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ファッキンガム殺人事件 RSSフィード

2006-06-24

空理空論的愛され研究 その 1

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―タクヤくんとの出会いは。

「三年前に学校に行く途中で、駅の自転車置き場で会ったんです。タクヤくんは将棋倒しになった自転車を起こしてました。片付け終わったあと、倒れてない自転車に乗って走っていったんです。倒れてたのはタクヤくんの自転車じゃなかったんですね。自分に関係ない、他人の自転車なのに、何も言わないで元に戻すところがすごくカッコいいなって思って。そのあと学校で見かけて、『あ、同じ学校の人だったんだ』って」

―そのあとの付き合いは。

「何も。わたしはタクヤくんをずっと見てただけです。」

―告白しなかったと?

「はい。タクヤくんと喋ったこともありません。たぶんタクヤくんはわたしがいることも気づいてなかったんじゃないかな」

―あなたはそれで満足だった?

「はい」

―タクヤくんと話したいとか、一緒に遊びに行きたいとか、そういう感情はなかった?

「そういうのは小説に書いてました」

小説

「わたしとタクヤくんの、恋愛小説っていうんですか、わたしだけが読むわたしのための小説。その中ではずっと付き合ってました。クラスでおしゃべりしたり、デートしたり、ちょっとケンカしたり、その、キスしたりとかも。あ、家にはもうないですよ。定期的に燃やしますから」

―どうして燃やすの?

「恥ずかしいじゃないですか」

―でも、書く?

「書きますよ。楽しいから。書いてる最中はすごく幸せで満たされた気持ちになります。神様に祈ってるみたいな感じ」

―あなたはそれを変だと思わなかった?

普通の人からすれば変なんでしょうね。でも、わたしは幸せだったし、それでいいと思ってました。誰にも迷惑をかけてないし、嫌なこともないし。友達がときどき『彼に殴られた』なんて言ってるのを聞くと、いつも『どうして付き合うんだろう』って思ってました。自分が好きならそれでいいじゃないですか。相手に近づかなければ殴られることもないでしょう?」

―あなたは小さいときからそうだった?

「まさか。…ああ、でも、割とそうですね。小学校低学年くらいから、まわりが言ってる好きとか嫌いとかはちょっと違うと思ってました。あ、それでも今みたいな考えになったのは中学に入ってからですよ。さすがに」

初恋もそのころ?

「そうですね。あ、その話は恥ずかしいから秘密です」

―…タクヤくんの話に戻るけど、彼には恋人ができたわけだよね。

「あー、そうです。可愛い子でしたよね。タクヤくんも嬉しそうでした」

―あなたはそれを見てどう思った?

「それはやっぱり嫌ですよ、普通に」

―殺してやりたいと思った?

「ちょっと違いますね」

―どういう風に?

「あの二人が一緒にいると、わたしの世界が壊れちゃうんです。わたしが好きなタクヤくんがいなくなっちゃう。それはわたしにとってはすごいストレスなんです。見てられなかった。もちろん人を殺しちゃいけないことなんて当たり前ですよ。快楽殺人とか信じられない。でも、これって正当防衛じゃないですか」

正当防衛? ごめんなさい、ちょっと意味がわからない。

「あの二人がそのままいると、わたしが普通じゃいられなくなっちゃうから。家の外ですごい音を鳴らされてる感じですよ。そのまま放っておくわけにいかないでしょう? それが動物だったら追い出すだろうし、悪意を持って演奏してる人だったら警察に訴えたりしますよね。そういう感じ」

―…話し合いで解決する気はなかった?

恋愛って禁止されると盛り上がるじゃないですか。わたしがあの二人の恋に口を出すのも筋違いだし。だから、言うだけ無駄かなと思って」

―そんなことで好きな人を殺すなんて、あなたは頭がおかしいんじゃないのか。

「わたしはタクヤくんが好きなんじゃなくて、わたしの中のタクヤくんが好きなんです。あなただってそうでしょう? ほら、 CD を買ったら MP3 に落として、本体は CD ラックに放り込んでほったらかしにするじゃないですか。そのディスクが割れたら捨てちゃうでしょう?」