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ファッキンガム殺人事件 RSSフィード

2006-04-20

優雅なレイセイが最高の復讐である

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「うあああああ」
「兄さん」
「ようこそ、お兄様」
「おまえ、手は、足は」
「そうか、兄さんは知らなかったね。僕は病気だったんだ。左手も左足も切り落とさなきゃいけなかったんだよ」
「そんな馬鹿な」
「お兄様、弟さんは医師との合意の下に手足を切断したのですよ。れっきとした成人である弟さんの決断に、他人のあなたが文句を言うのは筋違いですわ」
「他人? 実の兄弟に向かって他人だと?」
「文字通り"他人"ですわ」
「兄さん、悲しまないで。僕の手足は無駄になったわけじゃないんだよ」
「そうですわ、だからこそお兄様をこの席へ招待させていただいたのです」
「何を、いったい何を」
「失礼とは思いましたけれど、お先にいただかせてもらいましたわ。ガランティーヌですの」
「何の話を」
「お肉に詰め物をしてフォンで煮るフランスのお料理ですわ。本場では若鶏や鴨で作ることが多いんですの。でも、鴨では脂が多すぎて、少々くどくなってしまうのです。その点バスケットボールで鍛えた弟さんの左腕は理想的でしたわ。皮下脂肪も少なく、筋肉は引き締まって…」
「ああああああ」
「兄さん、とっても美味しいんだよ」
「こんな、こんな、こんなことが許されると」
「何がいけませんの? 日本法律に「人の体を食べてはいけない」とでも書いてありまして? 傷害罪にも暴行罪にも当たりませんわ。何より、これは弟さんの意志に従った結果なのですよ。そして、お兄様にも警告したはずですわ。ここに来れば不愉快な思いをされるかもしれない、場合によっては死ぬより辛いことをご覧になるかもしれないと」
「お前は誰だ。どうしてこんなことを」
「直接にははじめまして、お兄様。わたしはかつてあなたに傷つけられた者ですわ。でも、そんなことはこの美味しいお料理の前では些細なこと」
貴様貴様
ここだけの話、左足は失敗でしたの。肉の風味を生かそうとしたのは間違いでしたわ。どうしてもくどさが残ってしまいますの。今回はその反省を活かして香草で煮込みましたのよ。コクを出しつつ匂いを消して、さっぱりとした冷製に仕上げましたわ。常識の中の常識を越えて、料理人もいい経験をさせていただきました。弟さんにはいくら感謝してもし足りませんわ」
「やめろ、もうやめてくれ」
「でも、一つ困ったことがありますの。せっかくの極上のガランティーヌですけれど、わたしたちには少々多すぎますの。腕というのは意外に大きいものなのですね。そこで、弟さんのたっての希望でお兄様を招待させていただきましたの」
「うあああああ。くああああ」
「お兄様、あなたには二つの選択肢がありますわ。弟さんの腕によりをかけたお料理を召し上がるか、さもなくばこの芸術作品を野菜クズや魚の頭と一緒に生ゴミにしてしまうか」
「もうやめろ、やめてください」
「どちらをお選びになっても結構ですのよ。あ、それから、お帰りの際にはレシピ差し上げますわ。骨をはずした後の下ごしらえにコツがありますの。他では滅多にない貴重なノウハウですわ」
「許してください、お願いです、許してください」
「それは筋違いですわ、お兄様。あなたがわたしを傷つけたとき、あなたはご自身の行動をご自身の意志で選択されたのでしょう? でしたらいまさら何を謝るのです? あのときから今まで、あなたは変わらずあなたですわ」
「兄さん、泣かないで、兄さん」
「さあお兄様、冷たいうちにどうぞ。わたしは今までこんな美味しいものをいただいたことがありませんわ」