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Slimo the fatter

2008-06-24

[]25人の白雪姫 01:14 25人の白雪姫 - Slimo the fatter を含むブックマーク はてなブックマーク - 25人の白雪姫 - Slimo the fatter

 彼女の肌は雪のように白く、また唇は血のように紅く、黒檀のような黒髪は奇麗に風になびいていたが、何よりも美しかったのは、彼女――白雪姫の無垢さであった。彼女を産んですぐに死んだ母君にたいそうよく似ていたので、彼女の父親であった王様はとてもとても彼女を可愛がった。

 やがて王様は、新たな奥方を周囲の推薦もあって迎え、再度円満に新婚生活と統治の日々を送り始めた。新たな奥方は、当初こそ、見も心も美しい、と誰からも思われたものであったし、白雪姫もよい母上さまだと感じ始めていたが、年月を経るうちにそのよい白絹のヴェールは剥げ始めた。というのも、白雪姫が成長するにともなって、彼女の美しさは更に輝きを増してゆき、十七になったころには、その美しさは太陽の燦然と輝くかのようだったためである。が、そこには、若干の論理的飛躍がある。そしてまたそのヴェールの剥がれは、奥方自身には、なんの咎もないものであった。初めは他愛もない噂話であった。奥方が子を成せぬ身体だったとか、そのせいで王様の寵愛が薄れ出したとかの類の卑しい噂である。だが、事実として、奥方のベッドに王様がやってくる回数は近頃明らかに減っており、夜伽をもつこともこのごろはもう稀になっていた。幾人かの侍女がまことしやかに言っていた/王様は近頃、毎夜のように白雪姫の部屋に通っておられるらしい。奥方は驚いたが、入念に調査した結果、それが事実であることを確認した。その事実は彼女を嫉妬という病に蝕んだ。もう長い間、白雪姫と面と向かって話していなかったのもその病に侵された一因であったろう。見えぬ不安は抱えきれぬほどに大きくなるのが常であった。だが、気丈であった奥方は、それを見せまいと毅然として振舞った。だが、ふくよかな頬は徐々にこけてゆき、それがまたあらぬ噂を招く結果になったのであった。そして、彼女は幾夜も孤独な時間を益のない思考のなかに潰したうえで……やがて、彼女はある結論に至った。

 計画の実行には慎重を期した。白雪姫を外の野に連れ出し、狩人に殺すふりをさせて逃がし、逃げた先で死なない程度の毒りんごを盛る。彼女はもっと直接的な制裁をふたりに下したかったけれども、やはり王様を愛してはいたし、白雪姫のことも、継母なりにではあったが、愛していた。理想的な母になろうと心がけていた。また、彼女は、夫の国を――臣民をも、充分に愛する王妃であった。だから、彼女はこのような道しか選べなかったのだ。良い日を見繕って、彼女は計画を実行に移した。その甲斐もあってか、白雪姫は失踪し、あとは念入りに呪術師に作らせた毒りんごを食べさせるだけとなった。彼女はここで、白雪姫がとたんに哀れに思えてきた。彼女は無垢であった。無垢であるが故に誰からも愛される存在であった。彼女は何も悪くは無かった。そんな白雪姫をむやみに傷つけてはいけぬ、と思い、彼女はせめて自らが優しく毒りんごを食べさせてやろう、痛みやつらさのない形で逝かせてやろうと、漁師から聞いていた小屋へと向かっていった。

 その小屋へは、馬で三日を要した。乗馬をたしなんだことのない奥方の腿は擦り切れ、血が滲んでいたが、彼女はそれをおくびにも見せず、優しい母のままであろうとした。小屋へ近づくと、中からなにやら笑い声が聞こえてきた。漁師からは、小屋には白雪姫ひとりしかいない、と聞いていた奥方は訝しみ、そっと可憐な耳をドアに近づけた。そこから聞こえてきたのは……白雪姫ひとりの声であった。白雪姫ひとりが、いくつもの声色を使って(冷静に計測したところ、男女含め25人分)、ただひとりで会話していたのである。奥方は背筋に冷たいものが走るのを感じた。同時に、長年側にいながらもこの事態を防げなかった自らの罪と、少なからず嫉妬した自分自身を責めた。彼女の双眸にいつのまにか涙が溢れ……それを、彼女は丁寧にドレスの裾でぬぐい、決意したようにドアをぎい、と開けた。果たしてそこには、あらぬほうを向いた目も虚ろな白雪姫が、ぎいこぎいこと耳障りな音を立てながら安楽椅子に大きく揺られていた。

 「白雪や」

 彼女は声をかけた。できるかぎりやさしく。

 「だれ」

 白雪は可憐な声で応答したのも束の間、

 「『誰だ?』『誰』『どなた』『もしかして』『あの方かも』『……オカアサマ!!』」

 いくつもの声色で早口に畳み掛けた。彼女の目は、喉の調子に合わせて様々なほうを向いた。

 「そうよ」奥方はにっこりと笑い、

 「今日は、あなたに、プレゼントを持ってきたの。りんごよ。一緒に食べましょう」

 そう言って、用意してきた毒りんごを出した。

 白雪姫の中のいくつもの声が感嘆の声を挙げた。

 「『りんごなんて』『見たの久しぶり』『ほんとだな、最近肉ばっかりで』『それも、あの漁師の持ってきた野鳥の』『飲み物なんて……』」

 その後に続いた筆舌に耐えぬ言葉を聞かぬふりをするのは辛かったが、奥方は気丈ににっこりと、笑顔を絶やさなかった。幾度か涙は拭いたが、多分感付かれてはいないだろう。もう、そんなことはどうでもよかった。持ってきたナイフでりんごを丁寧にカットし、白雪姫に差し出した。

 「さぁ、どうぞ」

 焦点の定まらぬ目で、白雪姫は、嬉しそうにそのりんごをみつめ、ぱくりと一口に食べ……そのまま、気を失った。

 安楽椅子の上でくずおれた白雪を見た奥方は、もう、堰が切れたように涙を流し、嗚咽しながら、これでよかったのだ、これしかなかったのだ、と言いながら汚物の散乱した小屋の床にうずくまった。ひとしきり泣くと、白雪姫を優しく抱きかかえ、川へと連れてゆき、身をきちんと清めてやり、美しいドレスを着せ、涼しい丘に設置した奇麗な棺に少し冷たくなった身体を納めてやった。そうして、その棺の上に、ごりごりと『王の最愛の娘、白雪姫』と金文字で刻み入れ、ぎゅうと頬を押し付けてまたひとしきり泣いたあと、きっと踵を返して、馬を駆り、自らの城のほうへと向かっていった。奥方には、まだなさねばならぬ仕事が残っていた。彼女は、白雪姫の死が、本当の死ではないことを知っていた。彼女はまた、この城で起こった一連の出来事は、夢で終わらせねばならぬ、「悪い悪夢だった」その一言でで終わらせねばならぬのだ、と心に決めてもいた。白雪姫のためにも、自分のためにも、そして、この王国の臣民達のためにも。そう心に刻み込み、彼女は泣きながら馬を駆った。……これは、覚めるべき夢であるべきなのだ。

 数日後、匿名の密書を受けた王子が白雪姫を助け出した噂は、王国中を駆け巡った。王子に発見されたときの白雪姫は、まさに、すっきりした瞳でにこっと微笑んでいたという。まるでたちの悪い夢から覚めたように、以前の、無垢なままの美しい少女の瞳で。


Inspired from::

25人の白雪姫 - ファッキンガム殺人事件

先日からファック文芸部に参加しましたslimoです。よろしくお願いします。

参加表明とかって(いりますか|どうしたらいいのでしょうか?)

なんだかほんとうに参加できたのかどうかもよくわからずにここにいるのです。いていいですか。

【作品募集】「25人の白雪姫」というタイトルの創作を募集します。

これに送ってみようと思ったけれど、明らかに1500字超えてしまった。だめだ。

#一応投稿してみた