安寿土牢

2009-07-21

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野生化した円城塔が最初に発見されたのは、大学研究室に備え付けられた電子レンジの中だった。

重大な発見はいくつもの偶然が積み重なった結果であることが多い。このときも例外ではない。

  1. 学生研究者弁当を温めるために一生活用品として研究室に設置された電子レンジゴキブリが発生した
  2. 発見者がブログに載せるために写真を取ろうとした
  3. ケイタイの操作を誤り、撮影でなくQR読み取りモードになっていた

こうした積み重ねを経て、ミュータントゴキブリの翅脈から文字情報が読み取られ、その文章はゴキブリ画像と共にWEBに公開された。

センテンスが円城塔と同定された功績は大部分をGoogleに帰すべきだろう。だが、マルコフ連鎖適当な語彙さえあれば自動的に意味の通る文章が生成される昨今、その文章が既存のものであるというスタートにたつには、自らの想念が何処かの誰かの劣化コピーなのではないか、縮小再生産なのではないかと、常日頃から苛まれている必要があった。それは今のところ人間にしか為しえないことだった。

ゴキブリの翅脈に円城塔を転写したのは誰か。

同大研究室隔離施設がいくつも徹底的な検査を受けた。にもかかわらずその出所は特定できないまま時は過ぎ、捕獲されたゴキブリ飼育箱の中で卵を産んだ。卵鞘から孵化したゴキブリがやがて翅を持つとそこにもやはり円城塔が確認された。ただし親とは違う作品として。

ミュータント第二世代は親の部分改変でなく、まったく違う、そして子供同士でも異なる文字情報を有していた。それぞれが別個の円城塔であると判明した。第三世代になると、既存の円城塔とは一致しないものまでが現れていた。しかしそれは依然として文字情報に変換可能であり、読者により円城塔なら書きそうなものであると評価された。つまり遺伝子レベル創作する何者かがあるということになる。

作家円城塔がことの以前より消息を絶っていたことが明らかにされた。

既に研究者にとっては円城塔ミクロサイズの創話エンジンの呼び名であり、原点回帰したともいえるのだが、作家円城塔ウィルス円城塔開発者であったか、または単なる一キャリアーであったかは今となっては判断の材料がない。

チャンバー内のゴキブリも10世代を越え、翅脈画像出版社が買い取るルーチンが出来上がったころ、円城塔アウトブレイクが見つかった。円城塔の翅をした無数のゴマダラアゲハ韃靼海峡を渡っていったという目撃情報を始めとして、テントウムシトンボ等様々な昆虫から、鳥類では孔雀の羽、爬虫類の鱗など際限なく円城塔は発現し広がっていった。

いまや自然界のありとあらゆる文様が文字に変換できる情報を持ち、全ての個体が独自の物語を有していた。

それはオカルティストが携帯端末に置き換えられた時代の転換点であった。





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