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終末思想

2012-03-05

消えた少女について ー序章(2)

01:56

 「英二先輩!事件です!」

午前四時限目が終わったチャイムと同時に、綾瀬明莉が僕を呼んだ。数学Bの教科担任がまだ教室にいて、ほとんどの生徒も居る中で、僕はいつもの展開に朝よりも深いため息をついた。

「元気がいいね、今日も」

「先輩、お昼を食べに行きましょう、依頼内容を話したいですし」

綾瀬明莉(あやせあかり)は、一つ下の後輩で一年Cクラスに所属している。ショートカット気味のショートボブで少し茶色がかった髪の色である。本人曰く『生まれつき』だそうだが、そんなにつきあいの長くない自分ではそれが本当なことなのかどうかはわからない。クリっとした目が印象的な美少女だが、やや先走る傾向があり、健康的とはいえなくもないが、声が大きい。特徴的な声なので、一度聞いたらたいていの人間は『ああ、綾瀬か』という風に覚える。少し天然ぼけであるところがあるが、本人はあまり自覚はしていないようだ。まぁ、自覚している天然ボケとは天然とは言わないのだろうから、自覚していない方が正しいのだろうが、ここら辺の境界が曖昧なので僕としては、綾瀬明莉については天然ボケのキャラで通しておいてもらいたいと思っている。ただし成績は優秀らしく、高校入学試験においては、上位五位以内だったと、いつかどこかの先生が言っていた。そういう頭の良さそうな部分は普段みることがない。

 綾瀬入学早々に五人の男をフったという伝説があり、入学三ヶ月を終えた、期末テストのちょうど終わり辺りに『絶対圏外の女子』という異名がつけられた。

 まぁ、その異名があるというのは、綾瀬明莉が明言していたことではなく、同じクラスの松本君が振られたときに、会話の中で出てきた言葉である。本人がそんな風に呼ばれているのかどうか知っているのかは、僕は知らない。それにその呼び名が学校中で浸透しているのかどうかも僕は知らない。どちらでもいいし、どちらかと言えば知りたくもないし、突き詰めて考えていこうと思うこともない。

 綾瀬は僕の鞄から俺の弁当を取り出すと、

「先輩?聞いてます?一緒に食べに行きましょう」

自分の弁当と俺の弁当を重ねると、肩でぐいっと僕の肩を押した。松本君が僕の方をみて落胆したような表情を作ったような気がするが、その辺は察してほしい。俺自身こんなことになるなんて思ってもみなかったのだ。

 ・・・・・・いつものことではあるのだが。

「いいよ、自分の弁当ぐらい自分で持つ」

「先輩は私からのラブレターでもしっかり読み直した方がいいと思いますよ」

冗談めかして綾瀬は言ったが、数人のクラスメイトがざわついたところを僕は肌で感じ、寒気を覚えた。

 すたすたと廊下に奥の扉から出て行く綾瀬に向かって追いかける形で席を立つ。さっきだった、クラスメイト(男子)に、わざとらしく見えるように『依頼』のルーズリーフを見せるようにして俺も廊下に出た。「ああ」とか「いつものやつか」等というため息なのか安堵なのかわからない言葉が聞こえて、誤解が解けていくことに俺はほっと胸をなで下ろした。

 松本君が僕の腰辺りに小さくパンチをし、

「まぁ、その、何だ、がんばれ」

と声をかけてくれた。

 ありがとう松本君。

消えた少女について ー序章(1)

01:53

 登校するのはだいたい朝のホームルームが始まる少し前だということもあって、学校中が騒がしい。『おはよう』と『おはよう』の挨拶が慣例になっていて、一体一度の朝で何回のおはようの応酬をするのか、数えてみたいような気がする。

 自分は決して人付き合いが悪い人間ではないと思っている。むしろどちらかと言えば友達も多い方だと思っているし、範囲は学外にも及ぶ。それはひとえに挨拶ができる人間であるからだと思っているし、そこまで間違った見解ではないと思っている。挨拶は人間の生活の基礎なのではないだろうか。気持ちの良い一日を過ごすには、気持ちの良い時間を過ごすには、朝からの、それからつきあいからのすべての始まりに挨拶がついて回るものなのだと思う。

 そんな挨拶大好き人間の僕でも、朝の喧噪にうんざりすることも少なくない。いや、少なくなくなった、とでも言えばいいのだろうか。

 『依頼』

と表されたA4のメモがきちんと折りたたまれて封筒状になって机の上に置かれている。病的なまでに美しくおられたルーズリーフの紙切れと、女子らしいかわいらしい文字をみるだけで、朝のさわやかな気分はどこかに飛んでいく。七月に入って、梅雨も終わって、テストもそろそろ終わって後は夏休みを待つだけだと思っていたところにこれがくるとはなかなか神様もどうして僕にお休みをくださらない。

 僕は鞄の中の教科書を机に詰めると、椅子を引いて、その手紙らしきものをひらひらとさせた。両手で持ち上げて、折りたたまれたまま夏の日差しに透かせてみたが、開いてみるまで内容はわからないようだった。どんなに可愛い文字で書かれていても、きっと内容は割と面倒なことに決まっている。

 心の中で一つため息をつくと、ホームルームのチャイムが鳴って担任が教室に入ってきた。