2006-01-25
NO責任
「ねえパパ、ぼくのおじいちゃんはどんな人だったの?」
「おじいちゃんかい? そうだねえ…。おじいちゃんは………責任を取らない人だったね」
「せきにん?」
「はは、坊やには難しかったかな? ええと、おじいちゃんはね、いつも『自分は悪くない』って言ってたんだよ」
おじいちゃんの責任の取らなさといったら、当時の語り草だったよ。おじいちゃんは決して無責任な人じゃなかったんだ。ただ、いわれのない責任は絶対に取らなかったし、いつも自分の責任を最小にすることを考えてる人だった。責任を取らないためなら命でも賭けそうな勢いだったよ。
おじいちゃんが戦時中にフィリピンで従軍してたときの話はすごかったなあ。「理想的な兵卒は無責任であるべきだ」というのがおじいちゃんの口癖でね、とにかく上官の命令には絶対に服従したそうだ。だからといって卑屈だったわけじゃなく、上官の言うことでも間違っていれば「その命令は間違っていますが遂行してよろしいでしょうか」と遠慮なく聞き返したというよ。もちろん上官からはとてつもなく嫌われたそうだけど、おじいちゃんは兵士としては抜群に優秀で、一度できると言ったら絶対にやり遂げたんだって。だから上官もおじいちゃんに頼らざるを得なかった。
戦争が終わって、会社に勤めはじめてからもおじいちゃんは変わらなかった。自分の仕事の範囲をきっちり区切って、その中では本当にいい仕事をした。おじいちゃんのそういうやり方を嫌う人もいたそうだけど、部下の人たちには評判が良かったらしいね。何しろ、一度自分の責任だと思ったら馬車馬のように働いたそうだから。
会社を辞めた後は、それまで貯めた財産をお父さんたちに分けてしまって、田舎で悠々と暮らしていたね。郷土史の本を書いて地元の賞をもらったりしていたらしい。亡くなる直前に、おばあちゃんが仏様を拝んだらどうかと薦めたそうなんだけど、「死んだ後のことなど責任が持てるか」と言って見向きもしなかったそうだよ。本当に責任を取らない人だったなあ。
「でも、おじいちゃんはおばあちゃんと結婚するときは責任を取ったんじゃないの?」
「おじいちゃんは婿養子なんだよ」