安寿土牢

2006-12-21

沈黙の夜 沈黙の夜 - 安寿土牢 を含むブックマーク はてなブックマーク - 沈黙の夜 - 安寿土牢

僕の前に横たわる君はもう息をしていない。

仰向けに横たわって息絶えている。眺めるだけで嬉しくなれた君の顔は赤黒く膨れ上がっている。白く綺麗だった歯はところどころ欠け、欠けた歯は僕の拳に刺さっている。頭の後ろから血が流れているのは、首を絞めながら何度も何度も硬い床に叩きつけたからだ。


君が僕を拒否しなかったらこんなことにはならなかったんだ。ありのままの僕を受け入れてさえいれば。

僕らの間の空気はいつになく張り詰めていて、君の一言を聞いた瞬間に僕の視界は赤く染まった。首の後ろから急に圧力が増して、血の流れが脳に向かうのがわかった。鼻腔が妙にすっきりしていて、君に流れる血の匂いさえ感じる。いや、これは僕の血か。呼吸は止めている。それで胸にたまった息を少しずつそっと吐き出した。そうしないと泣き出してしまいそうで。あとに残るのは鈍い衝動。だから僕は固めた拳を君の頬に叩きつけたんだ。

君は僕が殴るなんて思ってもいなかったようで、折れるように床に倒れた。ひょっとすると、本当にひょっとするとだけど君は僕を傷つけるつもりなんて無かったのかもしれない。もう遅いけど。呆然とする君にのしかかって僕は何度も君を殴った。右、左、右、左。正直に言うと殴るのはとても気持ちよかった。君の唇からかすかに繰り返し聞こえる「ごめんなさい」は僕の背骨に電流を流した。僕はさらに殴った。ぴしゃっぴしゃっと殴る音に水音が混じる。腫れ上がった頬が切れ、血が流れているのだ。君の折れた歯が僕の拳を傷つけ僕の血がそれに混ざる。君からはかすかな息遣いしか聞こえない。僕は指を一本一本解いて拳を開く。開いた手を君の素敵な首のラインに沿わせて、ぎゅっと潰す様に。上に持ち上げて思い切り下に。持ち上げてもう一度。さらに。硬く叩きつける音がやわらかくなるまで何度も。

君は息をしていない。僕が殺した。呼吸が止まるまで従容として暴力を受け入れ、抗わなかったのは、僕を愛してくれていたからだろうか。僕が恐ろしかったからだろうか。愛していたからだと思いたい。僕は君を愛していたんだし、君じゃなかったらこんなになるまで殴ったりしなかった。君だから……

両手の指を組んで高く振り上げ打ち下ろす。君の顔の真ん中に。もう怒り衝動もない。あるのは悲しみ。僕は今初めて涙を流していた。

「なんで『ボクッ娘はキモイ』なんて言うのさぁ!」