夜明けの雑文書き

2007-11-06ケモノミチ - 1

ケモノミチ - 1

| 01:17

独白(モノローグ)


私には引きこもりの姉がいる。


何年も前から、会話らしい会話はしたことがない。


以前の姉は学校でも中心人物で、席次も常にトップで、陸上でもインターハイで短距離二位を取るというような典型的な優等生だった。


そんな姉が「堕ちた」。


母親は泣き喚き、家庭は日常を失った。父親はもともと仕事人間だったが、姉が壊れたことで、ますます家から離れていった。


私は、はじめ美しかった姉が壊れてしまったことに人間らしい悲しみを感じていたが、数年間も続いた非日常に感性は鈍ってしまった。


むしろ、この濁った空気を作り出している母親に対する嫌悪感だけがつのった。

母親ははじめ、姉をなだめ、次に怒り、最後に哀願した。しかし彼女の行動を帰ることはできなかった。

母親は姉に依存していた。自分がなすことのできないことを、姉に求めていた。

姉はそれに答えた。妹である私から見ても、姉は好成績であったといえるだろう。

それも今となっては意味の無いことなのだけれども。


私は、姉とは違い、成績は中の下。クラスのランク付けで言えば下のカーストのほうに位置するだろう。文芸部に所属して、ひとまずイラストを描くことが私の趣味だ。

一般的な周辺一般の価値観から言えば、私は塵芥のような誰にも相手にされない人間なのだろう。しかし私はそれでもかまわないと思っている。私自身の価値観があり、それが世間一般の思っている理想像とは違うだけ。


ただそれだけだ。


母親は姉に耽溺していて、私には興味は薄かった。自身の支えを失った母は、自分の理想していた家庭を演じることもやめてしまった。

自然と食事は冷凍食品とインスタントが中心になり、部屋の隅には埃が溜まるようになった。

父ははじめから家には興味がなかったし、ヒステリックな母親にも愛想をつかせていた。

父に対する想い出は、はるか昔に家族でキャンプに行った事ぐらいだろうか。

その頃の家族は確かに幸せだったと思う。今となってはノスタルジーな思い出。思い出というのはそんなものなんだろう。


話を姉に戻そう。


姉は、現在のところ週一回の頻度でカウンセリングに通っている。この街にも精神科を持った病院はあるのだが、母はわざわざ高速道路に乗って四十分以上も離れた場所の総合病院を選んだ。世間体が気になるのだろう。

毎週日曜日になると半日をかけて父が姉を精神病院に運んだ。まぁ、父にしてみればそのほうが都合が良いのだ。

父によると姉の状態は「疲れてしまって、ひとやすみしているんだよ」との事だ。四年間も一言も話さないことが一休みなのかどうなのかは別としても、姉の状態が通常の状態でないことは私でも分かる。しかし父の頑なな態度を見ていると、姉の状態は想像以上に性質の悪いものらしい。

家での姉はトイレ以外は部屋から出てこない。それもこちらの気配を窺いながら、顔を合わさないようにしているようだ。食事はどうしているのか知らないが、夜中に電灯を点けずに食堂で物音がする。それが彼女の食事なのだ。


 私はそんな姉の行動を悲しいと思うが、薄気味悪くてしかたがなかった。

ゲスト



トラックバック - http://neo.g.hatena.ne.jp/yuki_2021/20071106