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胡乱 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2008年01月07日 月曜日

[]民話製造機 21:41 民話製造機 - 胡乱 を含むブックマーク

ある、山間の村に男と女が住んでいた。男と女は夫婦であった。女は美しく優しい、働き者の、笑顔の似合う娘であったが、少し体が弱かった。

二人の間には二人の子供がいた。三人目の子供を産んだ女は産後肥立ちが悪く、死んでしまった。

男は、女が死んでしまった事を、子供たちにどう言えば良いか解らなかった。三人目の子供物心ついたときに「自分のせいで母親が死んでしまった」と思わないだろうか…。産後肥立ちが悪くて死んでしまうことは村の中でも良くあった。しかし良くあることであっても、その本人たちは苦しむ。男も自分の母親を自分が生まれた時に亡くしていた。

「おとう、おかあはどこに行ったんじゃ」

「おかあは、遠くの国に行ったんじゃ」

「なんでじゃ。あえんのか?何でわしらを置いて行ったんじゃ」

「おかあは雪女だったんじゃ、雪の国に帰ってしもうたんじゃ」

「雪女ってなんじゃ」

男は作り話をでっち上げた。若くして死んでしまった妻に対する恨みの念も少しあった。おれを残して死んでしまいやがって。どうにもならない事だが、気持ちの持って行き場などは何処にもなかった。



男は子供に話しただけであった。しかし、子供たちは村の子供や、大人に話してしまった。女の出自が元々知られていなかった事や、生前の容貌や雰囲気、また名前から、村やその近辺でまことしやかに語られることになった。みな退屈していたのだろうか。信じたのだろうか。話には尾ひれがつき、完成した。女は伝説の、人でない何かになった。



男は、その話を他の者から聞くたび、自分の記憶の中の女が、もっと美しく、もっと優しく、もっと儚げで、もっと悲しげなものに、少しづつ変わっていくのに気付いた。話の中で、記憶の中で。そこで女は生き、形を変えた。

しかし、それは自分が愛した女ではなく、別のものでしかない。男はその話を、聞くたび、言わされるたび、自分の中の記憶が、減り、増え、変わっていくように感じた。男は恐れた。そして口を閉ざした。

しかし周囲のものは話を続け、聞きたがった。




子供が大きくなると、男は姿を消した。みな、男は雪の国に連れて行かれたのだ、と噂をした。そして夫婦は幸せになったのだ、と言ったがこの部分は面白くもなかったので、さほど語られなかった。

姿を消した男は、他の遠くの村に流れ着き、平凡に所帯を持った。新しい嫁は特に美しくもなく、なんともない普通の女だったが、体がとても丈夫であった。男はその嫁に「そばに居てくれてありがとうな」と時折言った。嫁は男を、遠くから来たこの人は本当におかしな人だ、と笑った。子供も生まれ、なかむつまじく、二人は幸せに暮らした。




男が死んだ時に、新しい嫁は「男は人ならぬものであり、それらの住む者の国に帰った」と話した。