2009-05-04
「韻を踏むといいんだぜ」「だぜ」
虚構 | |
今日もやっぱり兄妹はおしゃべりをしています。
「この前、馬小屋の増築に大工さんが来たろ」
「うん、大工さんトンカチはらまきにさしてたよ」
「地震がきても倒れない頑丈なやつにして欲しいって母さん、いったろう、覚えてるか?」
「覚えてる、覚えてる」
「じゃあ、大工さんがなんていったかいってみろよ」
「うんと丈夫にするっていったよ」
「嘘つけ! いうもんか、そんなこと! 自信がありませんって、大工さん、そういったんだぜ」
「そう、そうだった、レティシャもそう思うの」
「ちぇっ! まあ、いいや、覚えてたってことにしてやるさ。でもお前、それが洒落になってるって分かってないだろう」
妹は目をぱちくりとさせます。長いまつげが目に入ったみたいに何度もです。
「ダジャレって知らないだろうな。ふとんがふっとんだ、っていうのがダジャレなんだ」
「知ってる! レティシャ知ってる! パパがいってたから知ってるの、ふとんが、ふっ、とん、だあ、ていうの。レティシャ、ダジャレって知ってるかもしれない」
「じゃあいってみろよ」
「アリさんがチョコをちょこっとたべました」
「へえ! 知ってるじゃんか」
「そうよ、だからいったでしょ、レティシャ知ってたのよ、全部知ってたの、本当よ。他のだって知ってるの。はなくそのひみつをそっとはなくそう」
「なんだい、それ、変なの」
「はなくそのひみつを、そっとはなくそう」
妹は辺りに仇敵でも潜んでいるかのように真剣な眼差しを振りまきながら繰り返します。
「ダジャレのジャレは本当は洒落っていうんだって母さんがいってたんだ。洒落っていうのはな、オシャレのことなんだぜ。オシャレって、服を着たりして飾ることばっかりじゃないんだぜ、知性と教養でも飾れるんだ。ユーモアともいうんだ」
「知ってる、レティシャ知ってる、ユーモアって、面白いこと!」
「そうさ」
「あひるさんが池でおぼれています。ぶっくぶっく」
「あひるなんか溺れたってしょうがないだろ、バカだなあ! 本がブックブックって溺れるんだ」
「でもレティシャはあひるさんが溺れる方が面白いと思うの」
「ははあ、本当はダジャレのことなんにもわかっちゃいないんだな、お前。じゃあ教えてやるよ。でも普通のダジャレなんかじゃないぜ、それよりもっと凄いやつさ。本当のユーモアっていうのは韻を踏むのがインだぜ」
「インを踏むのがいいの? でもレティシャ、もしかしたらインてなにかしらないかもしれない」
「もしかしなくたって知ってるもんか! 韻を踏むってのはな、同じ音をそろえるってことなんだ。例えば、空を飛ぶコンドル。どうだ、洒落てるだろ」
「はい! はい! レティシャもいう!」
「いってみればいいだろ」
「空を飛ぶチンパンジー!」
「ちぇっ! てんで駄目じゃないか。同じ音だっていってるだろ」
「空を飛ぶアブドルー!」
「へえ、今度は韻を踏んでるじゃないか。でもアブドルーってなんだ?」
「こうしておててでペケポンをつくってね、火を出せるの」
「そんな変なの、知るもんか!」
「レティシャ、まだいえるよ。パンダがピンポンをしていました、アブドルー」
「最後にアブドルっていえばいいってもんじゃないんだぜ!」
「カレーのルー、アブドルー。あっ! お兄ちゃん笑った! カレーのルー、アブドルー、アブドルー! ほら笑った!」
「笑うさ、こいつ、わけがわからないや、てんで意味がわかりゃしないや! でも伸ばすのはいいかもしれないな、うん、凄くいいぞ、伸ばして強調するんだな、そしたらくすってくるからな」
「くすってきたら、こんどはむふふってくるよ」
「ふうん、いいこというじゃんか、むふふってくるかもしれないな。空を飛ぶーコンドルー。むふふ!」
「空を飛ぶーアブドルー!」
「急降下するーコンドルー!」
「急降下するーアブドルー! あっ、お兄ちゃん、レティシャ、すっごくいいこと思いついた」
妹は口を押さえながら、盗み聞きを恐れてか辺りを見回し、小声のつもりで元気にいいます。「最後に『る』をつけると面白いよ」
「知ってらあ! それが韻を踏むってことだからな」
「サボテンにぶつかるーアブドルー」
「なんだい、やっぱりお前のはわけがわからないや。なんだかアブドルが可哀想になってきた」
「そうかもしれない。アブドルーばっかり踏んづけちゃった、レティシャはアブドルーにごめんなさいっていわないといけないわ」
「そうだな、アブドルーを踏んづけるのにも飽きたな」
「アブドル、怒ってるかも」
「今度踏んづけるときは気を付けてやれよ、そうしないとアブドルーがやってくるー」
兄は自分でいったことが面白くて口元を抑えてこっそり笑います。妹はそれに気付いていて、なんとなく面白く思って繰り返します。アブドルーがやってくるー、やってくるアブドルー。
二人は庭先へ出てきた黒豚を見付けるといっさんに駆けていきます。
「アブドルーがやってくるー!」
「たすけるーボスタフー」
「ボスタフーがアブドルー!」
黒豚はいつものようにその場で二人を待ちながら、やれやれだぜと呟かんばかりに首を横に振っていました。