夜明けの雑文書き

2008-12-08Kの話

夏目漱石の「こころ」をライトノベル化しようという試み

02:24


「向上心の無い奴は馬鹿だ」


 楓はさっくりと言いきった。僕はレポートを書き進めるための考えをまとめようと思い、楓の部屋まで訪ねたのにこの言いぐさだ。


「レポートは課題に対する調査結果や考察結果をまとめるためにある。その内容は自分で考えるべきであり、他人である私が口を挟む事はできない。それとも君は自分自身の考えがないのか?それならば、自分の考えがまとめられるように努力するのが本分だろう。一行も書いていないのに他人である私に意見を求めるという事は自分の考えを放棄するということだ。私はそんな奴に自分の考えを教える事はしないし、理解させられるとも思えない」


「だれがレポートの内容をまるまる教えて欲しいとかいったんだ?自分はただ考えをまとめたくて楓に尋ねただけだ」


「ならなおさらだ。尋ねるべき疑問があるという事はおまえはすでに自分の考えがあるということだ。それをわざわざ私に尋ねるという事は自分自身の考えに対して責任を持つ事を放棄するという事だ」


「あぁ、もういいよ自分で考える!」


 楓はおなじアパートに住む同級生の女友達だ。やたらと理屈っぽく、神経質なところがある。それでも楓と僕はおさなじみであり、子供の頃からの親友だった。先ほどのようにやたらと理屈で人を押さえつけようとするところはあるが、性格はサバサバしていて粘着質な所はない。そんなこんなで二人の間には一見すると奇妙な友情関係が続いている。


 そもそも楓が僕とおなじアパートに住んでいるのには理由がある。楓は家元を飛び出してきて住むあてが無いところを僕が拾ってあげたのだ。


 楓の実家は日本の仏教界でも発言力を持つような寺院で檀家の数も数千を超すでかい寺だ。そこで楓は戒律にがっちがちに縛られた生活を送っていたのだが、あるとき父親と大喧嘩をしてしまったのだ。


 喧嘩の内容は味噌汁の具に玉ねぎをいれるか否かと非常に下らない内容だが、楓の玉ねぎもネギであるという説により家族会議が紛糾。ネギの定義と味噌汁におけるネギの存在意義を問い質すにいたり、解決の糸口を見いだせないまま、楓は家を飛び出した。そのときの事を楓はこう語る。


味噌汁における玉ねぎの甘みのハーモニーを理解できない家族は家族ではない」


 僕にはその理屈がいまいち理解できないがともかく、僕は楓の尻に敷かれながらも何とはなしに日常を送っていた。



 僕が楓の部屋を後にして自分の部屋に戻るために通路を歩いていると、後ろから僕を呼ぶ声がした。振り返るとアパートの大家さんがいた。