嫉妬する雑種犬 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2010-02-26

[]雨粒の上の瞑想 雨粒の上の瞑想 - 嫉妬する雑種犬 を含むブックマーク はてなブックマーク - 雨粒の上の瞑想 - 嫉妬する雑種犬 雨粒の上の瞑想 - 嫉妬する雑種犬 のブックマークコメント

雨が降っていたので、傘をさしていた。

いや、そうじゃなくて、正直にうちあけると、「傘をさしたかったので」傘をさしていた。

「もし、地球をまるごと茹でたら、どうなるだろう。」

と、考えていたのだ。

「海水のおかげで、ちょうどよい塩加減にゆであがるだろうな。」

ところで、誰かが茹で上がった地球を指先でつまんで、ひょいと食べてしまったら?

案外、地球というのは天体というより、巨大な枝豆といったほうがいいのかもしれない。

雨粒は、いったいどこで雨粒でなくなるのだろうか。水溜りは、いくたりかの雨粒でできているのだろうか。

誰かが、宇宙全体を食べてしまったとしたら、地球に住んでいる人間のうちで、「何かが変わった」と知ることのできる人はいるのだろうか。たとえば、ハワイにいる天文学者とか?

それとも、ニューエイジ思想家。ローマ教皇。タクシーの運転手。

観測できる範囲の外で起こったことは、どんなに重大なことでも、誰にも知られることがないのか。

雨粒は、ひとつひとつ、それぞれが、違ったメッセージを抱えているらしい。でも、そのメッセージを読むことができる人は誰もいない。

無限ループは、無限だったためしがない。なぜなら、この世に存在した無限ループは、どれも途中で強制終了させられたから。

だから、無限ループなんて、この世にない。

人間の脳みそは、有限の物体だ。でも、そこから、無限という観念が出てくる。

だから、人間の脳みそは無限だ。

どこかほかの世界で何かが起きたかもしれないといって、人は、病室の窓に手をのばす。

雨粒の数は、回転する運命の数だ。

それは有限なのだろうか?無限に多いように見えて、実は、有限なのだろうか。それとも、誰も経験しえないという意味で、無限なのだろうか。

祠の中に、きらきら光る小石がたくさん詰まっている。雨粒という小石が。

そこで、すべての謎がとけた、という錯覚をおぼえる。でも、すべての謎がとけると、「なぜ、とけない謎がないのか」という謎がうまれる。

だから、やっぱり、無限ループはある。でも、それは仮想的な無限だ。

雨は、降っている状態と止んでいる状態のふたつに分けられるのだろうか。その中間というのはないのだろうか。

無限に中間がないように?

それとも、無限には、中間が無限にあるのだろうか。

同情なるものが辺りにはねとばす水しぶきは、人間を本来の道から遠ざける。

世界中の電車がレールからはずれるとき、もはや、世界の中心はここにはないだろう。

雨粒は、仮想的無限の中を落ちてくる。

どこまでも。

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2010-01-06

[]死についての覚え書き 死についての覚え書き - 嫉妬する雑種犬 を含むブックマーク はてなブックマーク - 死についての覚え書き - 嫉妬する雑種犬 死についての覚え書き - 嫉妬する雑種犬 のブックマークコメント


ところで不吉な予感というのは誰にだってあるものなんだろうか。

あのとき誰もいないはずの部屋の中で、ラジオの音量を下げたのは誰だったのか?

風の音が耳の中を吹き抜けていた。


人は、自分自身の死に際を意識できるのだろうか。ただひとつの世界の中で、世界の終わりを見ることが人間にできるのだろうか?言葉のない脳が存在することを僕は知った。いや、むしろ、言葉のない人格というものが存在しえることを。しかし脳は人格なのか?僕は心臓に砲弾を浴びた。鍋の中で煮えているおぼろげな胎児の姿。これは、普段いつも親しんでいる吐き気。折り重なって眠る麝香鼠のような重々しい夢々。これからどうする?夢の中で、誰かに向かって思いっきり叫んでいた。それは誰が望んだことだったのか?

たとえば、目覚める瞬間は誰が決めているのだろうか。意識は、無意識に依存している提灯鮟鱇の雄に過ぎないのか?そんなことは、脳の中の幻に過ぎないのだろうか。問題は、この問題の核心は、いま考えている僕の脳。ところで、人は、自分がこの世から離れる瞬間を自分で決めているのだろうか。多分、無意識の海底から湧き上がってくる泡が。真の支配者とは、誰なのか?鯖の群の閃く銀の腹は、太陽の光よりまぶしい。流氷は、僕に最後の一瞥をくれた。たったひとつの沈船から流出した重油は、この心の海面に広大な油原をつくる。言葉のない視線は、意味を持っているのだろうか。その視線は、何を理解し何を理解しないのか。肉体に触れてもそこには何もない。僕たちははりぼてなのか?言葉のなくなった脳は、一ヶ月、二ヶ月、どの時点で力尽きるのか?それは誰が望んだことだったのか?世界には潮流というものがあると僕は信じる。一ヶ月、二ヶ月、それとも三ヶ月?いったいどの地点で、登山客たちは判断を間違えるのか?何が彼らの生死を分けたのか。正確に何が。僕は、驚くほど、何も知らない。知ろうとしたところで、何が。


僕の目の前の庭で、凍った洗濯物がぎこちなくはためいていた。

熱帯魚までが氷の中に閉じ込められて…

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2008-01-03とりあえずあけおめ

[]妄想狂の夜 妄想狂の夜 - 嫉妬する雑種犬 を含むブックマーク はてなブックマーク - 妄想狂の夜 - 嫉妬する雑種犬 妄想狂の夜 - 嫉妬する雑種犬 のブックマークコメント

俺は強いカプチーノで一服しながらニーチェを読んでいた。周りでは数匹のオナガザメたちが機械的に円を描いていて、それを見つめすぎたひとりの少女が眩暈におそわれている。

どうしたわけだ、そこで、雪のようにまっ白なイルカが乱入してくる。コーヒーの匂いのたちこめたカフェの中で、まるで巨大な蛍光灯の太陽のように光り輝くイルカ。俺はカメラをとりだしてその夢幻的光景を撮ろうとするが、明るすぎて露出の設定がうまくいかない。サメたちは逃げてしまった。イルカはイルカで、もうほとんど気絶しそうになっている少女を連れ去ってしまう。

カフェにひとりとりのこされた俺は、明かりの消えた店内で様々なものたちが蠢くのを感じた。ふと足元を見ると、岩かげにミスジリュウキュウスズメダイの幼魚が数匹かくれているのをみとめることができた。俺は彼らをおどろかさないように、苦労してゆっくりと立ち上がる。ウツボの顔が、あの隅っこの暗がりからのぞいている。それを避けつつ、俺は店主のいないカウンターに2ドル硬貨を3枚放り投げる。すると得体の知れない長い腕がのびてきてあっという間に硬貨をさらってしまう。俺は木のカウンターに、吸盤の跡がついているのを見てしまい、身震いする。こわがっていることがばれないように、なるべくゆっくりと店を出る。

俺は……いまこそ知った。俺という人間はひとところにとどまってはいられない。明日の朝目覚まし時計が鳴ったらまた現実の世界にもどるだろうが、夜ごと無意識の航海に出ることは止められない。そしていつかもどって来ることができなくなるほど、俺は深く潜ってしまうだろう。ほら、もうこんな風に、現実と幻想の境目がわからなくなっている。あれは現実か?俺の頭上、ほのかに青く光る空をマッコウクジラがゆく。彼、「鯨の王」は深海でダイオウイカと戦ってきたばかりだ。俺は再び吸盤の跡を、彼の身体にみつける。巨大な吸盤の跡……。俺は俺の死体がはるか深海へと沈んでゆき、飢えたヤツメウナギたちに甘美にかじられる様を現前に見た。俺の死体はマッコウクジラのそれほど栄養豊かとはいえないが。

ひとつ知っておいてほしいことがある。もしきみが魚を釣りに海へ出かけたとすれば、俺はいつでも、文字通りいつでも、釣られる側にいるということを。

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2007-04-05

[][]もしもラヴクラフトホテルカリフォルニアを自分語に翻訳したら もしもラヴクラフトがホテル・カリフォルニアを自分語に翻訳したら - 嫉妬する雑種犬 を含むブックマーク はてなブックマーク - もしもラヴクラフトがホテル・カリフォルニアを自分語に翻訳したら - 嫉妬する雑種犬 もしもラヴクラフトがホテル・カリフォルニアを自分語に翻訳したら - 嫉妬する雑種犬 のブックマークコメント

夕陽の最後の光も消え去った時刻、私は人気のない寂寞とした街道をあてもなく彷徨っていた。夜のひんやりとした風がまるで不可解な手のように私の髪をかき上げ、湿気を含んだ夏草の臭いが陽炎のように立ち昇って私の鼻をつく。

私はもう何時間も、暗い街道を足元に目を落として黙々と歩いていた。しかし、ふと何かの視線を浴びているように感じて目を上げ、数百フィートほど向こうに明滅するか細い明かりが見えることに気がついた。吸い寄せられるように近づくうち、頭に疲労がのしかかってくるように感じ、突如として視界が靄がかったようにぼやけ、突然の眩暈に襲われるかと思い、夜ごと無法者の行きかううらさびれた街道で意識を失えばどのようなことが起こるかを考えて私は恐怖にかられた。

泊まる場所を探さねばならないと私は思った。

幸いなことに近づくにつれ、先ほど私が見た光は、少なくとも100年以上も前に建てられたと思われる、今や蔦がいたるところに繁茂し白壁を半ば隠すように覆っている古ぶるしい正教派の教会を改築したホテルだということがわかった。往時は美しかったであろう聖母マリアの生涯を描いた一連のステンドグラスは歳月を閲してどす黒くにごっており、ちょうどその上の梁の部分に、いささか場違いな鮮やかさを放つネオンサインが煌々と輝いていた。

ホテルカリフォルニア

私はこみあげてくる不快感に圧倒されつつも、足は戸口に通じる重々しい石段を上っていた。

戸口には、高貴な家柄を思わせる洗練された顔立ちながらもどこか人工的な、仮面のような微笑を浮かべた女性が立っていた。その美しさと肢体の若々しさに相反して、彼女は落ちぶれた貴族を思わせる奇妙に落ち着いた雰囲気をそなえている。

彼女が私のためにドアを開け、私は来客を知らせるベルの乾いた音を聞いた。

彼女は蝋燭に火をつけ、その不気味な影をつくるゆらめく黄色い光で廊下を照らしたが、ランプひとつない真っ暗な廊下を奥まで照らせるはずもない。そしてその暗がりから、何かこの世のものではない、異界的な声を持つものたちの詠唱が湧き上がるかのように感じたのは、私の膨れ上がった想像力のなせる業だったのだろうか。

――われら汝を歓迎するものなり

――選ばれしもの集う甘美なる地にして

――汝眠るものに夢見る場所を与えたり


私は彼女について暗い廊下を進み、やがて無数の蝋燭で明るく照らされた中庭に行き着いた。私は急な明るさに目を細めた。

中庭の中央には1969年という銘の読める苔と地衣類に覆われた背の低い石碑が不可解にも横たわっており、それを中心にして儀式めいた正確さでテーブルが配置されている。テーブルの上には贅沢な飲み食いの饗宴を行ったとおぼしき跡が見受けられ、彼女はそこにいるたくさんの、どれも同じような薄い唇と浅黒い肌をした、どこか魚を思わせる容貌を持つ男たちを“仲間”だと私に紹介した。

男たちの何人かは浮かれて踊っており、その踊りは私がいままでに見たことも聞いたこともない、まこと奇怪でグロテスクな踊りだった。

私は居心地の悪さを感じながら壁際のテーブルに腰かけ、給仕係を呼んだ。

ワインをくれ。」

と私が言うと、他の男たちと同じ魚めいた容貌のこの給仕係は、

1969年以来、スピリッツは置いていないのです。」

と、薄い唇をゆがませてにやりと笑った。

私は再び頭痛と眩暈を感じ、部屋に案内してくれと頼んだ。彼女が私をまたあの暗い廊下へ導き、修道女たちが使っていたであろう質素な部屋に案内した。

私はすぐに硬い簡易ベッドに横になり不安な眠りについたが、何か怖ろしい、原初的恐怖を感じさせるような地獄めいた悪夢にうなされ、真夜中ごろ目を覚ましてしまう。私の目は恐怖によって見開かれ、不快な冷や汗を感じながらも身動きもままならず、その悪夢原因は何なのかと一心に耳を澄ました。するとあの、震えるような異界的な声で唱えられる詠唱が――

――われら汝を歓迎するものなり

――此は選ばれしもの集う甘美なる地

――夢見るもの逃れること能わざる歓喜を見出す地なり

私は飛び起きて彼女の部屋をノックしに行った。

ドアが開き、私は鏡張りの天井と、テーブルの上のシャンパングラスに入った赤い液体を見た。

「私たちは呪われているの。」

彼女が言った。

「中庭にあった墓を見たでしょう。私は……」

私はその先を聞く前に駆け出していた。彼女が何を言わんとしているのかがわかったのだ。私は彼女の部屋の本棚にただひとつ置かれている本が聖書などではないということを見てしまったのだ。ありえない事だが、私はその分厚い歳月を感じさせる禍々しい表紙に「ネクロノミコン」という文字を読んでしまったのだ。

私は暗い廊下へと方向もわからずに逃げ出し、別の部屋の扉を見つけてノックした。とにかく彼女以外の人間に助けを求めたかったのだ。

私のためにドアを開けたのは魚めいた容貌をした男たちの一人で、部屋は狭苦しい調理場だった。彼の背後では男たちが鋭い肉切り包丁で何か大きな肉塊を切り分けているのが見え、ドアを開けた男の白衣にははなはだ当惑させられる大量の血の染みがついていた。そして、調理場全体に漂っているむっとする不快な臭い……。


最後に憶えていることは、出口を目指してあの暗い廊下を、やみくもにひた走っていたことだ。私はとにかく、元の場所、あの平凡なハイウェイに戻りたかった。

するとひとりの夜警が私を呼びとめ、……その夜警も同じ魚めいた容貌をしていたが……こう言った。

「落ち着きな。それが運命なんだよ。チェックアウトはいつでもできる。だが絶対にここから出られないんだ。」

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2007-03-29

[][]なぜ一片のプラスチックの削りかすが巻貝の内部構造に似ていたのか なぜ一片のプラスチックの削りかすが巻貝の内部構造に似ていたのか - 嫉妬する雑種犬 を含むブックマーク はてなブックマーク - なぜ一片のプラスチックの削りかすが巻貝の内部構造に似ていたのか - 嫉妬する雑種犬 なぜ一片のプラスチックの削りかすが巻貝の内部構造に似ていたのか - 嫉妬する雑種犬 のブックマークコメント

  信じがたいことだが、今でも多くのプラスチック部品が……自動車やジャイロ、モノレールの部品にいたるまで……人間の手で加工されている。工場は埃にまみれていて、広大で、彼方の消失点まで延々と積まれたオイルタンク梱包する労働者たちや、俺のような加工員の間を縫って、無人フォークリフトグリッドに沿って不気味に動き回る。

本物のプラスチックの雪の舞い散る夢幻的光景の中を、油でよごれた作業着を着て歩くパラドックス現実幻想。月明かりにペットボトルをかざして検品する白衣の人々……。

「インジェクション21号に不具合発生。」

と味気ないアナウンスがある。

「またか。」

と俺は言った。隣に座っている同僚が首を伸ばして、

「しばらく止まるぜ。また休憩だ。」

うんざりした。

俺は何気なく足元のごみを蹴散らかした。俺がプラスチックタンクを削る際に出たかすたちだ。するとふと、目に留まるものがある。半ば無意識に、夢見心地でそれを拾い上げる。一片の削りかす。俺は、それを自分の端末のエンターキーの上にのせて見た。

驚いた。ときたま削りかすの中に芸術的なものが偶然できるのは知っていたが、これは芸術とはいえない。その形態は単純にあまりにも自然すぎて、自然に似すぎていて、俺は心を奪われた。普通に考えてただの削りかすが似ていると思えないもの……。

巻貝の内部構造。

そしてそれは、……神経を一挙に集中させたことで……俺の深層からある記憶引き出した。あまりにも遠い記憶なので、自分自身のものともつかないおぼろげな記憶


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その情景は……幼いころのまぼろしのようなもので、俺はひとり、ごみや海草のたくさん打ち上げられた浜辺で貝殻を拾っていた。寄せてくる波をぎりぎりのところでよけることに執心しながら、広大で陰鬱な波打ちぎわに小さな足跡を残していった。

そのころの俺には「先のことを考慮する」という能力が欠けていて、遠くまで行きすぎて日暮れまでに家に帰ることができなくなるのではないかという意識はまるでなかった。家に帰らなくてはならない、という義務感がなかった、と言ってもいい。

しかし何事にも飽きっぽかった俺がなぜ浜辺をどこまでも歩いていくという退屈な行為を楽しんでいたかは知らない。俺は石を拾って水切りをしたり、朽ちて腐りかけた桟橋の残骸をみつけると、先端まで行って下の海を覗き込み、黒々とした海草の不快にからみあう隙間をボラがすいすいと泳ぐのを見つめた。

そして俺は、なんとか“完全な”貝殻を見つけようと苦心していた……。打ち上げられた厖大な数の貝殻はどれも一部が欠けていたり、ツメタガイによって穴を開けられていたりして、完全体でのこっているものはひとつとしてなかったのだ。

片側が完全に欠けて骸骨をさらけだした巻貝を拾って目に近づけると、内部きれいならせん構造があるのがわかった。それは欠けているのでもちろん“完璧な”貝殻とは言えなかったが、ともかくそれは、その内部構造を俺に見せたのだ。

しかし、そもそも“完璧”とは何か?完璧な貝殻は欠けていてはならないという定義を、どこかのだれかが作っただろうか。ましてや貝殻にとって、完璧であることが必要だろうか?

夕闇が迫ってくる。それを見てやっと、俺は家に帰らなくてはならないことをぼんやりと思い出したのだった。

完璧ではない”巻貝の貝殻のいくつかは俺のポケットにおさまり、その美しいらせん構造は、単純なヴィジョンとして……なんの論理的な考証も強要しないまま……俺の脳裡に焼きついた。

夕闇が迫ってくる。

……

「21号が動いたぜ。」

という同僚の声がなかったら、俺はそのまま夢想しつづけたに違いない。意識に、機器類の爆音が一挙に戻ってくる。

時計を見たら、5分も経っていない。巻貝そっくりの奇妙らせん構造をしたプラスチックの削りかすはまだエンターキーの上に載っており、俺の視線はその白い塊の上をさまよっていた。

指先でつまみあげて目に近づけてみる。

やはり、巻貝の内部らせん構造にしか見えない。どうでもいいことかもしれないが……俺にとっては、この体験は驚くべきものとなった。

俺という人間自然破壊する要因ともなっているプラスチック、すなわち文明の濃縮物から偶然に“巻貝”を削り出したことは、単なる皮肉では終らないという気がする。俺が創造主になり得るということなのか、巨大に発達しすぎた文明への警鐘なのか、それとも、「まったく何も意味しない」のか……。

そんなことを思ったのも束の間で、俺はすぐに、一日中果てしなく同じ単純作業を繰り返すという仕事に戻った。

幼い頃の純粋で……透明な記憶が俺に思い起こさせたのは、俺は今でも孤独で、陰鬱なごみだらけの浜辺のかわりに、建設途中の鉄塔が橙色の光を投げかける、陰鬱なごみだらけの陸橋を通って家に帰るだろうということ。

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