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pour away このページをアンテナに追加 RSSフィード

掴めそうで掴めない情景、淡く、うっすらと。

記憶の中にぼんやり灯る物語。

2009-02-22

[] 蝉時雨 02:09  蝉時雨 - pour away を含むブックマーク はてなブックマーク -  蝉時雨 - pour away

思い出してしまう。地に足のついていない、夢の中でいくら走っても進まない、そんな毎日。もう二度と追いつかない夢みたいな過去。思い出したくない。音もなく溜まり淀んでいった自分の足跡。ひとり泣いては泥のように鬱積し、乾いてひび割れて。

ああ、オレは救われたいんだ。大袈裟に表情を作ってひらひらと手を振ってみる、鏡の前に馬鹿が居る。オレだ。毎朝めんどくさそうにオレを映す鏡は何も言ってくれない。今更何を。青天の霹靂?知ってる。気付いている。眠りたい。陸橋の下に捨てられたテレビ。割れた画面。

ねぇ?最低だと罵りながら抱きしめて愛してくれ。どうしたらいい?どうしてほしい?

有刺鉄線を乗り越えて鉄塔まで追いかけっこをした。切った指を舐めてくれた。悪い事をしているような気になってどきどきして邪険にした。少し悲しそうな、玩具を取り上げられたような顔。その頃はわからなかったけれど今なら。ねぇ?今のオレは大人になれたかな?今でもお子様ねって言って笑われるのかな?

太陽が好きになれなかった。遠慮が無くて、厚かましくて。押し売りの営業に似ている。学校で笑うクラスメイトの笑顔に似ている。自分からは遠くて遠くて。嫌悪する事で自分を納得させて諦めた。好きだった夏。夏の終わり。蝉の鳴き声が徐々に小さくなっていった。書き出す事で吐き出す事で。記憶を小突き回す。自分は土の中で一生を過ごすはずだった。ふとした事で窓の外を知って、部屋の扉の開け方を知った、歩き方、或いは二本の足で、自分の足で立つ事を教えられて、鳴き声を上げれる嬉しさに呻いた。これで、これで、ただの水が甘く甘く感じられる、辛かった恥ずかしい記憶と歪んでいる自分、希望かもしれない明日をミキサーに掛けたみたいな。経血より赤く、精液より白い、色。夏の日がコンクリートの壁に射して出口への輪郭が熱に犯されている。そんな誘惑。手で顔を覆いながら眩しそうな顔をするだろう。あの光に焼かれて、干からびたミミズ。それですらなれるのなら。もう辺りはしん、としていて。様子がおかしい事に辺りを見回そうとする。体は動かなくて、何か違う。薄っぺらく、乾いたような、そう喉が渇いた、乾いている。朝起きた時に声がでないように、声がでない、ぎしぎし軋む眼球を必死に動かして自分の姿を見るけれど、どうして?目の前に自分。自分だ。自分。さえない顔の自分。どうみても自分には見えないのにそれは自分だと体が言っている。皮膚を剥いだ新鮮な肉がそう言っている。肉が裂けて女性器のように裂けて流暢に喋りだす。あれはあなたと伝える。無数の言い回し、方言、言語、所々何を言っているかわからなかったがきっと同じ事をを伝え続けているのだろうとわかった。同じ意味を再生し続ける。あれが自分なら見ているこれは何なのだろう?その肉はオレではないのか?問いかけた瞬間に目の前に居た自分は自分だった。宿る。スポンジが水を吸う。収まりが良い。ここが自分の場所。蝉の抜け殻。



やり方は雑誌や年相応の情報網で知っていた。

けれどうまくいかなくて、彼女が上になった。

いろんな事を知った。自分のは意外にナイーブな事。ブラジャーは意外に外せない事。触れられると震えるという事。気持ち良い事。

酔っていたせいか、思考は鈍かった。夢中になっていたとは違う。パニックに近い慌しさ。皮膚は薄く肉とひとつになったようにすら感じていた。剥き出し剥き立ての人間そのもの。

互いに果てて、息を整える。汗が流れてシーツに染み込む。

「ねぇ何人目?」

「…?何が?」

「したの」

「え?ハジメテデス」

「ほんとに?」

「なんかまずった…?」

「いや上手だったよ?へーハジメテなんだ?」

「…恥ずかしいから言わないでよ」

「才能とかあんのかねー?ソレにも」

「…なんかスケベでヘンタイって言われてる気がする」

「褒めてんのよ」

「へぇ」

「これさー、昔だったら犯罪だよねー小学生と中学生とか」

「今も犯罪じゃねーの?」

「そっかーそれもそうだね」

「…ん?」

「顔見てさー、話したらさー、なんか昔のままなんだもんずるいよ」

「どうせガキですよ」

上に居る彼女が繋がっているものを抜いて、腕の中に潜り込んでくる。丸くなった彼女の大きさを体で感じる。この人ってこんなに小さかったっけ。畳めば鞄に入るかも。ああ、眠い。

「敬語取れたね。なんか生意気に感じる」

「…!げ、ごめんなんか今変な感じ。とろとろしてる全部」

「かわいい人」

首筋を猫みたいに舐めている。

「楽しい?」

「ん」

「猫みたいだ」

「餌代高いよ」

「学割で」

「出世払いか」

「ローンかよ」

「社会は厳しいのよ」

「それが厳しさ?」

皮膚を添っていた舌は白い歯に変わって。

「あまがみあまがみ」

「猫じゃなくて犬だったのか」

包装紙に包まれていた飴玉。剥がされて包み紙はその辺に散らばっている。彼女の舌で熱を帯びて、彼女の唾液で少しずつ。少しずつ溶かされる。水飴。とろり。意識だったもの、自分だったものが四散して消え入るような幸福感と入り混じっていく。消えそうで消えない感覚。部屋の端々に。彼女の隅々に。抗いようのない眠気。気絶。転げ落ちる。その前に彼女の寝息が聞こえてきた。この後、腕が痺れて冷たくなる事を知った。