに促した。

「早速、やってもらえる?」

「いいとも!」

 早速ボールペンと紙と下敷きを用意するカミサン。

「特徴は大体知ってるから、聞かなくても大丈夫だぞ」

 そう言って、すらすらと特徴を紙に書きつける。そして書き上がったそれをボールペンにまきつけ、下敷きに立てて、倒した。


「ここだね」

 倒されたボールペンの方向に進む事、十分程。占術部の面々と未来は、屋上へと辿り着いていた。そしてそこにはベンチに寝そべる朔野の姿が。

「朔ねぇ!」

「んがっ」

 未来の声に、朔野は変な声を上げて目覚める。目をしばしばとして、口元の涎を拭う。

「んあ、未来? どうした?」

「どうした、じゃないよ! 今日は私の彼氏に会う約束でしょ!」

「あ、ああ、そうか。いやあ、陽気が良いもんだから、ついつい昼寝してたよ」

「あんた、朝の授業からずっといなかったでしょうに。何が昼寝よ、寝過ぎだわ」

 静音の言葉に、朔野はアハハ、と笑う。

「そういや、そうだね。でもさ、こんな陽気の日に授業なんて苦行じゃないか?」

「楯髪せんせが聞いたら激怒しそうな事言わないの」

 暢気に会話する二人の間に、未来が割って入る。

「それより朔ねぇ、もう大分待たせてるから急いで来てよ。京ねぇも待ってるんだから」

「ああ、はいはい。分かった分かった急かすな急かすな。じゃあな、ハエと愉快な仲間達」

 そう言うと、未来に引かれるようにして、朔野は去っていった。

「さて、これであたしも帰れるね」

 カミサンが澄加の口でそう言う。静音が頷き、紋様の書かれた紙を取り出した。ついでに小さいナイフも取り出し、前にしたように指先を軽く裂く。そこから染み出した血を紙に落とす。

 すれば、血が紋様を彩り、赤くする。そして光。

「これに触れば、帰れるわよ、カミサン」

「そうかい」

 そう言って、カミサンは紙に触ろうとする。しかし、その手が止まる。

「……。

 どうしたの、カミサン?

いやさ、短い間だったが、迷惑掛けてすまなかったね、澄加。思い返せば、本当に迷惑を掛けたって、思うよ。

……そんな今更な事言うわけ?

いいじゃないか、言わせてくれても。一心同体だった仲じゃないか。

……まあ、迷惑だったけど、面白い経験だったよ、一心同体。

そうかい。そう言ってくれると、なんかマシな気持ちだね」

言うだけ言うと、カミサンは紙に触れた。

光が大きくなり、眩くなり、しかし、それはほんの一瞬。すぐに収まり、後には何も残らなかった。

覚が一息つける。

「これで、伊藤さんも面倒な状態からは解放された、ってわけか」

 鹿野子が言う。

「そう言いつつ、ちょっと勿体無いとか思ってんじゃないの、シマ? 先輩と気軽に話せる口実がなくなったもんねえ」

「そんなのが無くても普通に話せるってんだよ」

「それが強がりじゃなきゃ良いけど」

「あんだと?」

 はいはい、と静音が拍手を打つ。

「言い争いは後。殺気の光を見て物見遊山の人が来たら困るから、とっとと退散しましょう。……、澄加ちゃん?」

 静音は先ほどから動きが無い澄加に話しかける。

「とっとと帰るわよ? それとも、もうちょっと感傷に浸りたいのかしら?」

「えと……その……」

 妙に歯切れの悪い澄加に、静音は嫌な予感を覚える。

「澄加ちゃん、もしかして」

「えと、その……」

 口ごもっている澄加の口が、しかし次には明快な言葉を発した。

「その、もしかしてだよ!」

終わり