安寿土牢

2007-07-18

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できる男は目標に到達してもふり返らない。その先にまた新たな目標が見えてしまうからだ!

逆境ナイン

(おじさん何かお話聞かせて)

そうだな、今日は真に利己的な男の話をしよう。昔々あるところに自分の育てたリンゴを売って生活している一人の男がいた。リンゴは好きかい?

(うん、大好きだよ)

それは良かった。男の育てたリンゴはたいそう美味しく、男がリンゴを売りに来ると人々がやってきて瞬く間にリンゴは売れていったものだった。ところがある日を境にぱったりとリンゴが売れなくなった。男のリンゴより安いリンゴが出回り始めたからだ。男はどうにかしなくちゃならないと考えた。どうしたと思う?

(うーん、もっと安くリンゴを売った?)

男のリンゴは手がかかっていたからこれ以上安くすることはできなかったんだ。とにかく、敵を知らなければならぬと、安いリンゴを売る人のところへ出かけていった。その人の家はリンゴ畑の真ん中にあったのだけれど、男はだんだん気が滅入ってきた。とてもひどいリンゴ木々だったのだもの。手を抜いて育てたリンゴを安い値段で売っていたんだね。男は畑の持ち主に会った。さてどうしたろう?

(わかんないや。懲らしめた?)

男は力があったからそうすることはできた。けれど真に利己的な男だったので、そうはしなかった。人を殴ったりしたら捕まってしまう。男はその人を説得し始めたのさ。良いリンゴの育て方を教える代わりに、同じ値段でリンゴを売ろう。そうすれば、僕もあなたも今より儲かるってね。男はたくさん計算して見せて、たくさん喋ってついに説得に成功した。男達は美味しいリンゴを育て、適切な価格でこれまでよりも広い範囲でたくさん売り始めた。そうしたら別の人が安いリンゴを売り始めたりした。それも同じように説得して市場流通を広げていった。その繰り返しで、いつしか男は国中のリンゴを取り扱うようになった。

(そうしたら、いくらでも高く売れるね)

そうだね。でも男は真に利己的だったので不当に高く売ったりはしなかった。リンゴは美味しいけど食べなくても困らない。あまり高いと人は買わなくなってしまう。だから男はジャガイモも育て始めた。

(ジャガイモなら高く売っても買ってくれるから?)

いいや。毎日のご飯が高くてほかにお金が使えなくなったらみんな怒るよね。男は真に利己的だったので反感を買うようなことはしたくなかった。だからジャガイモをたくさん作って値段を下げて、余ったお金でたくさんリンゴを買ってもらおうとしたのさ。男はそうするだけの能力があったし、その国のジャガイモ生産流通には無駄が多かった。だからすぐに男がジャガイモ生産流通を一手に握ることになった。国のみんなは適切な価格で美味しいリンゴを毎日一個食べられるようになったのさ。

(めでたしめでたし)

いいや、実はここからが本番。この国には意地悪な王様がいた。王様ジャガイモリンゴ価格を好きに設定できる男が気に入らなかった。王様は自分が価格を設定して大儲けがしたかったんだ。男がいくら適正な市場における税収の向上の話をしても聞き入れてもらえなかった。王様軍隊を持っていたから、男を脅すことができた。男は自分の周りに危険が及ぶと、少々インチキをすることにした。

中の人々や王様の兵隊まで煽って、王様王様じゃなくしてしまったんだ。男は説得をするのが得意だったから。そうして真に利己的な男は僭主と呼ばれるものになった。男は国で一番偉くなると、国中の無駄を潰すことに取り掛かった。そのことを男は「最適化する」といった。最適化することで男と国の人々は豊かになっていった。男の国は小さな国だったので全て最適化するまでそんなに時間がかからなかった。

国の最適化が終わるころ、隣国がちょっかいを出し始めた。豊かな男の国を自分のものにしてしまおう、骨までしゃぶってやろうと思ったんだ。男は真に利己的だったので隣国との関係最適化しようとする長きに渡る挑戦を開始した。男はわずかな軍隊、その他の国々との外交関係経済生産技術、持てる手段の全てを使った。男は十分な能力があったが、欠けているものもあった。寿命だ。男はある日、隣国との関係最適化するまで命が持ちそうもないぞと判ったんだ。

だから優先順位の変更を行った。男は国を捨て、誰にも見つからない地の底に潜んで研究を始めた。不老不死研究だ。成功するかどうかもわからない博打だった。男は狂っていたのかもしれない。

(それで地の底で死んだの?)

いいや。不老不死になることに成功してしまったんだよ。不幸なことに。そう、不幸なことに。

(不老不死幸せじゃないの?)

どうかな。真に利己的な男は永遠の時間を手に入れた。だからこう思った。俺は真に最適な世界を作る時間を得た。そしてこう考えた。真に最適な世界のために一時的に最適じゃない状態になっても構わないだろうってね。何しろ男には十分な時間が味方についていたんだ。だから男は世界を最適なシステムで一から作るために行動を開始した。世界の破壊からはじめたんだ。真に利己的な男が潜んでいた地の底まで続く深いダンジョンから、男の呼び出した魔物が続々と沸いて出てきた。魔物たちは世界の通商を破壊するために各地へ飛んでいく。

そして真に利己的な男は魔王と呼ばれるようになった。

男の最適化の範疇に人間達はもちろん含まれていたので、彼らを絶滅させる気はなかった。ただ一時的に不幸な状況に置かれても気にならなかっただけだ。男はこれまでの世界の無駄の多いシステム破壊することに半ば成功していた。男が最適なシステムをつくりはじめるまでもう少しだったのだと思う。でも男は十分な能力があったので気づいてしまった。世界に無駄を生み出す更に上位の存在、神々に。

男は、魔王最適化された世界のために神々を破壊する仕事に取り掛かった。それは更に時間のかかる仕事のはずだ。そうして真に利己的な魔王が神々に挑戦する準備を整えている最中、真に利他的な存在である勇者に倒されることになるのだけれど、それはまた別の長いお話。

(えー、勇者って人の家の箪笥をあさったりするのに利他的なの?)

そう、真に利他的な人間には所有という概念が理解できないのさ。人のためにひたすら身体を鍛え、武器を調達し、世界を駆け巡ってお使いをする。真に利他的な人間こそが勇者と呼ばれる。勇者は局所的な最適化を図る存在と言い換えてもいい。常に動いてランダムに近くにいる人の願いをかなえる。利害の対立は何回も個別の願いをかなえることで強引に調整される。その姿をみて魔王は、世界が静的なシステムでなく動的であることを知ったという。自分の根本的な失敗を知ったときに既に魔王は敗れていたのさ。

(魔王は死んじゃったの?)

魔王は不死だったからね。それからしばらくしてラグナロクと呼ばれる神々の最後の戦いの後、生き残ったただ一人の神の庭にはリンゴが大事に植えてあったというよ。

(じゃあ魔王神様になったのかな?)

どうかな。神様に会うことがあったら訊いてみよう。さて夜も遅いよ、もうお休み


男は、眠い眼を擦る子供を自分の娘に預けると、扉を開け夜の見回りに出た。こういう風の強い日は水気の多いリンゴが枝から振り落とされてしまうのだ。




http://d.hatena.ne.jp/nekoprotocol/20070702/1183378445

http://d.hatena.ne.jp/Erlkonig/20070704/1183560845

http://mubou.seesaa.net/article/48256611.html

objectOobjectO2007/07/18 18:58おじさんはAkogina博士と呼ばれていたよ。