My, that was yet another yummy slime mold!
2008-08-12
■ [短編][続き物]僕はもう踊れない 1

夏の午後。せーの、とクーラーの効いた家から飛び出した。すると、さっきまでのけだるさは一瞬だけ消えて、青臭い熱がじとりと僕に染み付いてきた。一瞬だけなら心地よいのに、と僕は思った。
「さて、コンビニってどっちの方角だったっけ」
「ええとね、左じゃなかった……っけ?」
「そうそう、こっち」
そう言いながら僕たちは玄関を出て、熱く焼けたアスファルトに足を踏み入れた。シリコンのサンダルを履いた沙耶香がその熱さに不平を溢す。僕と直樹はそれを笑う。
「だから、靴を履いてくればよかったのに」
ぷっとむくれた彼女はとてもかわいらしくて、彼女を包んでいる柔らかい肉が愛おしくて、なんだか、子豚みたいに思えた。子豚に例えられるほど彼女は太ってはいないし、背は小さいけれど、可愛い顔と、その大きな胸にはとても愛嬌がある。胸を見ながら形容詞を考えていると、彼女がそっと僕の手を掴んできた。それは、とても小さな手で。僕はやわらかいそれを握り返した。
「あー、お前らも熱いこったな」
直樹が至極ダルそうに口を尖らせた。残念ながらその冷やかしは、この猛暑には少しの効果もないようだった。タンクトップを着ている直樹を見るのはその時が初めてで、その硬質の張り出した肩がとても奇麗だった。胸板もあつくて、硬く、頼りがいのあるかたちをしている。僕もあんなふうであればいいのに、と思った。
「直ちゃんもはやく彼女ができればいーのにねー」
沙耶香がケケケと笑った。直樹はむっとして、「いーんだよ、俺はこのままで」と言い、女はよくわからん生き物で、理想の女にしても自分のものになるとは限らないという意味の言葉を口走った。
「ありゃー、それは寂しいことですね」
「あはは」
「畜生」
僕が笑うと、直樹はそっぽを向いた。沙耶香の手が汗ばんで、僕の汗と混ざった。
鳴き続ける蝉の音が、午後の日差しに溶けて、夏を形成し、その残骸がアスファルトにいくつも転がっていた。それをひとつひとつ確認しながら、僕たちはコンビニへと向かっていった。