安寿土牢

2007-06-06

[]返歌・好奇心は猫をも殺す 返歌・好奇心は猫をも殺す - 安寿土牢 を含むブックマーク はてなブックマーク - 返歌・好奇心は猫をも殺す - 安寿土牢

萌え……か」

objectOはタイプする手をとめた。何回目かの思考停止状態を迎える。思考停止はよくない。考えないと、考え続けないと。objectO、思考せよ。しかし彼には萌えがわからない。いくつもの仮説を立てても、どんなに試行を繰り返しても自他共に認める萌えにはたどり着けていない。

呻吟するのには訳がある。京都若冲を見に行っている間に、試行の結果が思わぬ余波を生み出していた。「もしxx-internetとnandが萌えキャラだったら」萌えを理解しようとする遊びの最近の一手。誰かが打ち返してくれるかもしれない、そう思って方向を定めず投げたボールミサイルディフェンス網に引っかかってしまったらしい。

http://q.hatena.ne.jp/1180863895

正直に言うと想定外であった。いつか尾を踏まれた虎が目覚める。そうは思っていたが、それは今日ではなかった。いつか報復核攻撃のボタンが押される。それは今日ではないはずだった。子供の投げたボールが隣の家のガラス戸を割った。謝りにいくと隣の住人が星流れの構え。そのとき子供はどのような顔をするのだろう。今、鏡を見ればそれがわかる。

しかしこれはチャンスかもしれない。血に塗れたこの無残な闘争で何か得るものがあるとするのなら、塹壕が焙られ皮膚が焦がされる戦場に一輪の花が咲くというのなら、それはobjectOが萌えをついに理解するということなのか。objectOは自身が萌えキャラであるという状況下で内側から萌えが理解できるかもしれない。それは一縷の望みであった。そして今その望みすら潰えようとしていた。

やはりobjectOには萌えがわからないのだった。

想念は同じところをぐるぐると回り、回転し、ジャイロ効果によって何処へもいけなくなってしまう。エネルギーは全て無限ループにつぎ込まれ、いまや自分の体を人間形態にとどめておくためのセルフイメージにもリソースが割けなくなってきていた。末端から、つまり手足の指先から、腱や骨が皮膚ごと均一な何かに変質し、表面張力によって凹凸がなくなっていく。そしてついには皮膚の色すら保持できなくなって、objectOは半透明のゲル状の堆積物と化した。

その身体の奥底から泡がぽかりぽかりと浮いて体表で破裂する。泡はobjectOの思考だ。処理しきれなくなった想念が泡という形で脳から漏れている。いや彼の脳ももはや形を持たない同重量のゲルに過ぎない。これは人間思考のやってくるところ、深いイドの底から立ち上る泡なのか。破裂音は連続し、調子の悪いフルートのように聞こえなくもない。眼球を失っているのでobjectOには視認しえないが、思考の泡沫に紛れてなにやら人の形をしたものがゲルの深奥から浮かび上がってきている。

どさり。

ついにそれが体表より外にこぼれ落ちた。その音に、objectOは我に返って頭部をゲルより再構成する。独立してランダムに動く左右の眼球を力ずくで同期させ、物体を見つめる。それは少女の体に見えた。objectOは当惑した。

生命の兆候のない少女の体を放っておいて、objectOがまずしたことは、ゲル状の体をのたうたせて体重計に乗ることだった。体重は減っていなかった。部屋の埃をその身に取り込んで微増しているくらいだ。質量から少女がobjectOの一部でないことはわかった。では少女の体は何処からやってきたのか。少女はアニマではないかと彼は仮説を立てた。だれの?objectOはあの時、集合意識からほとんど距離を持たないところにいた。ならばこれは全ての男のアニマであり、つまりは萌えだ。彼はついに萌えに接近遭遇を果たしたのだ。

さて、これは萌えだろうと推測されるが、理解するにはどうすればよいのだろうか。objectOはまず観察することにした。要素が集中する頭部から。美しいというには少し何かが欠けている。ディテールがぼやけている。数多の理想の総和だからだろうか。髪は短め。目は常人よりいくらか大きいようだ。まぶたが閉じられている。鼻、唇は小さく形がよい。視線を下ろしていく。少しとがり気味の顎、細い首、繊細な鎖骨、小ぶりな乳房、形のよい臍に至るあたりは脂肪が薄い。さらに下がって局部はモザイクモザイク?そう、モザイクとしか言いようがなかった。脳の受像を直接いじくられる感触。いささか恥ずかしい思いをしながら角度を変えてまで観察した結果である。objectOは絶望した。いや、局部を直に見られぬことではなく、その状態をアニマとして持つ一部の男性集合意識に連なる意識体であることを自覚して。

小一時間、ひっくり返したりを繰り返して観察しても一向に萌えに頓悟する気配がない。もうこれは少女と同一になりxx-internetが問う通りの存在になるしか道はないのではないか。しかしどうやって。ひとつになろうとは古来より男女間で交わされる言葉であるが、それが意味する行為はこの場合はおそらく正しくはあるまい。セックスは結局のところ二つの肉体であることを強く自覚させる行為であるから。では、そこからより踏み込んだイメージを求める。

女性がひとつになりたいというときのイメージ。サンプル数1。はてなダイアラー女子。体表を全て覆われるヴィジョン。ゲルの粘度を下げて少女の体を覆いつくす。体表を浸食していく感覚にあわてて実行を中止する。少女解体してしまっては、それは捕食である。

男性がひとつになりたいというときのイメージ。サンプル数1。SF作家。互いの体にもぐりこむ、柱の男の食事に似たヴィジョン。ただし形を失うのはobjectO。重なったところから削り取られていく。彼が徐々に彼でなくなっていく。彼は少女の皮膚と同一になり、腱に取り込まれ、骨に重なる。彼が食べられていく。私は彼を食べる。私は目を開けて私になる。

「で、余った彼で兄さんを作ったの」

「いや、兄はあとから出来たりしないから」

「鉄腕アト」

「そのネタはいいから」

「なんで兄さんなのにβなんだと思う?」

「……」

私は/妹は/微笑む。

http://throw.g.hatena.ne.jp/sasuke8/20070605/p1

2007-05-30

[]……みたいな(萌理賞非応募作品) ……みたいな(萌理賞非応募作品) - 安寿土牢 を含むブックマーク はてなブックマーク - ……みたいな(萌理賞非応募作品) - 安寿土牢

「それってトイレ花子さんみたいな?」

「ちょっと違うかな。名前はないの」

「名前がない七不思議って」

「七不思議としての名前はあるんだけど、その子の名前はないの。誰も知らない」

「座敷童の変種だな」

「そう。それは去勢された男子の願望の産物。あるいは物語を加速するために供される報われない女の子彼女のいない男の子たちの話題にはのぼるけど、彼女が出来ると見えなくなってしまうもの」

「それが……」

「学園七不思議のひとつ、妹みたいな存在

「でも、彼女が出来たからって忘れちゃうってのは酷くない?」

「男なんてそんなもん」

「そうかなぁ」

「そうよ」

「でもほらメーテルとか」

「私はメーテル。あなたの少年の日の心の中にいた青春の日の幻影」

「そうそう」

「あれはねぇ、過去の女を忘れられないのと一緒!性的な意味で相手にされてない妹みたいな子とは違うの!」

「そうかなぁ?」

「そうよ。あ、彼女さん来たよ」

馬鹿、そんなんじゃ……今はまだ……あああ、じゃ、また明日」

「ばいばい」


「さっきの娘、誰?」

「ん?」

「あたしに向かってお辞儀した子。さっきまで君と話してた」

「あの娘は妹みたいな……あれ?……誰のこと?」

「ん?……誰の話だっけ?」


ばいばい。


(非応募理由)

時間切れ&文字数オーバー

2007-03-14

[]かわいいは正義 かわいいは正義 - 安寿土牢 を含むブックマーク はてなブックマーク - かわいいは正義 - 安寿土牢

モニターの中では天使のように美しい子らが戯れている。狭い殺風景な部屋に裸で押し込められた彼女たちはこんな状況下でも明るく活動的だ。カメラが見つめていることを知っているのだから。

「では本当にこれがPKD6型なのか」

「そうです」

男は赤い釦を押す。この釦は赤くなければならないと男は思っていた。釦は重かった。

壁のノズルから炎が噴出して少女たちに炎が迫る。緑の黒髪や豊かなブロンドがちりちりと焼けていく。悲鳴は聞こえない。マイクを設置していないからだ。

「通常の処理より火力は下げてあります。この程度では死にません。そこがカーペンター8型との決定的な違いです」

「しかし……苦しんでいるじゃないか」

「擬態です。人間ではありません。では火力を上げていきます」

聞こえない悲鳴をあげる少女たちの手足がありえない角度に折れ曲がりはじめる。炭化した手足がぼそぼそと崩れ落ちる。断面からは失われた手足を再生しようと組織が増殖をはじめるが、高熱で泡立ってしまう。腹が縦に裂け、名状しがたい器官が飛び出し、これも瞬く間に炎に包まれ炭になっていく。

「お解りいただけましたか。通常では最初からこの火力なので彼らは苦痛を擬態する暇も与えられません」

「では苦しまずに死んでいけるのだな」

「……おそらくは」

男の表情が、ほんの僅かだが歪んだ。

「解った」

席を立ったあと一度だけ振り向く。

「それと……すまなかった。もう君らを煩わすようなことにはならない。約束しよう」


ドアを開けると真理子が飛び出してきた。私の足音が聞こえたのだろう。私は彼女を抱きとめる。

「いい子にしてたかい」

うんと頷く。この子は本当に真理子にそっくりだ。

「じゃあ、ご飯にして、そのあとで本を読んであげよう」

真理子は食事をしない。いつも私が食べている姿を微笑みながら眺めている。それが家畜の肥る様を見ているようであろうが、それにとって感情の伴わない擬態であろうが、私にはどうでもいい。ただ、この子の最初の食事だけは、増殖だけは私の命と引き換えにしてでも阻止しなければならない。私が神経をすり減らせて真理子以外のシミュラクラ狩りに努めているのは、この子に安らぎを得ているこの愚かな私に、ほんの少しだけ残されている人類への忠誠の為だ。

「『ニックとグリマング』、どこまで読んだっけな」

一緒にページをめくるこの笑顔が見れる日々もそう残されてはいまい。


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モニターの中では天使のように美しい子らが戯れている。狭い殺風景な部屋に裸で押し込められた彼女たちはこんな状況下でも明るく活動的だ。はたしてカメラが見つめていることを知っているのだろうか。

「では本当にこれがPKD6型なのか」

「そうです」

男は赤い釦を押す。

壁のノズルから炎が噴出して少女たちに炎が迫る。柔らかな白い肌が焙られ炭化していく。悲鳴が聞こえない。ここにスピーカーはないのだ。

「通常の処理より火力は下げてあります。この程度では死にません。そこがカーペンター8型との決定的な違いです」

「しかし……苦しんでいるじゃないか」

「擬態です。人間ではありません。では火力を上げていきます」

悲鳴をあげる少女たちの手足がありえない角度に折れ曲がりはじめる。炭化した手足がぼそぼそと崩れ落ちる。傷口からはぶくぶくと白い粘液が噴出す。腹が縦に裂け、名状しがたい器官が飛び出し、瞬く間に炎に包まれ炭になっていく。

「お解りいただけましたか。通常では最初からこの火力なので彼らは苦痛を擬態する暇も与えられません」

「では苦しまずに死んでいけるのだな」

「……おそらくは」

会ったときからいささかも動ずることのなかった男の表情が、注意していなければ判らない程にほんの僅かだが、歪んだ。

「解った」

席を立ったあと一度だけ振り向く。

「それと……すまなかった。もう君らを煩わすようなことにはならない。約束しよう」


ドアを開けて暗い室内に明かりをともす。檻の中の少女はこちらを振り返って微笑む。どんなめにあわされようともその微笑みは翳ることはない。それが生存のために編み出された擬態であるから。だが私にはそれで十分だ。少し離れたテーブルに足が向かうのを見ても彼女の表情に変化はない。表情を変えたところで私の行為に変化はない。私は彼女の種族が適応した被捕食者のパターンから逸脱しているのだ。私に彼女の生存戦略は効かない。彼女は他の固体に見られるような複雑な反応を示さなくなった。モニターの中にいた美しい生き物は、その年頃の子供に許されたあらゆる表情をしていた。私の少女笑顔バリエーションがない。このタフな生き物を、私はそこまで壊すことができたのだろうか。悦びの予感に手が震える。

「お前は通常の火力では死んだりしないそうだ。明日はバーナーを買ってきてあげよう」

私はテーブルの上の赤い粘液に塗れたドリルを手に取る。

objectOobjectO2007/03/14 15:46ホワイトデー記念。