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掴めそうで掴めない情景、淡く、うっすらと。

記憶の中にぼんやり灯る物語。

2007-06-10

[] 或る女 23:49  或る女 - pour away を含むブックマーク はてなブックマーク -  或る女 - pour away

私には婚約者がいる。

けれど今、目の前にいる男は婚約者ではない。

友達のパーティで知り合った男。

別に特別な関係じゃない。

たまたま近くで会ったのでランチを一緒に取って、

話題だろうと思われる映画を見て、

感想を話しながらとろっとした淡いワインで乾杯をした。

話を聞くのが上手い男。

話をするのが上手い男。



私がこんな風に話すことができたらいいのになって少し嫉妬した。

男は若かった。

綺麗な肌と眼。

男の話の中で自分も話していると不思議となんでも話せた。

自分も話が上手くなったように感じた。

心地よい夕食。

私が憧れていた夕食の場面。

外はもう随分暗くなっていた。

電車もバスも無くなっていた。

名残惜しいそんな気持ちを見透かされたのか、

運悪くタクシー乗り場もからっぽだった。



ここから歩いても30分位なのだけれど。



「少し寒いかな」



私が言うと男は家まで送るよと言った。



「男は羊か狼っていうけれどあなたはどうなの?」



私が冗談混じりに聞くと男は笑いながら答えた。

僕の眼を見てごらん。ほらもっと近くで。

透き通った眼だった。

見た事の無い色。

不思議な輝き、

魅力という言葉に溢れて濡れて深い夜に映える。

鋭くて人を離さない強い光。

どう狼に見える?。

男は私の眼を見ながら言った。

その声に思わず顔を離す。

羊でも狼でもない、


もっと別の何か。


掴まれた視線。

眼を逸らす事ができない。

飲み込まれていく。



途中でお酒と乾き物を買って歩く。

他愛の無い話をしながら。

私はもどかしくて、

もどかしくて、

ついつい男を見る。



男は優しく諭すような笑顔で私の手を繋いでくれた。

なんだか全てが男のまま動いていく。

時計も生暖かくべとつくこの風も私の視線も。



狭いエレベーターの中で私からキスをした。

酔っ払っていたから。

男は少し驚いた顔をした。

今まで凛としていた力強い眼が、

一瞬子犬のように変わった。



私は堪らなくなって抱き締めた。

男の左腕が私の背中に回る。

温かくて硬くて太い腕。

女に生まれてきて良かったと思う瞬間。

男の甘い匂いと、

アルコールで私の頭はもうぼんやりとしか考える事ができない。



部屋に入って鍵を閉めて、またキスをした。

今度は互いの舌を絡めて。

荷物を落として両の手で力一杯男を抱き締める。

右手で男の首を掴む、さらっとした髪が指先に触れる。

男は肩と腰を柔らかく抱く。

背中を滑る指に、体中の触覚が追って集まってくる。

背中から体中に光が抜ける。

その光が喉の奥から漏れ出す。

私はその奔流に耐え切れず甘く喘ぐ。

「あ、うん、んあ」

男の手と指と腕が、私の体を撫でて、その度に光が積もる。

私はこのまま抱かれるそう思った。別に許すつもりなんてなかった。

けれど抗えなかった、なぜだろう。

私は別に軽い女じゃない。軽い女じゃなかったはずだ。

男は水のように私の心の中に入って来ていた。

抱かれるのが当たり前だと思った。なぜ今まで抱かれていなかったのだろう。

なぜ今までこうならなかったのだろう。私は水のような男に飲み込まれて溺れる。

ベッドの上で買って来たお酒で乾杯。別に特別な関係じゃない。

今、私は目の前の男に寄り添って男の体を撫でている。

ずっと前から私の物だった気がする体。肌の触り心地、

髪を撫でる時の男の仕草、私を離さない眼。私は男の前に座って男を押し倒した。

男は照れたように笑いながらキスを求めた。私はそれを避けて男の耳から首筋にキスをして、

ゆっくりとしつこく舌を這わせた。男の体がびくっと震える。

私はそれに気を良くしてさらに男を責め上げる。

男は私の胸を服の上から触る。私の体も震える。男の骨ばった手が私の頭を掴む。

キスさせて。

哀願するその言葉に私は答える。

「いいよキスしよ」「ん」

いつの間にか、服の中に入った男の手が私の胸をを撫で回す。

「あ、っん」

体中の皮膚の薄い所を撫でていく両手。違和感無く私の舌に絡まる男の舌。

私は右手で男のモノに触れた。硬くなったソレは窮屈そうだった。

「舐めて上げる」

ボタンを外して下着を脱がせる。熱く勃った歪なソレに舌で舐める。

快感に身を任せる男。大きく口を開けて含む。男は私の股に手をやる。

下着の上からでも濡れているのがわかる。

こういうのが好きな女って思われたくなくて、私は男をもっとヨくする。

含んだモノを吸い上げて舐めまわす。男の指がゆっくりと膣の中に侵入してくる。

あんまりセックスって好きじゃなかったのに。自分から咥えたくなるなんて。

体の中を撫でられて私は咥える事ができなくなる。

「あ、ああ、あ」

なんでわかるの。イイ所だけを触ってくる。男が触るところがヨくなる。

「んん、イ、っく」「待って」「挿れて」

男は優しく私を寝かせて、ゆっくりと這入って来る。舌を絡ませながら。

上も下も男が這入って来る。男と私が擦れる感触で私の体は満たされて行く。

男を全て受け入れた私の体は、言い様の無い快感の中にいた。

男が私の中で動く。私の鼓動に合わせて、私の呼吸に合わせて、私の全てに吸い付く。

私は何回もイった。






朝の騒音。





開いた目にはぎらぎらとした朝の陽射し。




やっぱり私は抱かれた。隣ですやすや眠る男。

私がもっと前にあなたに出会っていたら、あなたを知らなければ。

数日間は現実感の無い日々が続いた。コンクリートが真綿のようだった。

私は婚約者を捨てた。馬鹿な事をしているのはわかっている。

泣きながら頭を下げて懇願する婚約者だった男はとても可愛く思えた。

思い返せば私は婚約者だった男に惚れていたのではないような気がする。

底無しに優しくて要求を満たしてくれるのに満足していただけだったのかもしれない。

多分そうなのだろう。私は残酷なことをしている。ひどい女だ。

婚約者だった男を捨てても、あの男が私の所に来る保障なんてない。

それでも私は変わってしまった。



変わってしまったから。



女というものを少し知ってしまったから。