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ファッキンガム殺人事件 RSSフィード

2008-09-21

今聞き

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「これは盗作とは認められんでしょうな」
「そうなのですか」
「左様。難しいでしょう」

娘さんは無念そうにうつむく。わしは煙草をふかした。彼女はわしの旧知の作家の遺児である。わしと作家は日本 SF 黎明期に揃って馬鹿をやらかした仲であり、彼が鬼籍に入った今も、こうして家族の方々とは縁がある。その筋で相談を受けることもあり、今日も膝をつきあわせているというわけだ。他でもない、彼女の父の著作権に関することである。

「あの作品の出版社からもそう言われました。父の作品とは何の関連もないと。作者は父の本も読んでいないそうです。でも、わたしはどうにも納得が行かなくて」
「仮に読んでいても、そう言わざるを得んでしょうな」

彼女は、ある人気漫画作品が父上の小説に酷似している件で頭を悩ませているのである。近々その漫画が映画化されることもあり、オリジナルが曖昧になることを懸念しているのだ。しかし現実的にその作品を訴えるのは難しいだろう。わしは煙草をもみ消した。

「だが、アイディアが似ているからといって即盗作というものでもない。こうした類似は SF では日常茶飯事なのです。むしろ似たようなアイディアの本歌取りを繰り返すことでジャンルが発展してきた歴史もある」
「しかし、あの作品が収められた本は父の代表作なんです。本当に作者の方はご存じなかったんでしょうか」

こうなってしまっては話が堂々巡りだ。何しろ参考にしたしないは当事者しか預かり知らぬ問題であり、しらを切りとおせばそれまでだが、かといって潔白も証明できるものではない。そもそも彼女は父親の作品に敬意を払ってほしい思いが第一なのである。映画化を控え、何としても盗作のレッテルを貼られるわけにはゆかぬ出版社と話がかみ合うはずはない。

「よろしい。わしが一肌脱ぎましょう。お父さんの作品を、わしが本当に盗作して差し上げよう」
「えっ」

お嬢さんは慌てた。その答えは予想だにしなかったのであろう。当たり前だ。

「あのう、その、先生が盗作するといいますと」
「要は、盗作したともしないともつかぬ曖昧な作品が世にはばかっておるからいかんのです。中途半端に似ているから巷に盗作の噂も流れるし、いつまでも白黒つかずにぐだぐだと騒動になる。いっそ誰かが本当にぱくってしまえばよろしい。そうすればお父上の作品に対する敬意は明らかである。模倣というのはそれ即ちリスペクトなのです。アイディアなり手法なりを真似た時点で、相手が優れていることを公に認めたと言っても過言ではない。わしが公にお父さんの作品をぱく、あいや盗作、もといリスペクトすることで、先人の偉大さは世に知れ渡るでしょう。それに類似作品へのけん制にもなる。うまくすれば、そこから新たなジャンルが生まれるかもしれない。こういったことは堂々と、徹底的にやるべきなのです」
「わたしは創作のことは存じ上げないのですが、そういうものなのでしょうか」

そういうものなのである。

わしは心を込めて旧友の短編を盗作した。旧友の作品は高度に統制された全体主義社会の片隅で国家の手先となる役人の悲哀を描いた清冽な話である。だからわしは真逆の、どろどろとした下世話なドタバタを書くことにした。元の作品では、役人自身が社会から排除される側になったとき、簡単にそれを肯定してしまう。その冷静さこそが逆説的な皮肉の肝なのだが、人間そう簡単に今までの安穏な生活を捨てられるものではない。そこでおうと吼えて醜くあがいてくたばっていくのも面白いのではないか。わしは新たに徴兵された若者が一日だけ何をしても許される街の話を書いた。やけになった主人公が猫を散弾銃で撃ち、コーヒーストアの店員を強姦し、洋服チェーン店に放火し、激安量販店に放火し、人気店で注文したラーメンを匂いを嗅いだだけで床にぶちまけ、家電量販店にダンプカーを突っ込ませるのである。実はその街は電脳上の架空都市であり、狼藉の限りを尽くしてすっきりした若者は冷静な兵士として任務に就いてゆくという落ちにした。作中では固有名詞を多用し、実在の店名をこれでもかと出す。これは固有名詞を嫌った旧友のやり方をそっくり裏返したのだ。わしの短編は初めから醜悪なパロディでありオマージュでありパスティーシュであるし、またその描写が下劣で悲惨で言語道断であればあるほど手本の気高さが引き立つはずなのだ。

『生活以外全部維持省』と題した掌編をインターネットで無料公開してしばらくのち、わしの元に内容証明で抗議文が届いた。誰かと思えば盗作と噂された漫画の出版社である。内容はわしの『生活以外全部維持省』が漫画作品のアイディアと類似しているうんぬん、下品な描写で似たような小説を書くことが映画公開もされテレビドラマ化を控えた作品に対する営業妨害であるかんぬん。どうやら、一日だけ何をしてもよいという設定が盗作と見なされたらしい。わしは憤激のあまり三年ぶりに怒張した。わしの作品は旧友に対する尊敬から生まれた正真正銘の盗作であり、他の作品など知ったことではない。そもそもこの程度のアイディアの類似で著作権侵害と言われることこそ心外である。そも本朝における本歌取りの歴史からも知れるように創作とは模倣と類似の積み重ねであり反復の円環が下克上のモチベーションにほだらか。電話口で口角泡を飛ばして抗議とも講義ともつかぬ弁舌をぶちながら、わしは脳卒中で昏倒した。

入院中に口述した騒動の顛末は、そのとき仕事をしていた文芸誌上で連載となり、後になぜかアニメ化された。「コンテンツ不足なんですよ」編集者はにやにや笑っていた。キャラクターデザインはわしの作品のイラストも手がけた絵師のいとうのいぢ。わしを演ずるのは若本という人気声優であるらしい。

urza358urza3582008/09/29 05:32感動した

xx-internetxx-internet2009/01/08 00:39ここまで imagiki <-> ikigami の指摘なし。