安寿土牢

2008-07-09

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http://d.hatena.ne.jp/aureliano/20080703/1215052052

Q:語れるでしょうか?

A:どうやら貴方には無理なようです。(回答者:objectO)



CAW-systemは古典的な人工知能である。

わたしは何度もCAWに"その形容詞はふさわしくない"などと注意され、あげくのはては"あなたの書き方では意味が通らない. あなたは要するにこう書きたいのか?"というメッセージとともに全面的に改稿されてしまった.

CAWを利用して書いていたつもりが, どうやら利用されていたのは私のほうらしい.

なにはともあれCAW-systemが完璧に動作したことは認めなければなるまい.

敵は海賊・海賊版


1

パシュッと音を立てて山田は気化した。

会議場とは名ばかりの大モニタースピーカーの他は何もない空間。詰め込まれた兵士達は直立姿勢のまま身じろぎもしなかった。ただ脇をぬらす汗だけが冷たかった。モニターの向こう側でたった今、公開処刑された山田に死に値する罪があったとは誰にも思えない。山田はただ愚かであっただけなのだ。だがシステムがそれを許さなかった。そのシステム艦長の声を借りてスピーカーから訓示した。

「兵士山田は自らの愚かさを死によって購ったが、祖国の大恩に報いる機会を失うこととなった。それは今や諸君等のものである。これより作戦を説明する」

2

「以上だ」

艦内放送をオフにしても藤堂の表情は変わらなかった。

「なぜ山田をこのタイミングで処刑したのですか」

花咲の問いかけには僅かに非難の感情が入っていた。

「花咲副長、このタイミングだからこそだ。無意味な死と意義ある死の二つがあることを兵士達は知らねばならん」

「もっと他にやり方はあったと思いますが。山田でよかったのかというのも含めてです」

冷徹を通り越して冷酷と兵士からいわれることの多い藤堂だが、なぜかこの類の部下の批判には寛容だった。

山田だからこそだ。日頃から省力化効率化を訴えつつも、無駄なことはおろか必要なことすらせず、成果は明らかに手抜きでしかない。a山田のような人間を処刑することで私のメッセージは兵士達にしっかり伝わっただろう。この艦には凶悪犯罪者のいる余地はあっても不服従の無能の存在可能な空間はないのだ」

花咲には返す言葉もなかった。

「他に何もなければ、私は一旦部屋に戻る」

「ありません。艦長

「作戦開始時刻は予定通りだ。それと10分後にアナン軍属を私の部屋へ」

「アイ」

アナンタは鱗を持った亜人類の娘だ。科学的には人類生命工学により生み出した新たな近縁種であり、法的には人権を持たぬ奴隷階級だ。この艦では亜人類にも公式の任務が与えられてはいるが、実質的アナンタは艦長専属の奴隷とみなされていた。花咲は彼女の悲しげな琥珀の眼を脳裏に浮かべ、美しい体表が時折深く傷つけられているのを思い出して、ため息をついた。誰にも見咎められぬようにそっと。

3

「入りたまえ」

藤堂はアナンタを見るときでさえ、その瞳の温度に変化はなかった。

艦長室であっても必要最小限より僅かに広いだけのスペースに無駄なものは何もない。藤堂は椅子を回転させアナンタに向き直ると、自室内でもかぶったままだった帽子を脱いで頭を軽く振った。黒い豊かな髪が椅子の背に流れる。ジャケットボタンをはずしシャツをはだけるが、自由になった乳房を僅かに変形させる加速度すらこの艦はまだ発生させていない。常のように跪くアナンタの肩に藤堂は脚をかける。

奉仕なさい」

爬虫類特有の長い舌と滑らかな肌による奉仕活動は1800秒ほど続いた。

4

自律航行中のスナーク1、スナーク2、スナーク3を敵性と認定。ブージャム1、ブージャム2、ブージャム3と改称」オペレーターが報告する。

「推測可聴域到達まであと1000秒」

長く続いている星間戦争の第一フェイズオールト雲のどこかにステルスされた戦闘惑星を乗りつけられた時点で太陽系軍の完敗。あとはそこから繰り出される揚陸艦隊を防ぎきるしかない。相手の物的あるいは人的資源を枯渇させるまでそれは続く。木星に火を放ち土星の輪を軍需工場に丸々置き換えても、相手の生産力を上回る可能性は今のところ五分であった。この争いに負ければあとは揚陸を水際で殲滅する対鏖殺戦に移行してしまう。自分の消費を上回る出血を期待するのはもはやヒューマンファクターに頼るほかはなかった。戦争は有人機動機の際限のない消耗戦に突入していった。

「対テレパス戦準備。艦橋要員は戦闘をイメージすることを禁じる」

「アイ・サー」

宇宙空間での会戦はダンスに似ている。戦闘宙域は一様平坦の重力場で、狭い目標到達軌道を巡って争われる。加速度・質量・距離・方向、彼我についてのそれらと宙域を運動する天体についてのそれ、扱う情報はさほど多くない。そのような状況だからこそ敵の持つテレパシー能力は脅威だった。太陽系はそれを学ぶのに多くの犠牲を積み上げた。

太陽系軍は対応した。まず観測員に与えられる情報を分割して制限する。半径一千万キロの一般的な作戦域のうち、1人のオペレーターが観測するのは縮尺一千万分の一にして半径2メートルほどの空間である。観測員相互の情報のやり取りはなく、したがって何もない空間をただひたすら観測し続けるものがほとんどであった。そして対テレパス作戦中の艦橋で状況を正しく把握するものを不在にした。艦長の藤堂ですらその例外ではない。第三者が艦橋に居合わせたとしても何が起こってるかを理解するのは不可能だ。

「犬三匹ニャー」

艦長今日パンツの色なに?」

「悟性は本当に獲得するものなの」

「アイ、愛玩動物余命3ヶ月」

「ごめんなさい、今日B型の運勢はシェフお勧め

「アイ、嘘つきの子供を母は殴殺」

本来情報を処理するはずの艦橋では、誰一人として意味のある応答をしておらず、オペレーターも無為にスイッチオンオフしているように見える。そこには隠喩暗号のような実体との関係も、規則性や法則性すら見出せない。情報科学心理学がよってたかって戦闘システムを弄りまわした結果だった。艦長は的確な判断をしているがそれを認識し得ない。自分が何をして何をしないことに決めたかを実体から完全に切り離している。システム設計者たちが有機脳と機械をつかって達成したのはそのような混沌であった。それでも艦は<正しく>動き、ブージャム1、ブージャム3の撃破が観測された。

このような艦橋運営を行うにあたり、士官学校は特殊教程を開設したが脱落者は常軌を逸して多く、その脱落者のほとんどが一般生活にすら復帰不可能な状態にまで追い込まれていた。艦橋クルーはどの一人をとってみても一種のエリートであり、ある種の狂人だった。

「ちわー三河屋です!」

副長が対テレパス戦終了のトリガーを引いた。それは彼我のどちらか(たいていは双方)に選択の余地がなくなったことをもってされる。艦はブージャム2と正面から対峙していた。双方とも機動戦闘を行うエネルギーはなく向かい合わせに目標軌道に乗っている。取りうる可能性が分岐しなければいくら心を読まれても問題はない。この状況で敵が目的を達成する選択肢はない、のだが。

「本艦の目的は後方60度の円錐空間の死守である。揚陸ユニット一機たりとて逃すわけにはいかない。目標に逃げ帰られるなどもってのほかだ」

藤堂は放送した。与えられた目標無意味であっても間違っていても、その判定を行う権限は藤堂になかった。

「懲罰大隊の諸君、諸君が罪を償い祖国に報いるには今だ。今こそ諸君の生命が必要だ。各機その命を持って敵勢力を殲滅せよ」

艦橋クルーは極めて理性的に執行していく。

桜花1番から20番射出。21番から40番待機」

「射出確認40番以降随時射出シーケンス急げ」

兵士一人一人が詰め込まれた爆弾は、操縦者にほんの僅かな軌道変更の余地しか許さなかったが、視野・視界深度はふんだんにあった。体当たりを加えるのに必要な情報を兵士に提供するためである。最初に射出された20人の兵士たちは与えられた機能をフルに使って人間として出来る限りの努力を行った。

桜花1番から20番、目標より離脱姿勢をとりました」

兵士たちの生きるための努力オペレーターは伝えた。

「よろしい。そのまま21番から40番を射出」

「アイ」

すぐに200番目の最後の爆弾が射出された。200人の兵士は見事なまでに円錐の隊形を形成していた。そうなるように仕向けられていたからだ。

「1番から20番を爆破」藤堂は命令を下した。

「アイ」

通信チャンネルから断末魔悲鳴。あふれかえる呪いの叫び。

「爆散を確認」

「続いて21番から40番」

「アイ」

爆発の輪は網を絞るように小さくなっていく。そしてその中心には敵艦。テレパス機動艦は暗い空間に響き渡る怨嗟にパニックに陥る寸前だった。敵に思念をぶつけるため、桜花の自爆はじっくりと操縦者を灼くように設定されていた。これで短絡的に回避行動をとろうものならわずかに残った火器ですら十二分に料理できる。だが。

目標、加速を開始しました」

損失が不可避ならその中で最大限相手に出血を強いる。そのセオリーは敵においても同じことだ。

「本艦も全力加速。推進軸をあわせろ」

こちらはそれすら織り込み済み。

藤堂は腕にそっと触れる手を感じ、美しい鱗を持つその手の上に自らの手を合わせた。

「愛してるわ」

そう言うだけの時間はあった。





  • 煽ったとは心外
    • 何も書いてない屏風を見せられて「暴れますか?」と尋ねられた一休さんの心境。「なにがだよ?」
      • で、SFの何を誰に語りたいんだね?