時は2431年。
数年来連絡のなかった幼なじみから「ブラックホールに飛び込んだ」という通信を受け取ったのは1ヶ月前のことだ。
ここは現代ブラックホール利用の前線基地。つまりはゴミ処理場だ。ゴミの投棄に際して生じる莫大なエネルギーを回収するための広大な施設。僕の星の住民はみなここで働き、ここで死んでゆく。宇宙のなかでも最下層といわれる民族が暮らす場所だ。
話を戻そう。
ブラックホールへ飛び込んだ彼は事象の地平面を越えるその瞬間まで僕たちふたり――つまり、僕と、僕の愛する幼なじみの彼女――に向けて信号を送っていた。さいごの一文などひどく赤方変移しており解析にはおそろしく手間がかかったし、文末の数文字に至っては重力に捕らえられたまま、まだやってこない。その間延びした信号はこれから何十年何百年何千年かけて、そしておそらくは永遠に、僕の部屋へ、僕と彼女の部屋へとやってくる。間断なく。そしてその内容はといえば、ただただ「済まない」という言葉が繰り返されるだけ。そう、間断なく。
僕がその言葉の意味を理解するのはそれから3週間後のことだ。つまり、彼女が僕の目の前から消えてからのこと。
彼女からの最後の通信が届いたときには全てがもう手遅れだった。そのときには彼女はもう、ブラックホールの深淵へと飛び込んでしまっていたのだから。
彼女からの通信はすべて僕への謝罪でうめつくされていた。僕と暮らすようになってからもずっと彼のことが忘れられなかったということ、それから何度も僕に隠れて逢瀬を重ねていたということ、会える確証なんてどこにもないけれどそれでも彼を追いかけたいという衝動を抑えきれなくなってしまったということ、自分のことは忘れて新しいパートナーをはやく見つけ、幸せになってほしいということ、そしてさいごに、ただただ「済まない」という言葉が繰り返されていた。通信は彼女が事象の地平面を越えるその瞬間までつづいていた。
そうして僕は取り残された。
僕の部屋では今日も彼がさいごに発した信号と彼女がさいごに発した信号がかさなる。これから何百年、何千年と、赤方変移した二人の通信が僕の部屋で睦み合うことになるのだろう。僕が死んだあとも、永遠に。彼の頭上(上下なんてものがあれば、の話だが)に彼女が降りてくることができたかは誰にもわからない。すべては事象の地平面のなかでの出来事。彼らはそうやって、永遠を手に入れたのだ。
SF愛好者であった私の祖父は、1991年からの17年間をホワイトホールから飛び出した少女が自分の頭上へと降りてくると信じながら精神病院で過ごした。2009年に亡くなるまで、彼の時間は止まったままであった。まるで彼のなかに届く永遠の信号のように。
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参考:降臨賞