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掴めそうで掴めない情景、淡く、うっすらと。

記憶の中にぼんやり灯る物語。

2008-02-07

[] 親友だった男 - 邂逅 17:03  親友だった男 - 邂逅 - pour away を含むブックマーク はてなブックマーク -  親友だった男 - 邂逅 - pour away

高校の生活というものに少しずつ慣れて来た。

朝が早く、練習の厳しい部活にも体が自然とついていくようになった。

午後の練習はでなかった。友達と遊びたかったから。

チャイムが鳴るとだらだらといつもの場所へ歩き出す。



高架下。



学校からは割と近いのだが入り組んでいて入ってきづらい場所。もちろん周りからは見えない。

私は幼稚園からこの近くに住んでいる為に知っていた秘密の場所。永遠に工事の終わらない場所。大人は入ってこれないKEEPOUTの魔除け。子供たちの聖域。

今日は一番乗りだった。同じクラスの仲間は女友達と遊びに行くようだった。

内ポケットから潰れ掛けたソフトケース。細く長い茶色。甘いチョコレートの匂い。JOKER

ズボンのポケットの中でお守りみたいに握り締めているZIPPO。貰い物。一度も磨いた事の無い朽ちた金属。カキンと乾いた音。心地よい響き。

肺の中に甘い香りを招く。体の中を磨くように。空を仰いで吐き出す。柔らかく浮かぶ私の作る雲。きえる。

一人来た。誰かを手招いている。二人になった。声を掛け合う。咥えタバコで。

彼は転校生だった。転校してきたばかりで友達少ないから一緒に遊ぼうぜ。と紹介された。

物静かそうな男だな、と思った。緊張しているのかもしれない。

その日は他には誰も来なかった。三人で他愛の無い話を繰り返して帰った。

校内で会うと挨拶を交わす相手が一人増えた。彼から話掛けてくる事はなかった。彼が一人で高架下に来る事もなかった。その日までは。


彼が一人。


「あれ…?どうした?」


びくっとこっちを向いて。


「……けなく…彼女いる?」

「なんだよいきなり。居ないよ。ふられたばっかり。なに…?恋の悩み?」


少し、口元が緩む。

彼は照れくさそうに答える。


「わからない…」

「よく…ショートで茶髪の子と歩いてなかったっけ?」

「付きまとわれているだけ。好きな人ができた訳じゃなくて」

「うん?」

「彼女が欲しい…というか」

「付き合ってみたいとか?」

「そうそれ」


この頃、仲間の集まりが悪いのは其々に彼女ができていたからだ。

彼女が居るという事がひとつのステータスになっていた。


「…ジンちゃんに…言えばセッティングしてくれるんじゃないかな」

「ほんとに?」

「どんなのが来るかわからないけど」

「けなくは行かないの?」

「やー苦手だし、あーゆーの。緊張するからいいや」

「オレだって行った事ないよ!」

「うわびっくりした大きな声出すなよ(笑)」


秋の終わりを告げるような風が私たちの足を家路へ向けた。


「そいや、今ゲンチャ欲しくてさ」

「あれナオも?僕も」

「お今どの辺?」

「本買って読んだだけ。もうどのバイク買おうとか思ってるトコ」

「同じ同じ(笑)」

「テスト終わったら行こうかなと思ってる」

「じゃあその辺で一緒に行こうぜ」

「おういいよ」


煉瓦の道に長く伸びる影ふたつ。黒と赤の空。はあっと吐き出す息白く。



朝早く見知らぬ駅で待ち合わせ。あまり眠れなかったが眠たくはなかった。

試験場はさらに緊張が圧し掛かった。学校の期末試験なんか比べ物にならない。

見知らぬ場所。見知らぬ教室のようで教室ではない部屋。冷たい床。知らない感触の椅子。

カリカリと答案用紙に書き込む音だけが聞こえる。先生のような人が前に立っている。誰。

加速する筆音。みんな正解を書き込んでいるんだろう。自信がない。怖い。タバコが吸いたい。

合格者発表。さらに緊張した。私の番号はなかった。ナオは受かった。


「次受ければ大丈夫だって、練習じゃオレより点数高かったんだし」

「うんまたすぐ受け行く。忘れないうちに」


ナオとはその後の講習のためにそこで別れた。

私は次の日に再度試験を受けに行った。免許を取った。


その次の週にバイクを買った。TZR。NS-1。

正直戸惑った。お店で教えられたやり方をいくら試してもうまく操れない。

冬休みの間、二人で練習した。一週間ほどで乗りこなせる様になった。

少し遠くへ行きたくなった。246。深夜。見知らぬ道。

怖かった。大きなトラックとタクシーが100kmを超えるスピードで走っている。

ゲンチャは30kmなんて教えられたが、既に60kmを超えていた。それでも246のペースについていけない。

信号で隣同士で止まる。フルフェイスのメット越しに大きな声を出す。次に見えたコンビニで。頷く。青。

すぐに見つかった。バイクを停めて、メットを脱ぐ。大きく深呼吸をする。肩の力が抜ける。足からも力が抜ける。


「あはは、こえー、足がガクガクしてるよ」

「深夜は無法地帯なのか早すぎる。スピード違反ばっかじゃねーか」


二人してコンビニの前で座り込む。立っていられなかった。

缶コーヒーを買った。ROOTS。バイクに座る。そのままべたっとバイクに張り付く。暖かい。潮の匂いが鼻をつく。


「海?」

「多分、海臭い」

「臭いって(笑)」

「この木の向こうじゃね?」

「行く?」

「いやいいや、ガソリンは?」

「んー多分半分くらい。」


車体を揺らして確かめる。ガソリンメーターは付いてない。


「じゃあこの辺から引き返すか」

「そだね。もう遅いし」

「このバイクでよかったな」

「普通のだったらここまで来れなかったかもね(笑)」


二人の乗っていたバイクはゲンチャの中では早い部類のものだった。


「このスピードで事故ったら死ねる」

「疲れてきてるし帰りはゆっくり帰ろうぜ」

「おっけえ」


メットを被る。首を回してハンドルを握る。自分のマシン。一体になれるこの感じ。深夜の闇と対照的に眩しい橙の道路。何もかもが新鮮だった。

路肩から道路へDROP。先行するNS-1。嘘つき。何がゆっくりだ。明らかに飛ばす意気。唸るエンジン。排気ガス。

ゲンチャの軽い音。今の私たちに似合う音。追いかける。見失わないように。信号ひとつすら逃せない。強めに回して。クラッチは遅く。

ギアが変わる前の泣き出すような音。長く。ダメージを与えるようなスピードの出し方。搾り出す。もっと。

すぐにナオと私の家への道を分ける交差点についた。互いに手を振りながら別れる。クラクションはなんとなくタブーだった。かっこ悪い。



ひとつずつ、ひとつずつパーツを変えていった。互いにここ変えたらこうなったぜ。等と報告しあった。冬休みが終わった。

自転車が停まっていた高架下にはバイクが2台停まるようになった。

仲間たちは羨ましがった。けれどバイクに乗ろうとはしなかった。其々が免許をとり始めた。一ヵ月後にはバイクが10台停まるようになった。

放課後はまだ繋がっていない道路でバイクの練習をした。

マニュアルのバイクは私たちのだけだった。馬鹿話をしながら。



学校にばれた。いつもどおり帰ろうとすると着信が。PHSに。カタカナだけのメール。ヤバイバレタ マチブセサレタ。

遠くから見ると確かに一人、先生が待ち伏せしている。

イヤな体育教師。上履きで体育館に入ったからという理由で動けなくなるまでぶん殴るアナーキーなヤツ。数年後に女子高生に関係を迫り、ニュース沙汰になる男。

その日は夜まで近くで遊んだ。夜バイクを取りに行った。


「…もうここだめかもな」

「…そうだな」

「どうする…?今日このまま…帰る?」

「うん?なんか…あったっけ??」

「いや…遊びこない?うち」

「おー?いいよ?時間あるし」


ナオの部屋は壁一面に漫画が並んでいた。


「すげ、なにこの量」

「ああそうだ。けなくに読ませたい漫画が」


そう言いながら私の前に大量の漫画を積み上げる。連番。始めから終わりまで。

二人でタバコを吸いながらコーヒーを飲んだ。煙が部屋に立ち込めたが、寒かったので窓は開けなかった。

喋りながら朝まで漫画を読んだ。面白かった。こんな面白い漫画があるのかと思った。夜が明けていた。カーテンの隙間から光。同時に落ちてゆく瞼。

漫画の中にナオを見つけた。ナオに雰囲気の似ている不思議な男。

少しナオの事がわかった気がした。達成感にも似た眠気。自分の中で何かが変わった気がした。

次に目が覚めたときはもう夕方だった。


「おい!ナオ!おきろ!朝だ!つか昼?いや夜!」

「んー……」


すぐに焦っても仕方がないことに気がつく。起きないナオをそのままに部屋を出て家へ帰る。親にこっぴどく怒られた。



進級。ナオと同じクラスになった。