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ファッキンガム殺人事件 RSSフィード

2009-03-22

ラブレター買います

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ラブレター投稿サイト "yourletter.com" の紹介は今さら必要ないと思う。「ラブレター買います」を謳う登録制サービスだ。ユーザーが投稿したラブレターを互いに公開するシステムで注目を集めた。気に入ったラブレターにポイントを贈りあうことでフレンドになれる点は、擬似的な SNS とも言える。

他のサービスと違い、最初のブレークスルーを越えても yourletter.com が未だ勢いを失わずにいる理由の一つは、ユーザー登録の敷居の高さだ。 yourletter のアカウントを得るには、自作のラブレターを投稿して承認を得る必要がある。審査基準は非公開とされているが、およそ 9 割程度の投稿者が落とされると聞く。審査が人力なのか、それとも機械判定なのかはこれまた秘密。独自のアルゴリズムで自動判別しているとも、一定数の下読みを雇っているとも噂されているが、真偽のほどは定かではない。投稿してから結果が出るまでにそれなりの時間はかかるそうだが。
ともかく、 yourletter に入るのはそれなりに難しい。ラブレターという私的なコンテンツを扱うゆえの厳しさだと思う。公開されている情報によると、サイト上のコンテンツ管理もそれなりに厳重で、投稿作品は全て Flash 経由でしか参照できない上、テキストの背後にうっすらと参照者の ID が表示されているのだという。作品を画像としてキャプチャして外部に公開しようとすると、誰が持ち出したかが一目瞭然になるというわけだ。カジュアルな転載防止策としてはよくできている。 ID 部分を丁寧に消したり、手動でテキストに起こしたりすれば回避できなくもないが、そこまでして転載したがる者も少ないのだろう。

そう、 yourletter の投稿は転載されにくい。今さらそんな常識をこうして日記に起こしている理由はたったひとつ。他でもない、ぼく自身が、今まさに yourletter に魂を売ろうとしているからだ。

ぼくは人並みに物書きを目指すしがない学生だ。今のところ何者でもない。特に長い小説や評論を書いたわけでもなく、何かの賞に入ったわけでもなく、商業誌や書籍に載ったこともない。ネットで知名度があるわけでもないし、業界の知り合いがいるわけでもない。つまるところ、何もない。だからぼくは、まず自分がどの程度に書けるのかを知らない。雑誌の署名記事を読んで「こんなもんならぼくでも書ける」と思うこともあるし、ふと目にした blog のエントリに「このレベルのものは一生書けないな」と思うこともある。ただ、この程度の認識で留まっているようでは物書きになることなど無理だろうというのはうすうす気づいていた。ぼくはまず何かの関門を越える必要があったのだ。

そんなとき、お気に入りの blog で記事が上がった。
「ヤター yourletter のアカウント取ったよ!」
ぼくはラブレターを創作することにした。誰もがそうするように。

一度目は、いかにもせっぱ詰まったような誤字含みの悪文で投稿。蹴られた。二度目はケータイ小説の文体を参考に、半角カタカナと記号が乱舞する短文で応募。蹴られた。三度目は古典の恋文を現代風に改変しつつ時事ネタを混ぜて。蹴られた。

申請ページの向こうで、顔のない誰かが笑ったような気がした。

「本気のラブレター書いたこともない奴が小手先のお小説でゲートくぐろうなんて考え甘すぎ。なにこのチンケな作り話。出直せゲラゲラ」

そう言われたような不快感が内から湧いてきて、自分にもこんな感情があったのかと驚かされた。応募したものが箸にも棒にもかからないなんてこと、もう何度も経験していたはずなのに。

四度目、いかにも自意識過剰な文系学生が書きそうな古典からの引用や詩的表現溢れる気持ち悪い長文が蹴られたとき、胸の底がすっと冷えるのを感じた。真冬の寒気を深呼吸したように。 yourletter.com はぼくのプライドをいたく傷つけてくれた。
分かった。本気のラブレターでなければ買ってくれないというのなら、本気のラブレターを売ろう。

押入れの奥を漁る。ひとつのダンボールを開け、中に収められた一回り小さな箱を開く。昔の手紙を集めたものだ。その中に一通だけ切手が貼られていない封筒がある。送られていないからだ。封も切られていない。誰も読んでいないし、読み返す者もいなかったからだ。

中学生の頃に書いた手紙だ。何を書いたかは今でも覚えている。そのあまりの稚拙さに、思い出すだけで指先の神経が過敏になる。正直もう二度と触れたくなかったが、これは既にぼくの心の問題だ。後には退かないと決めたのだ。

もだえ、のたうちまわりながら下手くそな文字をテキストファイルに書き起こし、ローカルに保存して五回通読し、三時間悩んだ末に、送信した。

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審査に通った。早速ログインし、評価が高いラブレターを三つ読んで、ゲラゲラ笑って、それからポイントを贈った。新着ラブレター一覧を見て、自分の投稿が並んでいるのを見た。自分より後に登録されたユーザーのラブレターも読んだ。今度は笑わずにポイントを贈った。笑えなかった。

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あれ以来 yourletter.com にはログインしていない。かといってアカウントを削除してもいない。過去のラブレターを投稿したことを後悔しているわけではないし、他人のラブレターを読んだこと、およびそれを笑ったことも悪いとは思っていない。ではなぜログインしないのかというと、自分でもうまく説明できないが、強いて挙げれば理由がないわけでもない。考えてみれば、ぼくはもともとラブレターが大好きなわけではないのだ。いや、負け惜しみじゃなく。

今はライトノベルの新人賞に送るための小説を書いている。

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