Hatena::Groupneo

ファッキンガム殺人事件 RSSフィード

2009-01-27

忍法船幽霊

| 忍法船幽霊 - ファッキンガム殺人事件 を含むブックマーク はてなブックマーク - 忍法船幽霊 - ファッキンガム殺人事件

元禄の頃、一人の術者が船旅のさなか奇禍に逢い漂流を余儀なくされたという。嵐をかろうじて乗り越え、とある孤島へ流れ着いた船旅の徒は、術者と、一人の武家の妻女だけであったという。

妻女は半狂乱となり夫を探し求めた。砂浜を駆け、名を呼ばわり、遂に見つからず崩折れ、最後に術者へ救いを求めた。どうか夫を探してほしい、と。

術者は、波間を渡るすべが一つだけある、と言った。喜ぶ妻女に、しかし術者は告げた。使うならば引き換えに、お手前の貞操と、命をいただく、と。

業は秘伝であり余人に知られること罷りならぬ。術の理合を知る者、生かして帰すは断じて許されぬ。夫は救おう、だがお手前は救えぬ。それでもよいか。構わぬか。そう問うた術者は、最後に言うともなく呟いた。わしは今の今まで、己が化け物だとはついぞ思わなんだわ、と。

妻女は承諾した。

翌朝、海辺に立った術者は印を結び波間に念を込めた。身の精気淫気が潮騒を割き陽炎のごとき揺らめきが茫々と水面に形を結ぶ。浮かんだ影は波に揺れる一艘の舟。秘術・船幽霊である。

術者が舟に乗らんとしたまさにそのとき。

妻女の名を呼ぶ者があった。振り向くと、砂浜の奥、松林の際に、一人の侍が立っていた。

印を解いた術者と、妻女と、侍。三つの視線が入り混じる。沈黙を破ったのは妻女であった。最後までお聞きください、と前置きし、妻女は一部始終を語りはじめた。

侍はじっと黙して立ち続けたという。

顛末を語り終えた妻女は、あなた様がご無事で何よりでした、と結び、そしてゆっくりと微笑んだ。侍もまた微笑み、鯉口を切ったと見えた刹那に太刀を閃かせ妻女を逆袈裟に斬り捨てた。

血糊をぬぐい刀を納めた侍は、術者に向き直ると深々と頭を下げ、ご助力まことに忝い、と、丁重に礼を述べたという。

数日後、漁船に拾われたのちも侍は顛末を黙して語らず、術者もまた生涯口を閉ざした。だから、全ては歴史の闇の中である。

k2830122k28301222009/01/30 04:51『藪の中』を連想しました。

トラックバック - http://neo.g.hatena.ne.jp/xx-internet/20090127