鰐と雨量 このページをアンテナに追加

2007-12-18

第三回ゆらぎの神話小説コンペ投稿作改稿「無題(初題ミュリエンティの憂鬱)」

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 小説を書こうと決めた。私が無になる前に。いや、私は既に無だ。何一つできることはなく何一つなしとげず何一つ得ることも与えることもない私は無だ。そんな私でも言葉は分かる。だから小説を書こうと決めた。それは無から有になる魔法だ。何もできない私が何かをする。私は魔法使いになりたい。けれど。けれど何を書けば良いのか分からなかった。私は無だから。私には何もないから。私はどこまでも空っぽで目の前には言葉の海が無限に広がっている。一つ言葉を掬ってみた。意味があるとは思えなくて投げ捨てた。どうすれば良いのか分からない。途方もなくて途方に暮れる。どうすればいいか分からなくて泣いた。一滴落ちた涙は言葉の海に溶けて何の意味もないようだった。私には書くことがない。書けない。書けない。書けない。いや、違う、そうだ、書けないことを書けば良いんだ。この苦しみを。この辛さを書けば良い。私を満たしている。ほら見ろ、私はもう書いている。さあ続きを書けば良い、今を書けば良いんだ。私は苦悩している。この焦がれる思いをどう吐き出せばいいのか分からないのだ。何も浮かばない頭からは一言の言葉も浮かばないでああ嘘だ、違う、違うじゃないか、もう駄目だ、失敗だ、大嘘だ。何を書いても間違いだ。私は気付いている。私の苦しみはそんな場所にはない。もうこんな所にはない。「苦しいのです」とか「途方に暮れ」とか「焦がれる思い」とかそんな、そんなものはないんだ。そんなものは、全て嘘だ。私には分かっている。私の書くことは嘘ばかりだ。あの人たちも、書く苦しみをまざまざと生々と書いているあいつらも嘘ばかりだ。あいつらは書いているじゃあないか。書けるくせに書けない苦しみを書くなんて、詐欺だ、欺瞞だ、全部ペテンだ。私は違う、本当の苦しみを知っている。だって本当に書けないんだから。無力さを知ってる。絶望を知っている。私は本物だ。私は本当に書けない。いやそれも嘘だ。違う。書いてしまったから駄目なのだ。私は何をしてるんだ。何かを書いている。これは何。小説? そんな体を取っていない。しかし小説ではないと言う理由なんてない。では小説としていいのか。苦悩を書いた小説。だからそれは嘘だ。書いてしまったら書けない苦悩なんか大嘘だ。じゃあ書いていないのだ。これは苦悩を書いた小説なんかではない。すると、どういうことだ。私は何をしてるんだ。小説を書くと決めたのに、それが、私は、これは何だ。これは無だ。何でもない。何の意味もない。私はまだ何もできていない。

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