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掴めそうで掴めない情景、淡く、うっすらと。

記憶の中にぼんやり灯る物語。

2008-06-25

[] 25人の白雪姫 17:34  25人の白雪姫 - pour away を含むブックマーク はてなブックマーク -  25人の白雪姫 - pour away

「ねぇ、鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰?」」

白雪姫です」



今日も何処かで彼女が生きている事を確認する。

もう何年も続く毎朝の事。

私が生きていく為の希望の光。

私の娘。

世界一美しい娘。

世界一愛しい娘。

10年前の大戦が終わる少し前に彼女はさらわれてしまった。

当時の敵国であった国は今は跡形もない。

虱潰しに探した。何も残らないほどに。けれど遂に見つからなかった。



定刻の報告。

彼女がさらわれてから組織された。24人からなる部隊白雪。

部隊の女性たちは一様に、雪のように白い肌、血のように赤い唇、黒檀のように黒い髪。

それが部隊の証であり、入隊できる資格だった。

幼い頃から、自分の娘のように育てた。暗殺術、謀略術、帝王学。あらゆるものを学ばせた。

大いなる名誉である白雪の名。それに恥じぬように母なる愛に答えた者達。



いつも通り退屈なものになると思っていた報告。

しかしカタリーナ、ソフィア、マルガレーテが帰ってこない。

3人が向かったのは淫蟲の森。

城から最も遠い場所。

今から向かえば月が一番高くなる頃には辿り着ける。

私は無言で頷いた。

音もなく、雪のように白い肌を髪と同じ色の装束で隠した21人は夜に溶けて行った。



報告を待った。

黒檀の枠のはまった窓のところに座って、森の方向を見つめる。

梟が鳴いている。



突如上がる閃光。

瞬時に事態を察して窓から離れ伏せる。

訪れる衝撃波。

空気の拡がりが窓を割り、鏡を割った。

破片がキラキラと降りかかり、刺さった。

「まさか…毒リンゴを…!」



吹き飛んだ窓からマリアが飛び込んできた。

左腕がなく、背中は焼け爛れていた。一目見て助からない事がわかる。

「…しっかりして!何があったの!」

「お、お母様…み、見つけました…彼女…姫…を」



突如感じる殺気。

背中に刺さる冷たい感触。

夜と同じ色の髪が揺れる。



振り返ると血より赤い唇が笑っていた。

「…あ………は…」

ごぼごぼと口から血が溢れる。



赤く染まる。鏡の欠片。

王子と二人並んだ花嫁姿の白雪姫が映っていた。

2008-06-09

[] 姉ログ 14:30  姉ログ - pour away を含むブックマーク はてなブックマーク -  姉ログ - pour away

B型の姉。

Twitterサルベージと追記。



友人の結婚式の為に上京してきた姉と待ち合わせもののけ姫こだまみたいに口あけてぼかんとしているところを捕獲。

第一声は

「東京の人って足速いのね」



姉はフリーキップで都内を移動するらしく、

suica ばかりの改札に大層ご立腹でした。

「でれねえ!しかも前の人がぴこーんってなって蓋閉ってるのに!足速いから通れるの!私が引っ掛かるの!」

「…蓋?…ああなるほど」



駅で昼飯色鮮やかな夏野菜カレーののぼりを見て「ここ!」

「…あれ?いいけど?」

「私ナスとにんじんとブロッコリー嫌いだったよね?」

カレー運ばれてきてから気づくなよ…っておいwしかも乗せるな!人の皿に!」



「あんた好き嫌いなくてえらいわねー」

「好き嫌いがある人の気持ちがわからんめんどくさいじゃん」

「まーそなんだけど食べれないのよお昼これだけで足りるかなー」

「…そりゃメインの具をほとんどこっちに移したらな…」



サンリオショップ行くかジブリショップ行くかで口論になりキティちゃんのぬいぐるみをぶん投げられた。

結局別々にそれぞれのお店に行くことになり一時間後に待ち合わせ姉は大量の手荷物を抱えて戻ってきた。

「いくらつかったの?」

「…2まん6せんえん」

「…えー…」



「なんでついてくるの」

「泊めてくれるんでしょ?」

「ちょww宿は?」

「おまえんとこ」

「金取るからね」

「5円で十分だろ」



「ベッド貸さないよ」

「お前はどっか女のとこでもいけよ」

「そっちこそ男のとこにいけよ」

「はーこんな狭い男に育てた覚えは…」

「育てられた覚えもありません」



「パジャマ貸して~」

「ねーよそんなん」

「探せば女物の服出てくるんじゃねーの」

「ありません」

「 T シャツと Y シャツどっち派?」

「 Y シャツ」

「変態」

「ほんとに帰れよ」



口に何かを押し込められる違和感で起きる。

「…んなにこれ」

「トロピカーナパイナップルグレープフルーツだよ!おはよう!」

「…何時」

「7時半!」

「寝る…」

「起きろ!朝食を作って!」

「お願いだから空気読んで…」

「お前が読め!」

さらにトロピカーナを口に突っ込まれ降参。



「冷蔵庫に何もないのねー」

「あー家じゃ食べないから」

「モテるためには料理しなさいって教えたでしょ!」

「近所においしいパスタ屋さんあるよ」

「行く!一時間…いや三十分待って!」

「…その間寝てるね」



「パスター♪パスター♪おいしいパスター具はなんだろねー♪」

「またおかしな歌を…」

「どれくらい美味しいの!?」

「ど、どれくらい!?うーん…好きな人が作ってくれた料理くらい美味しい」

「まーじーでーそれは楽しみー」

「不味いパスタ屋なんて見つける方が大変だよ…」

「あたしが不味いなんて言ったら相当よ!」



結婚式に行ってそのまま帰ると言っていた姉。

深夜12時頃に自宅に戻ると例の如く口を開けてぽかんとしている。

「…あれ何してんの?」

「待ってるの」

「何を…」

「あんたが帰ってくるのを」

「なんで?近所の人が誤解するだろつーかちょっと怖いよ?」

「いまここで叫んでやろうか」

「やめい」



「シャンプーの匂い?お風呂行ってたの?」

「そうそう近くに銭湯あったからそこで~」

かしゅ。

「何勝手に冷蔵庫開けてるんだよww」

「はー風呂上がりのビールは格別だわ」



「んで?」

「なに?」

「なんでまだ居るの」

「席がなかった」

「帰りの?」

ビールをくわえたまま頷く。

「…お姉さま今年おいくつでしたっけ」

「女性に年齢を聞くとは男子の風上にもおけん」

「お姉さま?」

「えへへー?にじゅうとむっつー」

「それは僕の年齢だろ!」



「よし明日の電車を調べておくれ」

「ほい」

カタカタカタ…

「朝五時半にあるよ席も空いてる」

「今ここでPCに酔拳をしない私はよくできた姉だと思う」

「夜の八時半が最終です」

「さすがパソコンオタク!ありがとう!」

2008-05-29

[] 煙草の味 00:37  煙草の味 - pour away を含むブックマーク はてなブックマーク -  煙草の味 - pour away

足元から伝わる地を這っている振動。硬いシート。

遠くから聴こえるロック。白いイヤホン

自分の体という殻に潜り込む。音が近くなる。実感。

ゆっくりと目を開ける。あと二駅。夢を見ていた。…気がする。わからない。

眠っていたのか。思い出に耽ってたのか。

目を閉じると、小さな小さな粒。燈る。

天道虫のような赤。消えそうに煌々と。

触れたら消えてしまいそうで、けれど火傷してしまいそうに熱い。

甘い声を絞られて上下する肩。二人の空気を飲み込む喉。真っ暗な部屋。目を開ける必要すらない。

カチンと金属の音。聞き慣れた澄んだ音。

目を閉じていても、どこにいるかわかる。その合図にどこかへ浮いていた体の感覚が戻ってくる。背中と首が痛む。

カチン。シュッ。カチン。口に出さないように唱える。反芻する。

ゆっくりと体に感覚が馴染んでいく。息をつく。

香ばしく焦げる匂い。焼きたてフォンダンショコラ

とろりとした甘いもの。期待して口を啜る。



苦っ。



煙草の味。

…匂いは好きなのに。







…苦い。

2008-04-18

[]「洗濯機から女の子」展 15:51 「洗濯機から女の子」展 - pour away を含むブックマーク はてなブックマーク - 「洗濯機から女の子」展 - pour away

を見に行った。

創作された緻密な文章が人々を唸らせている…という訳ではなく、ただの洗濯機の展示販売会だ。多少大掛かりではあるが。

昔から、私達は昔からなんでも擬人化してきた。古くは長く使った物に宿る付喪神とか。

紙に、絵でも文章でも良い、誰が描くかも問題ではない。何らかの形で二次元に形を取る。次は三次元だ。

擬人化されたそれらは、現実に形を成す為にシステムにされ、生活の中に組み込まれていった。

今じゃ車のナビゲートシステムは助手席にふんぞり返っている。

洗濯機も同様だった。

クラインの壷のようなものからシンプルなものまで様々な形がならんでいる。

どれも共通している事といえば中が透けて見えるという事位か。

いつか誰かが書いた。「洗濯機から女の子」。

いつかそれが現実のシステムになった。

当然のように女性には不人気だが。主に購買層は一人暮らしの男性。

そりゃそうだ。システムが全て女の子だなんて。私が女だったらまず見に来ない。

彼女たちは水で構成されていた。ウンディーネと呼ばれている。

最初は水で作った立体映像みたいなもんだとばかり思っていた。

今は少し驚いている。多少の性格もプログラムされているらしい。

彼女たちの振る舞いは実にユニークだ。

自らで好みの男性に売り込みをかけている。商品自体が売り込むのか。これは良い案だ。

相性の良いシステムと出会うという事は稀だからだ。

彼女たちにも直感のようなものがあるのだろうか?

私の目の前のウンディーネは優しい微笑みを浮かべながら、私の手を握っている。

洗濯する時の水流を試せるのだ。

彼女の手に包まれた私の手にはぬるい水流が優しく流れている。ウンディーネの体温。被膜が七色に色を変えている。


ーーーー


今は朝刊を読んでいる。

どうやらあの洗濯機の購入者が洗濯機に体を突っ込んで死亡する事故が多発したようだ。何してるんだか…死因は溺死?

原因究明を急ぐ…か。ふーん。リコールとか手間掛かりそうだな。

ケータイの着信音が鳴る。紀子からだ。今夜の食事の約束の事だろう。

ん…?洗濯機の起動音が…?


via 洗濯機から女の子 - washer-in-the-rye.com

[] 預言者の予定表 11:39  預言者の予定表 - pour away を含むブックマーク はてなブックマーク -  預言者の予定表 - pour away

「ねぇねぇ預言者ってさ」

「…ん?」

「予定表とかタスクリストとか書いたりするのかな?」

「今日の何時までに何とかの預言する!とか?」

「そうそう」

預言者っていうのはデータベースに対するアクセサでしかないからなぁ」

「キッカケから事象やら引っ張ってくる事しかできない?」

「じゃないかなぁ…?預言者のアーキテクトじゃないから何とも言えないケド」

「そんなもんかぁどんな感じなんだろうね」

「トリガー自体が実行可能な場合はどうなるかわからないケド」

「ふみゅう…」

「…?なんか知りたい事でもあんの?」

「きみの気持ち」

「きみが何考えてるか考えてたよ今は」

「それだけじゃや」

「あは…好きだよ?」

「…疑問系……ん」



「最初から聞けばいいのに」

「聞かなくても言ってくれればいいのに」

2008-04-01

[] 「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」を読んだ感想がうちもこんなんだったなぁ…以外何も浮かばなかった 14:59  「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」を読んだ感想がうちもこんなんだったなぁ…以外何も浮かばなかった - pour away を含むブックマーク はてなブックマーク -  「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」を読んだ感想がうちもこんなんだったなぁ…以外何も浮かばなかった - pour away

きみから借りた本だった

返すときにこんな事を言ったらきみは目を丸くして「へ?」と言った

間の抜けた顔が面白くて僕はくすりと笑った

たまにはフィクションを書くつもりで自分の事を書き殴るのもいいのかもしれない

書き出すとスッキリするときみは言った

脳には限りがあるからWebに記録して忘れるんだと

その通りにきみはWebに書いたことをすっぱり忘れるようになっていった

そもそもどうでもいいような事を書いてるだけなのかもしれない

幼い頃に家族が目の前で強盗にメッタ刺しにされて殺されてその後親戚の家をたらい回しにされて邪魔者扱いされて施設に入れられ中卒で働きだした職場のロッカーで財布がなくなって犯人にされて首になって世の中に絶望した!

って事はなかったけれど

家庭内は程よく壊れていた父は僕をサンドバックのように扱ったし母は僕を性の奴隷とした抗いようの無い暴力は常に自分に降りかかってきて程よく歪んだ心は自分より弱いものに自分の力を振るう事で解消しそのうち足りなくなって自分の恐怖の対象だった両親をかつての両親がそうしたように暴力で返してやがては殺してしまった直接的にせよ間接的にせよ…だ

家庭というのはそういうものだと思っていた彼らはある日から目を覚まさなくなっただけだったし葬儀や手続きは面倒だなとしか思わなかったああ面倒だな人が死ぬのにも手続きが要るのかと

彼らが死んで彼らが本当の夫婦じゃないという事がわかった

彼らは誕生日から名前まで嘘だった

僕は医者に促されてカルテのようなものを眺めてなんて簡単なんだろうと思った僕は彼らが死んだという事にサインをして彼らを殺した

それぞれにその時付き合っているか結婚しているかわからないけれど互いのパートナーを名乗る人達が病院へ来た

彼らはまるで何回も練習したかのように大袈裟な動きでもう動かない彼らに寄り泣き出した

ああ見たことあるよこのシーン…テレビで

人の感情ってなんて滑稽なんだろう

また色々面倒だったそれでももう誰とも一緒に暮らしたくはなかった僕は僕の玩具の弟さえいればよかった

彼らの死から僕の中の暴力というイメージがすっと憑き物が落ちたように消えた

過去というテキストを選択してDeleteキーを押せばいい

僕の体には火傷の痕や切り傷が無数に目立たない所にある

と或る内臓は機能を落としているし色の違う左目は何も見ることができないし右耳も聴こえない

けれども日常生活に不便は無いしそれを誰かに気付かれる事もない

目立たないように着飾ればいい

僕は正直誰かと付き合って行く事が怖い

生きる事に精一杯だった日々は狂っていたしいつまでも色が褪せる事も思い出になる事もない

僕は僕の愛しいものを壊してしまいたくなるんじゃないだろうか

僕はいままでも誰かの所有物であったしこれからもそうだろう

きみと幸せそうに微笑む僕も僕だけれど同時に僕には僕を所有する人が必要で僕が生きて行く為に僕に痛みを恐怖を愉悦を与えてくれる絶対的な主人が

もしきみのモノにしてくれるなら今までの何よりも深い傷を僕につけてマーキングみたいに

きみは僕の話をうんうんと聞いた後に冗談でしょう?と言った

うん冗談なんだだってエイプリルフールだし

左目から涙が流れた

目にゴミが入っただけで泣けるのに

2008-03-12

[] 親子猫 13:06  親子猫 - pour away を含むブックマーク はてなブックマーク -  親子猫 - pour away

小さい頃から歩いている道。じゃりじゃりした河川敷。

この季節は別れの季節だよなぁと思う。三月。卒業。新しい生活。

空は橙から藍色へ変わろうとしている。風は暖かく、未だ冬の格好をした僕は、少し汗ばんですらいる。

朝は寒かったのに、とぼそっと心の中で独りごちた。

脇から猫の鳴き声が聞こえた。サカリかと思ったがどうやら争っているようだ。

子猫を2匹連れた母猫。それを取り囲む数匹の猫。

邪魔するつもりはないけど、そこ通らないと帰れないんだよな。襲ってきたりすんなよな。

心なしか足音をたてずに近付く。すぐに全ての猫がこちらを向く。

こわ…。

僕は少しジャンプして猫を追い払う。

取り囲んでいた猫たちが一斉に身を翻す。

僕はイヤホンから流れる歌に合わせて歌いながらまた歩き出す。

自宅まであと少しの所で後ろを振り向く。

ここからの眺めが好きだ。汚い川も夕日を反射してぴかぴかしている。雲ひとつ無い空。澄んだ空気。車の音すら聴こえない。遠くで野球をしている少年達の歓声が聞こえる。金属バットがボールを打つ乾いた音。

ん?…お前ついてきたのか…家着ても飼えねーぞ。

さっきの猫が悪戯がばれた子供のような顔でこちらを見上げている。

そんな顔で見るなよ。笑っちゃうだろ。

後ろの子猫達は楽しそうにじゃれ合っている。

子供は気楽だよな。

自分は子供なんて持った事も無い癖に母猫を労う。もちろん心の中で。

それからは後ろの気配に合わせて歩んだ。

警戒しながら、だるまさんが転んだでもしているようについてくる猫。

ミルク持ってくるから待ってな。

自宅から少し離れた空き地。ミルクを置いて少し離れる。



次の日。猫の缶詰とミルクを持って空き地へ。いつもより15分ほど早く起きた。

空き地には大量のカラス。電線にも。倒れている母猫。つついてその肉を食べるカラス。連れ去られる子猫



え、なんで…?


ごめんよ…


それもそうだなぁ…


そんなもんだよなぁ…


缶詰を開けて、母猫の隣に置いた。ミルクと一緒に。

どうせカラスの餌になるんだろうけど。

2008-03-11

[] お祈りするカマキリ(2) 16:16  お祈りするカマキリ(2) - pour away を含むブックマーク はてなブックマーク -  お祈りするカマキリ(2) - pour away

無重力感。孤独。無力。落下。

体中の細胞が目を覚ます。重厚な安心感の上から急に何も無い水の中に。

目を開いて上を見ると、大きな手が私の頭を押さえつけている。お風呂の中。水。冷たい。

息ができない、できないできないできないできないできないできないできないできないできないくるしい。もがく。足掻く。

「なんで外で寝てるんだ?起きてなきゃダメだろう?」

くるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしい。………。



気が付くと布団で寝ていた。もう夕方なのか赤い光が窓から入ってきている。

ようちえん休んじゃった…

その夜私はある事を実行した。標的が私から母親になった。

ある日、いつものように一方的な暴力を振るっている父親の腹部に包丁が刺さった。

気持ちの悪い呻き声を上げて倒れる。母親は私達を連れて実家へ逃げ帰った。

父親が居なくなった。新しい生活が始まった。

今度は母親が私を殴るようになった。今までと余り変わらないなと思った。

痛みはそんなに感じなかった。慣れたからなのかはわからない。私は演技する事を覚えた。彼らは苦しむ様を見ないと満足しないのだ。

しかし、高が知れていた。演技だとばれてしまった。それからは私の首を絞めるようになった。気を失うまで。



14歳になった。

私は、学校から帰ると押入れに入るようになった。母親を殴る私を見る為に。ドキドキしていた。もう家の中に怖いものは何にも無かった。

母親を殴っていた。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、殴った。私は笑っていた。それを私は押入れから見ていた。私が母親を殴る様を。ただひたすら。見ていた。

母親は蹲り、ごめんなさいと泣きながら何度も謝っていた。かっこ悪いと思った。ごめんなさいと言う度に拳を振り下ろした。手の皮がずるずる剥けた。

恐怖を克服する為には恐怖そのものになればいい。頭の中で誰かが言った。

次の日、学校からの帰り道。弟が私に殴りかかってきた。私は驚いた。

弟は喚きながらがむしゃらに殴りかかってきた。母親がどうとか言っていた。

正直つまらなかった。なんだその殴り方は?その受け方は?まるでなってない。弟か?本当に。

暫くすると弟は動かなくなっていた。私は家へ帰った。私は笑っていた。

家に帰っていつものように母の居る部屋を開けると母親が動かなくなっていた。

私は怖くなった。付き合っている彼女の部屋へ逃げた。

彼女はすぐに私の異変に気が付いた。

私は洗いざらい喋ってしまった。今までどういう生活だったのかを。私の体の傷の秘密を。

私が母親を殴っているのを見ている子事は言わなかった。頭がおかしいと思われるのが嫌だった。

私が話し終えて、泣き止むまで彼女は私を抱いてくれた。



「もっと早く話してくれればよかったのに。あたし我慢しなくてよかったんだね」

「…え?」



彼女は私の腹部をナイフで突き刺し、私の上に圧し掛かった。あやす様に私の首を絞めた。



………。

2008-03-10

[] お祈りするカマキリ 14:49  お祈りするカマキリ - pour away を含むブックマーク はてなブックマーク -  お祈りするカマキリ - pour away

黄ばんだ電灯がチカチカしている。私は背中を丸めている。

皮膚の裂けた箇所が熱い。コンクリートの冷たさが優しい。頬を寄せてその確かな厚みに安心する。

口にはガムテープが巻かれている。泣くとうるさいから。腕と足も同じようにガムテープが巻かれている。勝手にどこかに行くと困るから。

さっきまで幼稚園の帰りに公園で遊んでいた。帰りが遅いという理由で殴られた。ごめんなさい。殴られた。ごめんなさい。口と鼻から血が出た。ごめんなさい。

殴られた勢いで下駄箱をひっくり返した。ごめんなさい。腹部を蹴飛ばされて食べ物を吐いた。ごめんなさい。縛られた。

玄関から突き飛ばされて階段から踊り場へ落ちた。せっかく食べさせたものを吐いたかららしい。歯が折れた。頬が削げた。

お前の為なんだからな。ドアの閉まる音。静かになった。

コンクリートは私の涙と鼻水と血を吸い、少し温かくなった。

気が付くと私は笑みを浮かべていた。


少し寒かった。近所のドアは壁に描かれている絵のように見えた。開いた所を見た事が無かった。

もしかしたらこの灰色の団地には私達の家族以外誰も住んで居ないんじゃないか。

毎朝聴こえる喧騒も毎夕聴こえる家族の音も誰かが流しているだけなんじゃないか。

そんな事を妄想しながら月を見遣る。コンクリートに頬を寄せたまま目だけ向ける。

ようちえんのお友達。私がこんな目にあっていると知っても友達でいてくれるかな。それともお友達じゃなくなっちゃうかな。お顔のケガどうやってかくせばいいかな。

友達が居なくなった気がして寂しさに包まれる。寒さは気にならなくなる。本当は友達なんて居ないんじゃないか。あ、でもそれなら先にパパに消えて欲しいなと思った。

あしたもわらえるかな。おつきさま、あんまり見ないで?はずかしいから。


月が近くにあった。小汚い私が笑みを浮かべながら寝ているのが見えた。

しっかりしろよお前。と声を掛けた。私が頷くのが見えた。私に耳打ちした。私は笑顔になって小さく頷いた。そのあどけない笑顔に安心して眠りについた。

2008-03-07

[] 月桃の花 11:34  月桃の花 - pour away を含むブックマーク はてなブックマーク -  月桃の花 - pour away

川面には青白い円月が揺らいでいる。時折、小魚か、水の跳ねる音が聞こえる。川の流れは極めて穏やかだ。

梟が規則正しく鳴いている。合いの手を入れるように、風が吹く。森が歌う。

男と水浴びをしにきていた。男は桃太郎と言った。おかしな名前だと思った。

同時に、名前なんてどうでもいいと思った。夜を一緒に過ごしてくれるのならば。

誰だって構わなかった。肌の感触と体温さえあれば良い。

もう何年もこうやって夜を過ごしている。他の過ごし方なんて忘れてしまった。

偶に男は朝になると消える。そういうものなのだ。また違う男を探す。

男は蜜蜂のようなものだ。亡き母が教えてくれた。だから花になりなさいと言った。

夜に咲く、月に照らされる為の花。男が裂く華。

男が肌を寄せて口を吸う。合わせて体の力を抜き、預ける。硬い舌が歯の裏を舐める。甘く柔らかい果実のような赤。

男の腕が体を弄る。腕を男の背中に回す。月と同じ、蒼白の肌が絡まる。

夜を払うように、儀式のように、毎夜繰り返す事の空しさ。それにより際立つ、何ものにも代えがたい今。

頭の中も、心の中も、私の中も、全て白く染めて。溶けて。

押し倒されて、足を開かされる。ざあっと風を呼んで。森が、梟が、水が鳴き止む。音が消える。瞳は月。草がちくりと肌を刺す。男が私を貫く。中が押し出され、口から妖しく漏れる呻き。昂ぶらせる。

男の肌に熱が篭り、男が香る。ぞくぞくする。自分が女で良かったと思う。瞬間、達する。弾ける。吸い込まれる。

口で受ける。甘い桃のような白。唾液に混ぜて飲み込む。脳が痺れる。こんなにも甘い。

この男は不思議だ。惹かれたのもそれのせいかもしれない。甘い誘うような匂い。果汁のような精液。薄皮のような白い肌。まるで果実そのもの。

男に跨る。男の耳を、首を胸を舐め上げる。やはり、甘い。

その甘さを体中が欲しがる。鼻腔から、舌から、欲が上ってくる。痙攣。

男の首に歯を立てる。驚くほど柔らかい。ずぶずぶと歯が食い込む。男の首が受け入れる。

ぷつんと破れた皮から、熱く甘いシロップが溢れ出す。夢中で啜る。歓喜

気が付くと、男の二の腕に私の爪が刺さっている。少し力を込めると指が減り込んだ。土の感触。男の腕は千切れた。土に男が染み込む。

勿体無いと思った。千切れた腕を潰しながら喉に流し込む。もう片方の手を男の胸元に当てる。にゅぶ。手が吸い込まれていく。喚起。あらゆる感情が混ざる。堪らなくなって笑う。吼える。咀嚼。繰り返す。足りるまで、終わるまで。



雀の鳴き声で目が覚める。

川で体を洗う。ついでに余った男の下半身を川へ流す。

尻が浮いて桃のようだった。

2008-03-06

[] きみと 00:14  きみと - pour away を含むブックマーク はてなブックマーク -  きみと - pour away

するのが好き。すごく。好き。いい。

もちろん、きみの事も好きなんだけど。それ以上に、きみとするのが好き。

身体が目的って言うと聞こえが悪いから。身体も好きって事にしてる。

きれいなラインの身体。まつ毛、耳たぶ、首筋、二の腕、背中、ひざの裏、足の甲。

多分、最初は、きみの事が少しは好きで。でも本当に好きになったのは。一度してから。だと思う。

甘いきみのやりかた。きみにしかできない。きみとしかできない。

もちろん、普通にデートしたり、日長一日部屋でだらっと過ごすのもいいんだけど。みんなで飲み会したりとかね。

でもそゆのは、けっこー、こう、誰とでもできるとゆーか。

いやいやいや、もちろん!もちろんよ?好きな人としたいよ?何でも、ずっと一緒に居たいって思うし。

けどやっぱり二人でするのは、一線が違う、そりゃ当たり前なんだけど。

昼間にデートしてても、夜はしたいなぁって、抱き合って眠りたいなぁって。

きみの身体が欲しい。きみだから、きみにしてほしい、触って欲しい。

口でするときに、頭押さえられるのがやだった。大嫌い。苦しいし。

私のやり方に、下手くそって言ったいつかの彼のせいで。

でも、きみがこないだ。私がしてるときに、私の頭を掴んでしたとき。

もっとされたい。と思ってしまった。わからないけど。なんでだか。

きみを飲み込んでしまいたいって。もっと感じて欲しいって。ちょっと気持ちよかった。

きみとするのは好きで好きで、でもちょっぴり怖くて、別に変な事してるんじゃないんだけど。自分がきみと触れ合うと、変わって行くのが目に見えてわかって。この先どうなるのか。真っ白になって。なにもわからなくなって。きみの肌と、感じている私をみて、笑う顔だけ。ちょっと悔しいんだけど、抵抗してもすぐ流されて、溺れそうになって、きみに捕まっていないと、どうなってしまうかわからない。きみに捕まっていられるから安心してできる、いける。きみも私の身体が好きならうれしいな。私とするのが好きなら。今身体が目的なんだって言われたら、すっごくうれしいよ。