Hatena::Groupneo

pour away このページをアンテナに追加 RSSフィード

掴めそうで掴めない情景、淡く、うっすらと。

記憶の中にぼんやり灯る物語。

2008-03-10

[] お祈りするカマキリ 14:49  お祈りするカマキリ - pour away を含むブックマーク はてなブックマーク -  お祈りするカマキリ - pour away

黄ばんだ電灯がチカチカしている。私は背中を丸めている。

皮膚の裂けた箇所が熱い。コンクリートの冷たさが優しい。頬を寄せてその確かな厚みに安心する。

口にはガムテープが巻かれている。泣くとうるさいから。腕と足も同じようにガムテープが巻かれている。勝手にどこかに行くと困るから。

さっきまで幼稚園の帰りに公園で遊んでいた。帰りが遅いという理由で殴られた。ごめんなさい。殴られた。ごめんなさい。口と鼻から血が出た。ごめんなさい。

殴られた勢いで下駄箱をひっくり返した。ごめんなさい。腹部を蹴飛ばされて食べ物を吐いた。ごめんなさい。縛られた。

玄関から突き飛ばされて階段から踊り場へ落ちた。せっかく食べさせたものを吐いたかららしい。歯が折れた。頬が削げた。

お前の為なんだからな。ドアの閉まる音。静かになった。

コンクリートは私の涙と鼻水と血を吸い、少し温かくなった。

気が付くと私は笑みを浮かべていた。


少し寒かった。近所のドアは壁に描かれている絵のように見えた。開いた所を見た事が無かった。

もしかしたらこの灰色の団地には私達の家族以外誰も住んで居ないんじゃないか。

毎朝聴こえる喧騒も毎夕聴こえる家族の音も誰かが流しているだけなんじゃないか。

そんな事を妄想しながら月を見遣る。コンクリートに頬を寄せたまま目だけ向ける。

ようちえんのお友達。私がこんな目にあっていると知っても友達でいてくれるかな。それともお友達じゃなくなっちゃうかな。お顔のケガどうやってかくせばいいかな。

友達が居なくなった気がして寂しさに包まれる。寒さは気にならなくなる。本当は友達なんて居ないんじゃないか。あ、でもそれなら先にパパに消えて欲しいなと思った。

あしたもわらえるかな。おつきさま、あんまり見ないで?はずかしいから。


月が近くにあった。小汚い私が笑みを浮かべながら寝ているのが見えた。

しっかりしろよお前。と声を掛けた。私が頷くのが見えた。私に耳打ちした。私は笑顔になって小さく頷いた。そのあどけない笑顔に安心して眠りについた。