安寿土牢

2007-10-02

食人賞作品総評 食人賞作品総評 - 安寿土牢 を含むブックマーク はてなブックマーク - 食人賞作品総評 - 安寿土牢

IDを告げると奥まった座敷に通された。そこには既に四、五人の先客がいて和やかに談笑している。挨拶をして座につくと、なるほど貴方がという顔をされる。勿論、それは私のほうも同様。中には貴方がその作品を?と首を傾げたくなるような外見の人もいたが。

すぐに席が埋まるが主宰の姿はいまだ見えず。屋外に集合場所を指定して、この賞の話をしようものなら、まず間違いなく官憲の目に留まる。そうしたまっとうな配慮から、会場に直接集合する形態がとられたが、真っ先にくるべき幹事がここにいないとはいかなる理由によるものか。手の付けられていない料理を前にざわつき始める面々。すっと襖が引き開けられ、酒が乗せられた盆をもって女将が現れた。

お客様は所用で遅れるので先に始めていてほしいとの事です」

嘆息交じりで了解すると、各々酒を酌み交わし思い思いに自他作を評価する。曰く、その地点は私が既に踏破したところ。曰く、貴作は匂いが足りぬ。曰く、ハンケチギリギリ。

程よく酒と話が回ったころ、ようやく主宰が現れた。

「どうも遅れまして」軽く頭を下げる。

「スピーチ!」誰かが囃したてる。

「あー、では」居住まいを正す姿に、好もしげなくすくす笑いが起こる。

「皆さん今日はお忙しいところをよくお集まりいただきました。食人賞なる反倫理的な賞を立ち上げたときにはよもやこんな会を開けるほど作品が集まるとは思いも致しませんでした。これというのも皆様の日ごろからの人倫にもとる所業の積み重ねの賜物かと」

笑い声。

「皆様の作品は全て堪能致しました。いずれも甲乙付けがたく、賞と銘打っておきながら大賞すら決めかねるこの身を恥じるばかりです。かくなる上はと、参加された皆様すべてを慰労すべくこのような席を設けさせていただきました。今宵はごゆるりとお寛ぎください」

「もう十分寛いでますよ」と茶化す声。主宰も笑いで答える。

「左様にございますか。よろしゅうございました。そういうことであれば」

主宰は座を上座に移す。

「先だって皆様に申し上げたとおり、賞と銘打ってはいても優劣をつけるつもりの無かった賞ではございますが、私とて大賞に値する作品を創造せんと志してまいりました」そこで言葉を切る。一同を見渡して続けた。

「で、ふと考えたのです。もし食人テーマに異形の作品群を著した皆様を食すことができたら、これは食人賞の頂点となるファック作品になりはしないかと」

ばん!ばん!ばん!

左右の襖を開けて、和包丁中華包丁を手にした調理人たちが姿を見せる。意図は明白だった。沈黙が場を支配する。

「ほう」声がした。

「ほう」もう一度。

一同はそちらへ目をやる。視線の先には若い女。

「いやはや同じようなことを考えるものですねぇ。流石はファック文士。といったところでしょうか」

何処から取り出したか不穏な光を放つ抜き身の刀を手にしている。

「なんだあんたらもか」「ええ、私も」皆いそいそとその人なりの得物を取り出し、それぞれに距離をとる。蒼褪める調理人達

「くっくっく」うつむいて哂う主宰。

「抜け駆けはできんものですなぁ」両手にぎらり、ナイフとフォーク

「では、はじめましょうか」

血肉の饗宴がはじまる。皆を喰らうのはこの私。