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掴めそうで掴めない情景、淡く、うっすらと。

記憶の中にぼんやり灯る物語。

2008-02-09

[mono] 親友だった男 - 前兆 11:08  [mono] 親友だった男 - 前兆 - pour away を含むブックマーク はてなブックマーク -  [mono] 親友だった男 - 前兆 - pour away

変わらず続いていた。何もかも。


「けなくさー料理好きだよね?」

「ん?あー食べてくれる人いる時は作る位かな」

「今度さ男の料理会ってのあるんだけど行かない?」

「おーいいよ?日付決まったら教えて?」


ナオの知り合いの家でやるという事だった。

要はネズミ講のセミナーだった。

その会員限定の調理器具を使ったセミナー。

これは特別な合金の包丁で~。等と言っている。退屈。

私は不安そうな顔でナオを見た。そこにいつものナオは居なかった。誰?

呆けたような顔。魚の死骸のような目。陶酔?洗脳?不安は増した。

在り来りな事を延々述べる。誰か。今日初めて見る人。ナオの視線の先。テンプレート。お笑い芸人がこんな人物を真似てたっけ。そっくり。どっちが?

当初の不安は時間が経つごとに減っていった。どうって事無い。

特別欲しいものもなかった。

退屈になってきた私は、適当なところで時間なんで帰ります。と告げて帰ってきた。

受付嬢並みのの営業スマイルを浮かべて。


「また機会がありましたらよろしくお願いします(微笑)」


少しして、ナオが追いかけてきた。


「待ってよ。つまんなかった?」


まだ空ろな視線と厭らしい笑顔。バイクを弄ってたときのナオの顔とは対照的。生気の無い顔。枯渇。


「?…え いや楽しかったよ。でもどれも必要ないし」

「だから違うんだって!そういうんじゃなくてさ」


彼は嬉しそうに。何かに追い立てられるように。さっきの誰かが言った事を繰り返した。声は熱を帯びる。炎症。

なんだかショックだった。色々。イライラしていた。

狂気にぎらりと光る目。こんな目するんだと暢気に思った。私はこの目を知っている。

以前。そうだ。宗教に嵌って勧めて来た人。初対面の挨拶が「ご苦労様」だった人。同じ。目。気持ち悪い。


「…ねぇナオ?あれはネズミ講だよね?」


私の強い口調に気圧されるナオ。テープレコーダーのようなナオの口は、コンセントを抜かれたようにぽかんと開いている。


「え……うん……でも」

「ナオ。幾ら?幾ら注ぎ込んだ?」

「え……50万くらい……でも……すぐ戻ってくるんだ…」


ああああ。もう泣きたい。叫び声を上げたい。なんだよその姿は。しっかりしてくれよ!。ナオ!お前どうしたんだよ!何やってんだよ!

ナオの言葉が好きだった。ナオの頭とナオの口からしか出てこない言葉が。憧れていた。ずっと。今も。

疲れているのかもしれない。たまたまだ。今だけだ。大丈夫。すぐに元に戻る。

今までの思い出が脳を熱くする。現実との温度差に皮膚が反射的に泡立つ。

言葉を。脳が形作る。口に出そうとしては飲み込む。

ああ、嗚咽が漏れそうになるのを堪える。違う。そうじゃない。これもナオで。変わっていくのは当たり前で。それでも。おかしい。違和感。疑念。


「…それで私に買わせようとしたんだ?ナオは…何買ったの?」

「サプリメント……体強くしようと思って」


ナオは最近、私とのテニスなどで体力が落ちてきている事を気にしていた。

無数の思いが、考えが、浮かんでは消えていく。光のような速さで。

家で何かあった?誰か気になる人でもあそこに居るの?いつから?私には相談できなかった?私との付き合いなんてそんなもの?お金さえ払えばいいの?それでまた笑い合える?だって余りにもありえない。以前のナオから創造もつかない。状態。異常。私の想像力の限界。軋む。現実。重圧。地面がぐらりと揺れる。空気が重たい。支える。ひゅうっと息を吸い込む。

次の選択肢を。次の言葉を捜す。探す。搾り出す。慎重に。

間違えるな。選べ。可能な限り予測するんだ。反応を見ろ。分岐点。過ぎる時間。風。無常。


「…そっか体力つくといいね。私は必要ないから」

「うん」

「…あと、いくら私が頭悪くてもこれがネズミ講で、あんまり良くない事な気がするよ。それ以上買わないほうがいいよ?」

「わかった。ありがと…」


遣り切れないという思いを初めて知った。