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ファッキンガム殺人事件 RSSフィード

2008-06-21

25人の白雪姫

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女王ほど白雪姫に恋焦がれた者はいない。白雪の純粋無垢な美しさが幼さとは無関係であると女王より理解していた者はいない。彼女生来の輝くような気品こそは余人が七度生まれ変わっても太刀打ちできぬ真の天才であると女王より知っていた者はいない。

だから憎んだのだ。自覚なき才能だからこそ許せなかったのだ。偽らぬ鏡が淡々と事実を告げたとき、その理由を完全に理解できた女王だからこそ、殺意を抑えることは不可能だったのだ。

「女王様、ここでは貴女が一番美しい。けれども、白雪姫は千倍も美しい」
「おのれ白雪。生かしておくものか」

殺害はつつがなく終了した、と狩人は告げた。その夜、女王は安らかに眠り、彼女の安心は辛うじて翌朝までは保たれた。

「女王様、ここでは貴女が一番美しい。けれども、いくつも山越した七人の小人の家にいる少女は、まだ千倍も美しい」

女王の総毛は燃えて逆立った。白雪か。白雪が生きていたのか。下賎な狩人めが、わらわを謀ったか。

「おのれ白雪。七度生き返っても、その息の根止めずにおくものか」

殺害はつつがなく終了した、とジプシー女は告げた。女王は一晩だけ安らかに眠った。

「女王様、ここでは貴女が一番美しい。けれども、いくつも山越した村にいる二人の少女は、まだ千倍も美しい」

増えた!? 白雪が二人だというのか!? 事ここに至って女王はようやく事態の異常性に気づいた。拷問にかけた狩人は、己の罪を遂に認めなかった。ならば確かに殺した二人の白雪に代わって、もう二人の白雪が現れたというのか。女王は戦慄した。山の向こうで一体何が起こっているのか。何らかの魔術の仕業か、それとも高貴な血がもたらす奇跡か。いずれにしろ生かしてなどおけぬ。

「おのれ白雪。神がおまえを守ろうとも、悪魔がおまえを愛そうとも、その身滅ぼさずにおくものか」

こうして村は焼き払われたが、もはや女王に安眠は訪れない。

「女王様、ここでは貴女が一番美しい。けれども、海辺の村の五人の少女は、まだ千倍も美しい」

鏡の言葉に嘘はない。鏡は事実しか語れぬのだ。女王は誰よりもそのことを知っているがゆえに、海辺の村を焼き、街道沿いの町の少女を狩り、城下町の少女たちを殺戮した。火あぶりにした少女たちは、白雪に似ていたようにも、似ていなかったようにも見えた。

「女王様、この部屋の中では貴女が一番美しい。けれども、城の中にいる二十五人の少女は、まだ千倍も美しい」

事ここに至り、ようやく王女は鏡をまじまじと見つめた。鏡よ鏡よ、わらわの鏡よ。おまえは本当に嘘をついていないのか? なぜ白雪姫は殺しても殺しても現れる? 鏡よ鏡よ、答えておくれ。
そうして鏡に手をかけた女王は、遂に気づいてしまった。おのれの顔が別人のように変化していることに。
嫉妬と怨嗟と不眠の日々は、女王の容貌をゆがめ、おとろえさせ、取り返しのつかぬほど変えてしまったのだ。

「おお、おお、なんという醜き顔か……!」

女王は苦悶した。天に憧れ、天に唾し、天を焼かんと試みた者の末路がこれか。わらわはなぜ、己が美しさを顧みなかったのか? 鏡の言葉に嘘はなかった。今では凡百の女官すら、女王の千倍も美しい。

ほどなく女王は熱した鉄靴の刑に処せられた。真っ赤な靴には彼女自ら足を差し込んだ、と史書は語る。どこにもないステップを踏みながら、狂ったように笑い踊るその姿は、地獄の悪鬼にも似た美しさがあったと伝えられる。

二十五人の"白雪"の墓には赤い靴が供えられたという。