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棺桶の中身はただの死体だった。顔を見れば何か思うこともあるかと思っていたが、意外にも特に感慨も覚えず、ただ鼻に詰められた綿を見て、どこか遠くで野垂れ死にされるよりは面倒が無かった、と、何度も考えたことをまた思った。
父に最後に会ったのはもう十年以上も前になる。腰を痛めて以来現場に立てなくなった父は酒に溺れ、家族に暴力を振るうようになった。暴力はすぐにエスカレートし、母は他に男を作って家に寄り付かなくなり、ある日俺は父親を金属バットで殴打して昏倒させ、そのまま施設に入ることになった。ありふれた話だ。
妹は俺と佳代子をかわるがわる見て、何度か口を開きかけては口をつぐみ、結局俺には何も言わず、佳世子に深々と頭を下げて、兄をよろしくお願いします、とだけ言った。フォーマルスーツから覗く首筋に背骨が浮き上がるのを見て、俺は思わず目を逸らした。
帰り道、引き出物をコンビニのゴミ箱に捨てた。佳世子は何か言いかけて、「待ってて」と言ってコンビニに入っていった。ついていこうとする俺を制して、「そこで待ってて!」と言う。見られたくないものでも買うのかと思い、大人しく外で待った。手持ち無沙汰に見上げた空は鉛の色で、寒さに背中を丸め、ゴミ箱の脇に置かれた灰皿を見て、俺は煙草を吸いたいと思った。
小走りに戻ってきた佳世子は、俺の目の前で袋から肉まんを取り出して、手でふたつに割ると、半分を俺に差し出してきた。
「ね、はんぶんこしよ?」
小首をかしげてそう言う佳代子を見て、俺は唐突に、猛烈な羞恥を感じる。耳がカッと熱くなって、鼻の奥に涙の味を感じて、顔を見られないように、強引に佳代子を抱き寄せた。佳代子の短い悲鳴を耳元で聞く。もう、落っことしちゃったよ。そう言う佳代子に構わず、俺は腕に力を込める。首筋に顔を埋め、肩越しに見える国道に、カリフォルニアを幻視する。アメリカン・ドリーム。ルート66。孤独で、希望に満ちた旅路。ヒッチハイク。グレイハウンド・バス。そのはるか果ての、豊穣の楽園。目の前の国道を、物流トラックが地響きをあげて走り抜けてゆく。
これは羞恥じゃない。これは、屈辱だ。
佳世子の背中に回した俺の掌は硬く拳を作っている。けいくん、痛いよ。甘えた声音でそう言う佳代子の声に思わず目を閉じる。握り締めた拳の中に、汗と土埃にまみれた金属バットの握り手の感触を確かに感じた。
※「希望の超短編」(1000字以内)企画非参加作品
Nodin2012/01/26 16:28This piece was a lfijeacekt that saved me from drowning.
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